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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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第22話 27

『――転移門(テレポーター)っ!』


 銀光の刃が<神像>を捉えるよりわずかに速く。


 ジルドリウスの喚起詞が周囲に響き、<神像>の姿がかき消えた。


『――転移っ!? どこにっ!』


 <神像>の後を追って飛び上がった<銀華>が、強引に騎体をひねって周囲を見回す。


 と、同時に周囲が陰ったのを感じて、わたしは背後を振り返る。


 <神像>の手が、すぐそこに迫っていた。


『――ソフィアっ!』


 ヴァルトの声が響き、直後、間近に迫っていた<神像>の右手が弾かれて、壁に突き刺さる。


 弾いたのはヴァルトの<護陵騎>が持つ戦斧槍(ハルバート)


「ヴァルトっ!?」


『良いから、逃げろ!』


 わたし達を<神像>から庇うように立ちはだかった<護陵騎>の中から、ヴァルトが叫ぶ。


『――お姉様も!』


 中庭に降り立った<銀華>から、シーラ様もまた叫んだ。


「――ソフィア様、行きましょう!」


 と、ヒールを脱ぎ捨てたアリシア様がそう言って駆け出し、わたしもまたその後を追う。


 目指す先は中庭へ出入り口。


『――行かせません!

 目覚めてもたらせ。転移門(トランスポーター)!』


 再びジルドリウスの喚起詞が響いて、突風と共にわたし達の前に<神像>が出現する。


 その巨大な右手がわたしとアリシア様に伸ばされて。


「――くっ!」


 咄嗟にわたしはアリシア様に体当たりをかけて、彼女を弾き飛ばす。


「ソフィア様っ!?」


 悲鳴じみたアリシア様の声。


 わたしはそのまま<神像>に掴み上げられる。


「ぐうぅ……」


 苦痛に呻くわたしを掲げ、ジルドリウスは<銀華>と<護陵騎>に向き直る。


『――そこまでだ! この女がどうなっても良いのか!?』


 ひどく切迫した声色で、ジルドリウスはヴァルト達を脅す。


「……シーラ様ひとりでも手に余るものね。余裕が無くなってるわよ?

 位階付きの<執行者>が聞いて呆れるわ……」


 身じろぎしながら言ってやると。


『黙りなさい! そもそもあなたが余計な事をしなければ、こんな事にはならなかったのだ!』


「あら、という事はわたしの予想は当たってたのね?

 結社は――<叡智の蛇>はここで巨神を起こそうとしているのね?」


『黙れぇ!』


 ジルドリウスの怒号と共に、わたしを握る<神像>の指が締め上げられる。


「ああぁ――っ!!」


 骨が軋み、折れる音がはっきりと聞こえた。


 激痛に目の前が真っ赤に染まり、涙に視界が歪む。


『――ソフィア!』


『動かないでください! この女の頭脳はまだ使い道がある。私としても殺すのは本意ではないんですよ。

 ……とはいえ、絶対に必要と言うワケではないんです。わかりますか?』


『くっ……』


 シーラ様が短く呻いて、ジルドリウスの言葉に従うように構えを解く。


 ヴァルトもまた、それに従った。


『まだです。<兵騎>から降りなさい!』


 ――ダメ!


 そう叫びたかったけれど、あまりの痛みに声が出ない。


 完全にふたりの足を引っ張ってしまっているわ。


 ……情けない!


 なにかわたしにできることは……


 痛みに鈍った思考を必死に巡らせ――わたしは今朝、フランに渡された指輪の事を思い出す。


 エイラが生み出したのだという、ほんの小さな<永久結晶>の欠片。


 今は紐を通して首から下げているそれは、エイラの言葉通りなら淑女同盟のみんなが西の魔王たるエイダ様に託されたものと同質のもののはず。


 みんなは言っていたわ。


 自然に詞が湧き上がったと。


 ……なら、それは今でしょう?


 なぜ、応えてくれないの!?


 苦痛に歪んだ視界の中で、<銀華>と<護陵騎>が跪いて、その胸甲が開かれる。


「……ダメ……」


 なんとかそれだけを口にするけれど、シーラ様もヴァルトも騎体を降りてしまう。


『よぉし、それではあなた達にはここでご退場願いましょう!』


 <神像>の左手が、まるで見せつけるようにゆっくりと振り上げられて。


 この後に待ち受ける惨劇に、わたしは思わず両目を閉じて叫んだ。


「――お願い、助けてっ!」


 それは、喚起詞でもなんでもない、ただの願い。


 いいえ、きっと悲鳴のようなものだったと思う。


 ……けれど。


「――ああ、任せとけ……」


 だからこそ、彼はそれを聞き逃さなかった。


 短く告げられた声に、わたしは顔をあげて目を見開く。


 公城の屋根の上に、陽光を浴びてきらめく真紅の輝き。


「目覚めてもたらせ!」


 それを握るあの人は、喚起詞を唄いながら宙に身を踊らせる。


「――<紅輝宝剣(アーク・スカーレット)>ッ!」


 真紅の輝きは長大な刃となって中庭を駆け抜け――


『ガアアアアァァァァァ――――ッ!?』


 <神像>の右腕を斬り飛ばした。


 わたしの身体が宙に投げ出され――すぐに抱き止められて、わたしは彼と共に地面に降り立つ。


「――カイっ!」


 思わず抱きついてしまっても仕方ないでしょう?


 痛みなんてすっかり忘れていたわ。


 この人はいつだって……こんな風に――都合良く現れてしまうのだから。


 だというのに、カイはわたしの気持ちなんてまるでおかまいなしに、わたしを抱き止めたまま<神像>を見上げて。


「ソフィアが言ってたろう?

 紅竜の末裔ナメんなってよ! 虚無だか<執行者>なんだか知らねえが、その直系の俺が相手になってやる!」


 いつもの――犬歯をむき出しにした笑みを浮かべて、カイはそう叫ぶ。


 それはカイが前世を思い出してからするようになった表情。


 本当に怒っている時、彼はこんな表情を浮かべるのよ。


 ……わたしの為に怒ってくれている。


 それがこんな時だというのに、ひどく嬉しい。


「――ヴァルト! シーラ!」


「――はいっ!」


 カイが呼ぶと、ふたりは鞍へと上がりながら応じた。


「ソフィアとアリシア嬢を任せた!」


 再び面に(かお)を灯らせた二騎が、すぐさま動き出す。


 <護陵騎>がわたし達の元へ駆け寄り、<銀華>がアリシア様をその手ですくい上げる。


『さあ、ソフィア……』


 降ろされた<護陵騎>の手に身を預けながら、わたしは胸の前で左拳を握るカイに声をかける。


「殿下、ご武運を……」


「ああ、任せとけ!」


 そして、彼は喚起詞を唄う。


「目覚めてもたらせ。<継承(インヘリタンス)神器(・レガリア)>……」


 その背中に魔芒陣が広がり、染み出すように鉄色の巨躯が現れる。

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