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第6話 10

 あー、ロイドに殴られた頬が痛え。


 こっからは半分は八つ当たりみたいなもんだ。


 俺はクレアに向かって歩いていく。


 フランの過去から続く想いの丈を聞いた翌日、俺はロイドに聞いてみたんだ。


 ――おまえ、好きな人いるの、と。


 俺は空気なんて読まないからな。


 そしたらフランから聞いた話の、ロイド視点を聞かされるハメになったわけで。


 その時に、ロイドがフランが『図書館の主』だと気づいている事も知らされた。


 今回、ロイドがパーティーにフランを誘ったのは、告白する目的がひとつ。


 もうひとつが、あの糞女が理由だ。


 親父が死んで女子爵となったあの女は、婿を探し求めた。


 そんな婿候補のひとりとして、ロイドもアタックをかけられていて、何度も手紙を送られて困っていたのだという。


 そこではっきりと断るために、このパーティーに出席しようと考えたわけだ。


 その段階では、ロイドはフランに告白するつもりはなくて、あくまでパーティーに出席するための臨時パートナーと考えていたようだが。


 俺、煽ってやったもんね。


 ――おまえがはっきりしないなら、俺のモノにしてしまうぞってね。


 だから、フランが泣いてるのを見て、ロイドはブチ切れたわけだ。


「あら、殿下じゃありませんか」


 歩み寄ってくる俺に気づいて、クレアは顔を綻ばせる。


「殿下もわたしをお誘いで? みなさまに好かれてしまって、わたし困ってしまいます」


 その言葉に、俺は前世の記憶を刺激されてムカついた。


 死ぬ原因となったあの女と言い、なんでこの手の女は自分が問答無用で、誰からも愛されていると信じられるんだ?


「その糞ったれな口を閉じろ……」


 わかっている。


 完全に八つ当たりだ。


 だが、この女が居なければ、五年前にフラン姉とロイドが引き裂かれることもなかったし、今も俺がロイドに殴られる事もなかった。


 そう思うと、ムカつきが止められねえんだ。


 俺はクレアの頭を鷲掴みにして、力を込める。アイアンクローってやつだ。


「いたっ! いたたた――殿下! 痛いです! なにをなさるのですか!?」


「おい、ストーカー女! 今すぐ回れ右してロイドを諦めるのと、ここで俺に頭を握りつぶされる方、好きな方を選べ」


「な、なんでこんな事をなさるのですかっ!?」


 なんでこんな事をするのかだ?


「胸に手を当てて考えてみろ。

 ――察しろ、考えろ、感じろってな。

 おまえら女は得意なんだろう?」


 実はこの女、今回の件で調べてみたら、とんでもねえ事やってやがった。


「わ、わかりません! なんの事ですか!」


 俺はクレアを掴んだ腕を振って、彼女を引き摺り倒す。


 俺は正しい意味でなら、男女平等(フェミニズム)大歓迎な男だ。


「おまえ、婿探しの為に財産使い潰しただけじゃ飽き足らず、国に黙って税率上げてるだろう?」


 そして国に納める税は例年通り。差分をちょろまかしてやがったんだ。


「な、なんでそれを!」


「国を舐めんなよ? いくらでも調べはつけられるんだよ」


 ソフィアに頼んだら、リグノー男爵がたった一日で調べてくれたそうだ。


 あのおっさん、本当にすげえよな。


「いまならスタインバーグ家の残った財産で補填すれば、超過徴収分を民に返却できるはずだ。

 イヤというなら……」


 取り潰して別の貴族を領に回すだけだ。


「は、はい! わかりました!」


 クレアはガクガクうなずいて、あとずさる。


「のちに代官を送る。当面はおまえの領の運営権は剥奪だ。代官からよく学べ」


 これで男にかまける金も時間もなくなるだろう。


 逃げるようにして去っていくクレアを見送り、俺はテラスからフランとロイドを見下ろす。


 ふたりは手を繋いで俺を見上げて、そろって臣下の礼を取った。


 その姿がひどく眩しく思えて。


 俺はテラスからホールへと踵を返した。

 




 翌日。


「――それで急にスタインバーグ家なんて、末端貴族の状況を調べさせてたのね」


 ソファに腰掛け、カレー皿片手にソフィアが言う。


「それにしても、ずいぶん派手に殴られたものねぇ」


 そう思うよな? めっちゃ腫れてるんだぜ、コレ。


 よく歯が折れなかったものだ。


 俺は氷嚢で頬を抑えながらうなずく。


 向かいのソファに座ったロイドとフランは恐縮して身を縮こまらせた。


「まあ、気にするな。女の為なら王族だって殴れる根性、俺は嫌いじゃない」


 もともと俺が煽ったのが原因だしな。


 殴られるくらいの覚悟もあった。


 ……ここまで腫れるとは思わなかったけどな。


「それにしても、あなたが二人の間を取り持つなんてねぇ」


 ニヤニヤ笑うソフィアに、俺は不貞腐れたように顔をそむける。


「そりゃあな。大事な姉貴分の想い人だし、それが気に入ってる部下となれば、ちょっとくらい頑張ろうって思うもんだろ?

 まして互いに勘違いして五年も拗らせてるんだ。

 なんとかしてやりたいと思うだろ?」


 俺の言葉に、今度はフランがニヤニヤしだした。


「だ、そうですよ。お嬢様?」


「な、なんの事かわからないわね。

 ――そ、それよりロイド殿!」


 ソフィアは急に扇を広げて顔を隠して、ロイドを呼ぶ。


「フランはわたしの姉みたいなものでもあります。

 本当に大事にしてあげてくださいね」


「女神サティリアに誓って、幸せにします!」


 女神サティリアは生と死を司る神であり、そこから転じて出産に繋がる婚姻の女神としても崇められている。


 生真面目なロイドらしい誓いだ。


「ところでソフィア。おまえ、良いもの食ってるな」


 昨日、結局、俺はカレーを食べ逃したんだよ。


「これ、本当においしいわね。クセになるわ」


「俺にもよこせよ」


「いやよ! 厨房に行きなさいよ!」


 こいつ、身体をそむけてまで皿を庇いやがる。


「すっかり前の感じに戻られて……良かったのか悪かったのか……」


 フランが目元をハンカチで押さえながら、なにか嘆いている。


「――呼ばれた気がしたぁっ!」


 バーンとドアが開かれて、レプリケーターを小脇に抱えたユメがやってくる。


「カレーを求める者あらば、与えてみせよう、ユメ参上!」


 謎の決め台詞を言い放ち、ユメはレプリケーターでカレーを出して、俺達に配っていく。


「うわ、これ、辛いけど本当に旨いですね。クセになりそうです」


「商売にもできそうですね。お米だけじゃなく、パンにも合いそう」


 ユメは俺達に水の入ったグラスを配りながら、うんうんとうなずく。


「カレーは万能食だからね。これを広めるのがわたしの使命なんだよ!」


 おまえ、前は別の事言ってなかったか?


 しかしまあ……


 顔を寄せ合って、笑顔でカレーの感想を言い合うフランとロイドを見ながら、俺は笑みが浮かぶのを押さえられない。


 ――本当によかったな。フラン姉。


 これからの二人を想って、俺は心から祝福した。

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