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第9話 8

 再び王都と遠視盤を繋ぐと、すでにソフィアはコラーボ婆とユメを連れてきていた。


『状況はソフィー嬢ちゃんから聞いたよ。

 星砕きが使われたようだね?

 城からも光の柱が昇るのが見えたよ』


「ああ。今は領都に儀式結界を張らせているが。

 ――地面にあんなでかい穴を空けるモン、耐えられるかわからん」


『そうそう連発できるものでもないはずだから、そこは安心するんだね』


 コラーボ婆の言葉に、俺はひとまず安堵する。


「だが墜とそうにも、サイズがでかすぎてどう攻めたら良いかわからねえんだ。

 ――コラーボ婆、なにか良い案はないか?」


『ありゃ、あの人が竜砲使っても表面に傷つけるくらいしかできなかったシロモンだしねぇ。

 しかもナノマテリアル構造体だから、周辺物質を取り込んで自己再生までする』


 コラーボ婆の言葉に、俺は髪を顔をしかめる。


「――初代でもそれか? お手上げじゃねえか。

 そもそもコラーボ婆達がアレの中に入った時は、どうやって入ったんだ?

 入り口が開いてたのか?」


 途端、コラーボ婆は苦笑する。


『……あの人も二重神器使いだったからね』


 その言葉でピンときた。


「――<紅輝宝剣(アーク・スカーレット)>か!」


『ああ、<王騎>との並列喚起で手近なトコをドカンとね。

 さすがの星船もあれには耐えられなかったよ。

 あの人と同じ二重神器使いのあんたがそこにいるのも、巡り合わせだね』


 と、そこでコラーボ婆の肩にユメが手を置く。


『違うよ。コラちゃん。

 神器使いだからこそ、そういう場に居合わせちゃうんだよ』


 またユメが不思議ちゃんな事を言いだしたぞ。


 とりあえずユメは無視して、俺は頭を巡らせる。


 攻撃手段の目処は立った。


 あとはどうやって接近するか、という点か。


『――殿下、この度は愚息が真に申し訳ありませんでした……』


 そこでロイドに連れられて、遠視盤の映像にフォルト子爵が映り込み、深々と頭を下げた。


 彼は頑固者ではあるが愚かではない。


 宮廷魔道士として自分の仕事や知識に誇りがあるからこそ、リステロ宮廷魔道士長とぶつかり合う事も多々あるけれど。


 それでも間違いは間違いと正しく認められる潔さも持ち合わせた人物だ。


「――子爵、俺とソフィアはフォルト……ヘリオルツの行動は国盗りが目的と考えているんだが……」


『恐らくはそうでしょう。ローデリアから帰ってきたアイツは、すっかり人が変わってしまったのです』


 ローデリアというのは、中原最西域にある国の名前で、ローデリア神聖帝国というのが正式名称だ。


 学園卒業後、ヘリオルツは彼の国に留学していたのだという。


 帰国後の教師となった彼しか知らない俺としては、人が変わってしまったという言葉にいまいちピンと来ない。


 俺の知っているヤツは、いつも上位貴族の令息令嬢にネチネチとイヤミったらしい説教を垂れる、嫌なヤツという印象だった。


 政務に携わるようになって、ヤツの親父だというフォルト子爵を紹介された時は、目と耳を疑ったもんだ。


 性格がまるで似てねえんだもん。


「……人が変わったねぇ。

 ユメ、()()()()だと思うか?」


 思い当たるのは、パルドスのキムジュンだ。


 アイツのように外なる者に憑かれている可能性を考えたのだが。


「それは無いかなぁ。

 アイツらにとって、古代遺物なんて骨董品かガラクタって認識だもん。

 国が欲しいならもっと別の方法を選ぶはずだよ」


 と、ユメは首を横に振る。


 結局は本人をとっ捕まえて、問いただすしかないようだ。


『カイ坊、星船を破壊する方法までは、わたしにもわからないけどね。

 あれは太古の昔、冥府の技術で造られた船だ。

 神器や兵器と違って動力源があるはずなんだ』


 ――冥府。


 この世の果てにあるとサティリア教会が伝える、死者の世界だ。


 そこでは日々、この世界を滅ぼそうとする敵との戦いが繰り広げられているのだという。


「つまりそこを潰せば、あの船は止められる?」


『わたしの記憶が確かならね。

 アレ系はソーサルリアクター式じゃなく、ロジカルドライブ式で稼働していたはずだからね』


 でたよ!


 コラーボ婆の謎用語!


 最近、薄々思ってたんだけどさ、この世界って大昔は実は地球より進んだ技術があったんじゃねえの?


 魔法や兵騎なんかも、コラーボ婆の話を聞くと、ファンタジーより科学的な――SF的な印象を受ける時があるんだよな。


 まあ、今はそれは脇に置こう。


『あとは稼働時に権限者登録が成されてるはずだから、それを抑えてしまうという手もあるんだが……』


「それがヘリオルツだと?」


『いや、冥府の兵器は血統認証が原則なはずだよ。

 基本は死者が扱う前提のものだから、血によって確認を行うのさ。

 恐らくはミルドニアの姫さんを権限者にしているはず……』


「なんでそんな事言いきれるんだ?」


 俺が首を捻ると、コラーボ婆は顔をしかめた。


『不勉強だね、カイ坊。

 同盟国の興りくらい覚えとくもんだよ』


「俺、そういうのはソフィアに任せてるんだ」



 胸を張ると、映像の隅でソフィアが額に手を当てて嘆息するのが見えた。


『あの国の始祖は、冥府に繋がるとされるレイテ大河から流れてきた闘士だよ』


「――ああ! 漆黒の狼剣士!」


 中原に広く伝わるおとぎ話だ。


 あれ、ミルドニアの始祖の話だったのか。


 ある日、大河のほとりに流れ着いた狼面を着けた剣士が、助けた部族長の娘の為に、時には魔物を倒し、時には他部族との戦に奮迅し、やがて周辺部族をまとめ上げて王となる物語だ。


 俺は子供の頃からこの英雄譚が大好きで、<狼騎>のモデルにしたほどだ。


「つまり、コラーボ婆はリリーシャ姫が冥府の闘士の血を引いているから、星船を稼働させられたって言いたいんだな?」


『状況的にそれ意外は考えられないね。

 姫さんがそれに気づけば、星船の制御も掌握できるのだろうが……』


「そんな都合良くいくものかねぇ」


 ぼやく俺に、ユメが画面いっぱいに顔を寄せて人差し指を立てる。


『――オレア君、ひとつ良い事を教えてあげるよ』


「おまえ、本当に空気読めよ。

 この切羽詰まった状況で、なんでそんな笑顔なんだよ」


『それはね、君がそこにいるからだよ。

 サヨちゃんから聞いてない?

 神器や魔法、大きな力が関わると、起きやすいという自然現象』


 あー、なんか言ってたな。なんだっけ。


『そこには神器がふたつと、古代の超兵器なんてものまであるんだよ?

 起きないわけがないんだよ』


 むふふとユメは微笑み。


『――大丈夫だよ。世界は君の味方をしてくれる。

 普段トラブルに巻き込まれやすい分、危機には幸運度が一気に傾く。

 神器使いっていうのはそうなるようになってるんだよね』


「――思い出した! ご都合主義!」


『正解! さあ、オレア君! ガツンとやってみようか!』


 ユメが画面の中で拳を突き出し、俺は苦笑する。


 微塵も根拠のないような言葉だったけれど、不思議となんとかなりそうな気持ちになってくる。


「クソ! 信じるからな!? 

 やるしかねえんだ! やるだけやってやる!

 ――失敗しても恨むなよ!」


 接近方法も、フォルト子爵を見て、ひとつ思いついた。


 俺は連れてきた魔道士達を呼び出し、作戦の検討に入る。

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