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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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第22話 19

「……ねえ、ライル」


 繋ぎ放しになっていた遠話器からの殿下の声に、あたしはすぐ隣に立つライルに尋ねる。


 殿下はソフィア様と話し合う為か、すでに別の遠話接続に切り替えたようだ。


「――霊脈って?」


 言葉の響きからして魔道的なものよね。


 なら、魔道士科に通ってたんだから、ライルなら知ってるでしょ。


「ええと、僕も直接見た事あるわけじゃないし、概念的なものだから説明が難しいんだけど……」


 ライルは困ったように頭を掻いて、そう前置き。


「なるべくわかりやすく!」


 体質的な理由で魔道に見切りを付けた、ウィンスター(ウチ)をナメないでよね。


「パーラちゃんならそう言うよね……

 ん~、教科書には魔道器官が発する、ヒトの意識の残滓が織りなす無意識の大河って書かれてたんだけど……わかんないよね?」


 自信なさげにあたしを見るライルに、あたしは目一杯頷いたわ。


「ううん、そうだなぁ。

 パーラちゃんは、魔法って現象が、どうして起こるが知ってる?」


「魔道器官に魔道を通して――意思を世界に伝えることで、現実を書き換えるって学園で習ったような……」


 短時間の身体強化くらいしか使えなかったあたしは、魔道の授業はしっかり聞いてなかったのよね。


 わたしの曖昧な応えに、ライルはそれでも笑って頷いてくれる。


「そう。その『意思を世界に伝える』というのが、専門的には精霊に干渉するという事で、現実を書き換えるっていうのは、精霊によって伝えられた喚起詞に対して、霊脈が応えた結果とされているんだ。

 ちなみに、精霊は霊脈から生まれて世界に満ちているって言われてるね」


 ふむ?


 つまり霊脈は魔法を現実にしている大元って事なのかしら?


「とはいえ、僕らヒトが行えるのは、定型文による喚起詞を唄う事によって、定められた事象を起こす程度なんだけどね」


 これはなんとなくわかるわ。


 身体強化の時に唄う喚起詞――『漲る力』なんかがそうよね。


 攻精魔法も、『来たれ』から始まって、『射抜け』や『放て』が一般的に使われてる。


「そして、そういう喚起詞を用いずに、直接、霊脈に干渉できる存在を、僕らは上位種――貴属って呼んでる」


「守護竜のコラーボ様や、シルトヴェールの魔女エイダ様みたいな?」


「そう。ホツマの伝承に出てくる妖属アトラ様なんかもそうだね。

 彼女達の魔道器官は、僕らのとは違っていて、直接霊脈を操作できると言われているんだ。

 だから、霊脈は貴属の領地とも呼ばれてる」


「領地?」


「現実の国境なんかと違って、僕らの目には見えないものなのだけどね。

 貴属が管理する霊脈の範囲があるんだって。

 守護竜様で言えば、ホルテッサ全土とダストア王国中部の山脈地帯、ホツマ側に食い込んでる<黒森>領域なんかが、あの方の領地に当たるみたい」


「ホルテッサだけじゃないんだ?」


 守護竜って言うから、あたしはてっきりホルテッサだけなのかと思ってたわ。


「ルキウス帝国時代は、パルドス王国東部も領地だったようなんだけど、<亜神>の発生で霊脈が乱れて、領地から切り離されてしまったようだよ。

 まあ、それはさておき、魔道器官を持つ生物が存在するところには、必ず霊脈が存在する。ここまでは良い?」


 わたしはライルに頷きを返した。


「魔道器官があるところには霊脈がある――ああ、無意識の大河ってそういう事なのね」


 魔法を使うという意思が集まって、目に見えない魔道の川の流れを生み出しているイメージ。


 そうライルに伝えてみると。


「僕もそんなイメージで捉えてるよ」


 そう言って笑ってくれるから、ちょっと嬉しくなっちゃう。


 いけないいけない。今はそれどころじゃないわ。


 気を取り直して、わたしはライルに尋ねる。


「それで? <叡智の蛇>はそんなのに陣を敷いて、なにをしようっての?」


「それが僕にもわからない……殿下はなにか掴んだようだけど――」


 ライルが首を捻ったところで。


『――では、わたくしが説明しましょう』


 澄んだソプラノが遠話器から響いた。


「――誰っ!?」


 突然の遠話への介入者に、あたしは語気荒く誰何する。


 けれど声の主は動じること無く。


『はじめまして。ホルテッサ・ウィンスターの末裔。

 わたくしはダストア・ウィンスター伯爵家現当主、シーラ・ウィンスターと申します』


 涼しい声色でそう名乗った。


 思わずあたしはライルと顔を見合わせる。


「――ダストア王家公認勇者!?」


 ライルが目を見開いてそう息を呑み。


「銀華の蕾様っ!?」


 あたしも彼女のふたつ名を口にする。


「――ななな、なんでそんなお方が遠話にっ!?」


 同じウィンスター、同じ伯爵家だけれど、あちらは初代や先代が絵本になもるような名家よ。


 本家はウチなのだけれど、そう名乗るのが恥ずかしくなるくらい、ウチはなにも功績を残してない。


 同じ末裔のシーラ様は、公認勇者にまでなっているというのに。


 噂に伝え聞くシーラ様は、確かわたしのひとつ下のはず。


 才能の差と言ってしまえばそれまでなんだけど、同じご先祖様を持つ身としては、やっぱりちょっと悔しく感じちゃう。


『僭越ながら、わたくし<密蜂>の実働部隊長を務めさせて頂いておりまして。

 ホルテッサ(そちら)の<竜の瞳>から提供された遠話器には大変お世話になっておりますの。

 オレア殿下がこちらを離れられたので、状況把握の為に遠話にお邪魔させて頂いております』


「よくわかんないけど、殿下と一緒に居たってこと、ですか?」


『ええ。共同戦線を張らせて頂く事になりました。

 ウォルター卿がそちらに向かっておりますので、あなた達はそのまま待機でお願い致します』


『――そうだね。君等の実力は<亜神>調伏で把握しているつもりだけど、モノがモノだけに、なにが起きるかわからない。

 私が行くまで待機だ』


 と、ザクソン様も遠話に加わって来る。


「了解です。

 ――それでシーラ様。敵の目的がわかったんですか? 殿下は霊脈が狙いみたいな事言ってましたけど……」


『そうです。オレア殿下の言葉のまま。

 敵はとある魔道器を用いて、この地の霊脈を掌握しようとしているのです』


「魔道器?」


『――はい。伝神柱(でんしんばしら)と言います』


 そうしてシーラ様は、伝神柱(でんしんばしら)について説明を始める。


 表向きは遠方の声を届けるだけの魔道器。


 けれど、その実態は霊脈に干渉し、そこに繋がった魔道器官にまで干渉できちゃうという危険なシロモノ。


『現に、ダストアに現れたカルト集団は、伝神柱(でんしんばしら)を用いて、信徒の魔道器官に干渉し、異形化させております』


 ええと、異形化ってアレよね。


 こないだシンシア様とリリーシャ様がお呼ばれされたお茶会に出現したとかいう、ヒトが転じた怪物。


「……それじゃあ、敵の目的は――」


 公都の民の異形化、なのだろうか?


 あたしのそんな考えは、すぐにライルに否定された。


「民の異形化――そんな単純な話なら、大規模魔芒陣は必要ないですよね?

 混乱を招く為に、それも行われるかもしれないけれど、陣を敷く以上、もう一段階、なにか思惑があるはず……」


 ライルのその言葉に。


『ええ。ここからはわたくしの推測になりますが――』


 そう前置きして、シーラ様は続ける。


『考えられるのはふたつ。

 ひとつは領地に干渉する事によって、この地を治める貴属を引っ張り出すこと……』


「なんの為にそんな事……」


 意味がわからなくてそう呟けば、シーラ様は忌々しげに応えてくれた。


『現在、ローデリアでは魔女狩りが盛んだそうですわ。

 貴属の一角である魔女が持つ知識――それを欲しているのだとか』


 あたしもライルも思わず息を呑む。


「そんな事ができるの?」


 貴属は守護竜のコラーボ様しか直接の面識はないけど、あの方が常識の外の存在なのは雰囲気だけでもわかったわ。


 そんなコラーボ様の同格の魔女を?


『貴属の強さは支配する領土――霊脈の大きさによって決まりますから。

 ローデリアの魔女は代を重ねるうちにその人数を増やし、相対的に支配領地が小さくなってい為、隠里を騎士団が襲撃した際、抗えなかったそうです』


 ……つまりは。


 ローデリアという国は、弱体化した魔女の集落を襲撃して周っているという事なのね……


 吐き気のする話だわ。


 騎士とは、力なき者を守るために存在しているというのに。


「……この地の貴属の情報はありませんが、領地を侵されたとなれば動くのはありえる話ですね。

 けれど、霊脈が掌握されている為、貴属は弱体化していて十全には戦えない。

 そして……民は否応なく巻き込まれる……」


 ライルがアゴに手を当てて、難しい顔をしながら呟く。


『オレア殿下は事の中心が城にあると見て、現在向かわれているようですね。

 わたくしも貴属がまず現れるなら、この地の霊脈の中心となる城だと思います』


「あ、ソフィア様が心配だからって理由だけじゃなかったんだ?」


『――え?』


 思わずといった感じの、シーラ様のひどく間の抜けた声。


「――ちょっ!? パーラちゃん!」


 ライルが慌ててあたしの肘を引っ張る。


「あ、ああ。そ、そうよね。あのへたれ殿下が――ソフィア様が相手とはいえ、女の為に動くなんて、そんなワケないか。

 あはは、そうよね。さすが殿下! 深いお考えだわ!」


 あたしは誤魔化すように笑い飛ばして見せたわ。


 でも、殿下って変なトコでロマンチストだから、ありえない話でもないと思うんだけどなぁ……


「――んん! それでシーラ様……」


 ライルは困ったような表情を浮かべて咳払いをすると、シーラ様に呼びかけた。


「もうひとつのお考えとは?」


『ええ。これは本当にわたくしの推測――考え過ぎであれば良いという……できればハズレて欲しい考えなのですが……』


 ため息と共に前置きして、彼女は言葉を続ける。


『……ランベルクの巨神という伝説をご存知ですか?』

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