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第5話 7

 ソフィアお嬢様がキムジュン王子に連れ去られた噂は、すぐさま城内はおろか、王都中を駆け巡った。


 正確には目撃者を探す為、わたし達、暗部があえて噂を流したのだけれど。


「それで、フラン。ソフィア様はどういう状況で連れ去られたのです?」


 王城のソフィアお嬢様の執務室。


 ソフィアお嬢様を心配して集まった、三人のご令嬢の中から、シンシア様が切り出す。


「キムジュン王子が昨晩、ソフィアお嬢様の寝室に押し入ったようです。

 元々、そういう計画だったのか、長距離転移陣のスクロールの燃えカスが見つかっています。

 ――移動先は不明」


「そんな……」


 エリス様が両手で顔を覆って泣き崩れる。


「現在、我が家の者だけでなく、王城の兵も使って捜索している所です」


 わたしの言葉に、うつむいていたジュリア様が、意を決したように顔をあげる。


「ボク達にできる事はありませんか?

 ――あの時、ソフィア様はボクを助ける為に身を挺して下さいました」


 ……この方は。


 ご自身が辱められていたあの状況にあってさえ、お嬢様の真意に気づいてくださったのか。


 あのへたれに見習わせたい。


「現在、会議室では殿下や大臣、将軍達が会議中です。

 ホルテッサの<叡智の至宝>たるお嬢様に手を出したのです。

 いかに殿下がへたれ――失礼。温厚であっても、今回は踏み切るでしょうね」


 わたしは令嬢方を見回し、ひとつうなずいて見せる。


「皆様には、それぞれ頼みたい事があるのです」


 わたしの言葉に、彼女達は即座にうなずいてくれる。


「わたくし達で、できる事であれば!」


「わたしもです! ご恩のあるソフィア様の為、お手伝いさせてください!


 エリス様が涙をこぼしながら顔をあげる。


「ボクは戦う事しかできないけれど……やれる事はなんでもするよ」


 ジュリア様もまた拳を握りしめてうなずいた。


「それでは――」


 わたしは今朝、殿下に告げられた事を彼女達に伝える。


「――わかりましたわ。すぐに取り掛かります。


 行きますよ。エリス。準備を急がなくては……」


「ボクも騎士団回ってくる!

 これでも<銀狼姫>らしいからね。最大限にその名を使わせてもらうよ」


 わたしは慌ただしく去っていく三人を、お辞儀して見送る。


「――本当に、殿下とソフィア様は慕われてらっしゃるのですね」


 と、隣室のドアが開いて、セリスが部屋に入ってくる。


「お待たせして申し訳ありません」


「いいえ。わたしは彼女達と席を共にする資格は、もうありませんから」


 三人のご令嬢が出ていったドアを眩しそうに見つめ、セリスは告げる。


 彼女にソファを勧め、お茶の用意をしていると。


「隣で聞いておりましたが、殿下はご本気で?」


 セリスがわたしを見透かすように目を細めて訊いてきた。


「他の事なら、なんだかんだと理由を付けて、落とし処を見つけたのでしょうが。

 今回はソフィアお嬢様ですから」


 わたしの言葉に、セリスは寂しげな、それでいて苦笑のような、複雑な表情を浮かべた。


「……本当に羨ましい。

 なぜ、お二人は結婚――いえ、せめて婚約だけでもなさらないのかしら?」


「お互い、御家を背負ってますしねぇ」


「そんなの建前でしょう?」


 わたしが差し出したカップに手をつけ、セリスは問う。


 長く二人の間に居た彼女だ。


「片やへたれ。片や乙女を拗らせた臆病者。

 ――わかっていて訊いてるでしょう?」


「フフ。あなたも苦労するわね」


「わたしもあなたと一緒で、あの二人とは長い付き合いですからね。

 もう諦めもついてるってもんですよ」


 わたしが肩を竦めると、彼女はうなずいて紅茶を飲んだ。


「まったく、巻き込まれる者の気持ちも考えて欲しいものだわ」


 そう言って微笑むセリス――様は、かつて王太子妃候補として、教育を受けていた時を思い出させる凛とした表情で、わたしを見つめた。


「フラン。殿下の思惑は理解しました。

 わたしはサティリア教会の聖女として、その肩書を総動員してご協力差し上げる、と殿下にお伝えくださいますか?」


「よろしいのですか?」


「今こそ、殿下とソフィア様に報いる時だと、そう思うのです」


「――ありがとうございますっ!」


 わたしが頭を下げると、セリス様は労うようにわたしの肩を叩き。


「わたしも準備の為に大聖堂に戻ります。あなたには苦労をかけますが……

 ――わたし達の分まで、あのへたれのお尻を叩いてあげてくださいね」


「任せておいてください!」


 そうして去っていくセリス様を見送り、わたしは拳を握りしめる。


 こっちの準備は整った。


 さあ、へたれ。


 今度はアンタが頑張る番よ。

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