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第8話 8

 その後、ホツマの宮廷魔道士にホルテッサまで送ってもらった俺は、執務室にソフィアを呼んで、ホツマで見てきたものを語って聞かせた。


「――要するにサヨ陛下が俺に教えたかった事って、苛烈であってもやるなら禍根なく、短期間で徹底的にって事だと思うんだよな」


 王とは、それだけの権限をもって君臨している。


 俺はまだ王太子ではあるが、権限のほとんどは父上から譲り受けているのだから、それを自覚すべきだったのだろう。


「ソフィア。暗部をもっとでかくする必要がある。

 いずれ議会制をと望むなら、貴族だけじゃなく、民に対する耳目も必要になってくるはずだ。

 俺とお前の直轄で情報を統合管理できる機関が必要だ」


 俺がそう告げると、ソフィアは珍しく驚いた顔を見せた。


「ちょうどシンシア様とエリス様が、そんな申し出をしてきていたのよ」


 ソフィアが言うには。


 古式魔法をサヨ陛下に教わった際、二人は陛下に提案されたのだという。


「いずれあなたには、民の声を広く吸い上げる耳目が必要になるってね。

 そうなった時に、民に人気の歌い手と踊り手の二人なら、周囲に溶け込んでそれが行えると考えたのね」


「それ、二人は受けたってのか?」


「ええ。ホツマへの留学も古式魔法を学ぶ為という理由が半分、もう半分はホルテッサでは学べない、女性用の魔道武術を学ぶ為だそうよ」


 知らない間に、二人がどんどん高みを目指して進み始めている。


「元々、国外での諜報力が暗部だけでは手が足りなかったから、機関の発足は準備していたの」


 当面はフランの父親のリグノー男爵に機関長を務めてもらって地盤固めを行い、有能な者へと引き継いだ後は、暗部は機関の監査役を務めるのだという。


「わかった。それで進めてくれ」


 俺はフランが淹れてくれたコーヒーをすすり、一息を吐く。


「――それで? 先の展望はそれで良いとして、直近の問題はどうする?」


 と、不意にかけられた声に驚いて背後を見れば、俺が座るソファの背もたれに頬杖を突いたサヨ陛下。


 俺は驚きつつも、この方ならば距離や場所など、なんの障害にもなりえないのだと思い出して、頷いて見せる。


「ご教授された事はしっかり活かさせて頂きます。

 ――ソフィア。明日、サヨ陛下から預かった貴族達を呼び出してくれ」


 ソフィアは頷いて、準備の為に部屋を出ていく。


 残された俺は、サヨ陛下に手ずからコーヒーを勧め、陛下はそれをすする。


「……ひとつ言っておくが、命を奪うのが正解と言う訳ではないからの

 ガンス達の場合、ああするしかなかったというだけの話だ」


 サヨ陛下の言葉に、俺はうなずく。


「わかってます。俺やあなたのような、国を背負う者は(まつりごと)に携わる者をもまた、民として慈しまなくてはならない」


「そうだ。だが腐った手足を放置すれば、頭まで腐ってしまう。

 時には自ら汚名を被ってでも斬り捨てなければいけないのだ。

 その見極めこそが、我らが生涯、自らに問いかけ続けなければならない命題と心得よ」


 俺達、王族は正義に酔う事なく、時として悪と罵られようと、国を民を守り支えていかなければならない。


 俺はこの方から、それを教わった。


「――だが、それに心が折れそうと感じた時は周囲を頼るが良い。

 そなたはきっとそなたが思う以上に、周りに支えられておるはずだ」


 サヨ陛下はそう告げて優しく微笑み。


「それでもキツく感じたなら、我を頼れ。

 我はそなたを気に入っておるからの。

 知恵を貸すでも、愚痴を聞くでも、泣き言を聞かされるでもしてみせようぞ」


 日中、あれほど周囲に恐怖をもたらした人物とは思えないほどの、慈愛に満ちた微笑み。


 俺に足りないのは、そういう部分なのかもしれない。


 暴君を自認しながら、まだまだ俺には至れない領域に、サヨ陛下は立っているんだ。


「――それで、具体的にどう処罰するつもりだ?」


「家を取り潰し、一族郎党すべて東部の開拓地送りにしようかと。

 いずれ功績を出せば再興も認めるとして。

 ――甘いでしょうか?」


 俺の問いかけに、サヨ陛下は苦笑して首を振る。


「汚職の見せしめだ。その辺りが妥当であろうさ。

 やり直しの機会を与えるだけ、本人らへの救いはあろうよ。

 そして貴族達にとっては、平民に落とされて王都や領を追われるのだ。

 十分な恐怖となるであろうの」


 サヨ陛下の太鼓判を頂き、俺は安堵する。


 戦や謀反、売国以外では、なるべくならば人死には避けたいところだ。


 そんな俺の内心を読み取ったように、サヨ陛下はソファに立ち上がって、俺の頭を撫でる。


「進んで我のようになる必要はない。

 オレア殿にはオレア殿のやり方があろうさ。

 なんのかんので我も長く生きておるからの。

 こういうのばかりは経験せねば身につかん」


 そうしてサヨ陛下は俺に寂しげに微笑み。


「我は先の大戦において、父である先代魔王を(しい)しておる」


 それは連合軍の中でも限られた、ごく一部の王族のみに伝えられている事実だ。


 大戦の激化に憂えたサヨ陛下は、それでも戦争の継続を望む先代魔王を止める為、終戦後の民の安寧と引き換えに、勇者パーティに助力した。


 俺のような小僧が、彼女の気持ちを推し量る事はできないが、きっと恐ろしく悩んだ事だけは想像できる。


「あの大戦を生き残った者達にはそれなりに知られておっての。

 だから、我はその恐怖をもって、連中を統治しておるのよ」


 サヨ陛下は俺の方を握り、笑みを浮かべる。


「悩み続けよ。オレア殿。

 それこそが王たる者の糧となる。

 悩み、あがく事をやめた時こそが、王者の死と心得よ」


「――はい!」


 俺は学生に戻った気分で、声に出して返事する。


 この方との出会いに感謝しよう。


 失くした魔法を取り戻してくれただけじゃない。


 この方は俺に王としての道すら示してくれたんだ。


 パルドスに奪われていた領地を取り戻せたという理由もあるだろうけれど、それ以上の見返りを、俺は確かに受け取ったように思う。


 目指すべき暴君として、俺はこの幼い見た目をした魔王を尊敬しようと決めたんだ。


 ――そう、心から。


 この方といつか並び立てるようになろうと。


 俺はそう心に決めた。

 これで8話が終了となります。

 如何でしたでしょうか?

 魔王陛下に関しては、一部を書いてた時から出そうと考えていたのですが、当初の予定では三部になってからの予定でした。

 けれど、そうなると二部のラストで殿下のメンタルが保たないと気付き、急遽二部でのご登場となりました。

 二部の前半三話は殿下の精神的成長を促す為のエピソードとなります。

 明日から始まる9話では、ずっと放置されていたあの人がメインとなります。

 どうぞお楽しみに。


 ご意見、ご感想、お待ちしております。

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 どうぞ、引き続きのお付き合いをよろしくお願い致します。

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