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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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第22話 29

 公城の遥か上空で、真紅の輝きを手に<王騎>が飛翔する。


 わたしはヴァルトの<護陵騎>の手の上で、魔法で視力を強化してそれを見上げていた。


「……あれがホルテッサに伝わる一対の神器――テンペストかい」


 そんな声に下方に視線を下ろせば、<護陵騎>の足元で手でひさしを作って上空を見上げる白髪の美女――エイダ様の姿があった。


「ホントにロジカル・ウェポンが飛んでるよ。

 アレは竜の羽根かい?」


 と、エイダ様は視線をわたしに向けると、そう訊ねてくる。


「は、はい。我が国の守護竜と彼女が<旅行者>と呼ぶ者とで、改造を施したそうでして」


 エイダ様のその紅い目がすっと細められる。


「……なるほどねぇ。噂を聞いた時には、あの脳筋の小娘がどうやってと思ったものだが、<旅行者>が関わってたのかい。

 道理で見た事のない刻印が刻まれてるわけだよ」


 西の魔王とも謳われる大貴属であるエイダ様には、あの速さで飛び交う<王騎>の翼の刻印でさえ、はっきりと認識できているのね。


「……重力制御……いや、慣性力場(ベクトル・フィールド)を形成して、指向性を制御しとるのかね? 落ち続ける事によって、擬似的に飛行を再現している? だが、それだとあの刻印が無意味になるし……」


 ブツブツと呟いたエイダ様は、髪を掻き上げて、深々とため息。


「――わからんっ!」


 そう言い放つと、ケタケタと声をあげて笑い出したわ。


「すごいねぇ。中原の魔道はあらかた知ったつもりになってはいたが、まるで理屈がわからん!

 いや、そもそもの話だ。あのロジカル・ウェポンは《《竜の羽根を移植なんてされて、なぜ拒絶反応を起こさんのだ?》》」


 上空で、<王騎>が紅刀を掲げる。


 その刀身が輝き、長大な光刃が伸びて。


『――輝け(唄え)っ! 暴虐紅輝(アーク・テンペスト)オォォォォッ!!』


 <王騎>と<宝剣>の並列喚起による一撃は、異形となったジルドリウスの<神像(フィギュア)>を捉え、真紅の閃光の中に消し去る。


 あとに残されたのは、二メートルほどの大きさの、無数のパイプを(いびつ)に組み合わせて作ったような鉛色の球体で。


「――<騒臓(ノイジィ・オルガン)>だけ残したのかいっ? あの坊や、なにをするつもりだい?」


 エイダ様が不思議そうに呟く。


「恐らくですが……」


 <騒臓(ノイジィ・オルガン)>というのは、あの歪な球体の事なのでしょう。


 ほのかに深紅の脈動を見せて浮かぶそれを前に、カイは遠話器に叫ぶ。


『――ユメっ! ユメっ! 応答してくれっ!』


 彼女を呼ぶということは、やっぱりそうなのね。


 わたしはエイダ様に顔を向けて、苦笑を浮かべる。


「……殿下は<亜神>と化したジルドリウスを、人の身に取り還そうとしているのですわ」


 王族として、王太子として、カイは優しすぎるのだと思う。


 敵対したり、裏切った者を切り捨てることなく、それでもなお『人は変われるんだ』と信じ続けて。


 そんな彼だから、異形と化したキムジュンを滅ぼし、パルドスを内戦に追い込んだ後も、王都で背任に走った貴族、官僚を粛清した後も……夜、眠れずにいた事を、わたしは彼の護衛をしている<暗部>から報告を受けて知っているわ。


 悪夢にうなされて夜中に目を覚まして嘔吐し、気を紛らわせるように夜番の騎士達に混じって鍛錬に打ち込んで。


 そう、ここ一年、カイががむしゃらに鍛錬に打ち込んでいたのは、言ってしまえば逃避の手段なのよ。


 クタクタに疲れ果ててしまえば、悪夢にうなされることもないものね。


 わたしは……それを知っても、どうしてあげる事もできなくて……


 けれど、国内視察から帰ってきたカイは、あれほどまでに鍛錬をしなくても、自然に眠られるようになっていたわ。


 ……それはきっと――セリス様と和解できた事と、<亜神>と化して本来は消滅するはずだったミレディを救い出し、ラインドルフの心をも救えた事が、カイの心境に変化を与えたのだと思うわ。


「――<亜神>を……ヒトに還すだって!?」


 エイダ様が驚きに目を見開く。


「ええ。前例があるのです」


 わたしがそう応えると、エイダ様は地を蹴って<護陵騎>の手に飛び乗り、わたしにその身を寄せてきた。


「――詳しく聞かせな」


 声を抑えて、そう訊いてくる。


『――ユメっ! クソっ! あいつ、いらん時にはいきなり顔出すクセに!』


 その間も、カイの焦ったような声が遠話器から聞こえてくる。


「え、ええと……三つの神器――<王騎>と<宝剣>、それに先程挙げました<旅行者>が持つ<宝珠>による並列喚起によって、<亜神>と素体となった者を切り離したそうで……」


 わたしはカイの声に気を取られながら、手短にそう応えた。


「三つの神器の並列喚起? 母様が言ってたな……昔出会った異界の魔女に、そんな使い方があると教えられたと……九条結界とかなんとか……」


 形の良いアゴに手を這わせて、再び呟き始めるエイダ様をよそに、わたしは上空の<王騎>を見上げる。


 カイがしようとしている事はわかったわ。


 けれど、肝心のユメさんに連絡がつかない。


 あの掴みどころのない少女もまた、今回の外遊に同行して来ているのだけれど、公都に着いてからというもの、コラーボお祖母様の分体――ミニコラと一緒に、よく行方をくらませていた。


 調べたい事があるとフランに言ってたそうだけど、その内容は内緒だとか。


 未来視の魔眼を持つ彼女は、独自の理由(ルール)で行動するから、わたしにも読み切れないのよね。


 ともあれ、そのユメさんがこの場に現れないという事は、彼女が居なくてもどうにかできるという事なのでしょうね。


 ……なら、わたしがなすべきことは?


 ウォルター領での<亜神>調伏の再現に必要な要素を脳内で組み立てていく。


 わたしはセリス様のように、カイの心を優しく支えるような事はできない。


 ユリアン――ジュリア様のように、共に戦う事もできないわ。


 エリス様とアリーシャ様が、陛下がライフワークとしている疑竜を目覚めさせたと聞いた時は、ふたりの魔道芸術に驚き、勝てないと思い知らされた。


 シンシア様とリリーシャ様によるテロ鎮圧にしてもそう。


 ふたりが修めた魔道武踏は<蛇>の執行者すら倒してみせたのだから。


 頭でっかちで臆病なわたしが……それでもあの人の隣に居続けたいと願うなら――


「――大丈夫よ、カイ……」


 なおもユメさんに向けて、遠話器に呼びかけるカイに、わたしは語りかける。


『――大丈夫って、ソフィア、おまえ……』


 戸惑いの声をあげるカイ。


 だから、わたしは上空に舞う真紅の騎体を見上げて、微笑みを浮かべて見せた。


 ――あなたのやりたいようにさせてあげるのが、わたしの仕事よ。


 それは……それだけは、誰にも譲れないわたしの……わたしだけの役目。


「――一分だけ頂戴。

 エイダ様、法理検証をお願いできますか?」


 わたしはなおも独り言を続けていたエイダ様に問いかける。


 予想通りなら可能なはずなんだけど……


 わたしの説明を聞いたエイダ様はアゴに手を当てたまま、鼻を鳴らして。


「……理屈としては可能だが……恐らくホルテッサでの<亜神>調伏の際は、おそらく(くだん)の<旅行者>の魔道による後押しがあってできたはず……その娘が居ない今、明らかに魔道が不足しとる」


「つまり魔道さえなんとかなれば、可能と言う事ですね?」


 ユメさんが使ったあの大魔法――その原理を、わたしは体験したからこそ理解している。


「あ、ああ……そうなんだが……」


「なら、大丈夫。

 ――カイ! ユメさんに代わって、わたしが舞台を用意してあげるわ」


『……は?』


「ソ、ソフィア嬢ちゃんや?」


 カイとエイダ様が戸惑いの声をあげる中、わたしは遠話器を通して、公都中に散った我が国の騎士に、次々と指示を飛ばして行く。


 彼らは今、シーラ様の予想を元に、点在している伝神柱の差し押さえにかかっているはずで。


 わたしの指示に、次々と応答が返って来て、わたしは笑みを濃くする。


「さあ、カイ。準備は完全完璧に整ったわ。

 ……わたし達の魔法……わたしアレンジを披露するわ!」


 そして、わたしは遠話器を通して、喚起詞を唄う。

お久しぶりでございます。

長らくお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。


ちょいちょいカクヨムの方で新作を投稿したりしてた為に、転生暴君の更新が滞ってしまっていたのです。


プロットは第5部まで用意しているので、エタらせるつもりはないのですが、エタったと思われてそうだったので、久しぶりに更新です!


2024/04/23現在も、ちと新作を書いている最中で、以前のように転生暴君を毎日投稿は時間的に厳しいのですが、折を見てちょいちょい投稿して行こうと思いますので、引き続き、へたれ殿下をよろしくお願いいたします~

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