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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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第22話 18

「――ローデリア神聖帝国代表、この資料には、重大な説明漏れがありますわね?」


 そう告げて立ち上がったアリシア様は、扇を広げて口元を隠す。


「それを明かす前に、ひとつ皆様にお尋ねしたいのですが……」


 文節を区切り、ゆったりとしたアルトで語られる彼女の言葉は、自然と聞く者を引き込む。


 演説慣れした話法。


 それもわたしやフェリクス皇子のような少人数に意見を通す為のものではなく、大人数を取り込む為のものだわ。


 たった二言発しただけで、会議室にいる全員が彼女に注目している。


 アリシア様の手が胸の高さまであげられる。


 まるで誘うようなその仕草に、自然、誰もがその手に視線を集めた。


 波打つように指先が踊り、ゆっくりと手を握りしめるアリシア様。


「先日の宗教会談におけるティアリス聖教の暴挙と、彼の教団が<叡智の蛇>と関わりがあるであろう件をご存知でない方はいらっしゃいませんわね?」


 各国代表達が一様にうなずく中――


「――訂正してもらおう。あれは神子代理とその配下による独断行動だ。

 我が国の国教たるティアリス聖教の総意ではないと、神子様も仰っている」


 フェリクス皇子がそう否定した。


 各国代表の表情が変わる。


 特にローデリアと国交のある西域諸国は戸惑いの表情を浮かべている。


 逆に東域諸国には、顔をしかめている代表が多いわね。


 アリシア様はクスリと笑った。


「ええ。貴国はそう主張しますわよね。

 ですが、今、わたくしが主張したいのはそこではありませんの」


 そう言葉を区切り、再び会議室に集まった面々を見回すアリシア様。


 再び疑問符を浮かべる代表者達。


 主張を受け流されて、フェリクス皇子も彼女の言葉を待つ。


 ――パチン、と。


 扇を閉じる音が会議室に響いて、全員の目がアリシア様に集まったわ。


 本当に上手いと思う。


 わたしが未来のホルテッサ宰相として教育を施されたのに対して、彼女は恐らく貴族令嬢として、そしていずれはオルベール家の女公爵として、社交界での派閥形成とその運営を目的とした教育を施されて来たのでしょうね。


 集団の中での自分の魅せ方というものを、よく理解しているわ。


「さて、なぜティアリス聖教について確認したのかと申しますと、ただいまフェリクス殿下が仰ってくださったように、彼の教団はどうも独断に走る輩が多いという事を示したかったのです」


 閉じた扇を薔薇色に染めた唇に当てて、アリシア様はその切れ長の双眸に弧を描かせた。


「――なぁっ!?」


 言質を取られた格好になったフェリクス皇子が呻く。


 そんな彼に顔を向け、アリシア様は言葉を続けたわ。


「……もう半年ほど前になりましょうか?

 我が国の西部で、とあるカルト集団が出現し、地域の民へと改宗を迫っていたのですよ」


 アリシア様の言葉に、ヴァルトがわたしに顔を寄せてきて囁く。


「……ソフィア、知ってたか?」


「いいえ。隣国とはいえ、ダストアは中央に山脈を抱えていて、西部の情報は入って来づらいの。

 わたしも初耳だわ……」


 そんなやり取りをする間にも、アリシア様の発言は続く。


「御柱派を名乗るこの集団は、三大宗派は偽りの女神であると説いて、真なる神を信仰するよう人々に教え諭しておりました。

 まあ、それだけならば新興宗教として、放置してもよかったのですけれど……」


 アリシア様は語る。


 その集団――御柱派の布教の仕方が問題だったのだと。


 ――信仰しない者は不幸になる、といった恫喝的なものはまだ序の口で、彼らはその『不幸』を再現する為に、ゴロツキを雇って村々を襲撃させたりもしていたそう。


 あるいは幼い子供や老人を拐い、薬物などによる洗脳すら行っていたとか。


 ……薬物。


 午前にも議題に挙がっていたわね。


 あれは獣属に特別強く作用するものの話だったけれど、あの規制法案が速やかに可決されたのは、昨今、中原における薬物汚染の拡大が顕著という理由もあるのよね。


 ……カルト集団の伝播と共に広がっているのかもしれない。


 わたしは心のメモに、そっと注意を書き記す。


 老人子供をきっかけに、その家族にも改宗の手は伸び、御柱派はダストア西部で無視できないほどの勢力になって行ったのだという。


「そんな理由もあって、我が国ではこの集団をカルトと認定。

 ――銀華による制圧、排除を試みました」


 金薔薇ことアリシア様と並ぶ、フローティア王女の懐刀。


 ダストア王国の元認定勇者――シーラ・ウィンスター。


 彼女の出動が必要なほどの事態だったということね……


「その際、わたくしも銀華に同行しておりまして」


 そっとアリシア様が手を伸ばすと、彼女のお付きのメイドのモニカさんが、伝神柱(でんしんばしら)の資料を手渡す。


「彼らの施設――聖堂と呼ばれておりましたが――そこで、これと同じモノを見つけたのですよ」


 扇で資料を叩き、アリシア様はフェリクス皇子を見据えた。


「――彼らはこの伝神柱(でんしんばしら)から聞こえる『声』を神の声として崇拝しておりましたわ」


 会議室がどよめく。


「知らん。

 そもそもそやつらは非合法なカルト集団なのだろう?

 我が国の研究施設から資料を盗み出したのかもしれん」


 フェリクス皇子も本当に知らなかったのか、表情にこそ出ていないものの、わずかに声が上ずっていた。


 対するアリシア様はクスクスと可笑しそうに笑う。


「もし仮に盗まれたのだとすると、ローデリアの機密というのは、随分と甘いものなのですね。

 そして、カルト集団程度にこしらえる事ができるモノを、フェリクス殿下は得意げに各国に無償提供すると言っていた事になりますわね」


「……価値の詐称かしら? 安価なモノを高価と偽って恩に着せるのだから、そうよね?」


 思わず呟くと、アリシア様がわたしに片目を瞑ってくる。


「――そんなことはない。アレの建造には、我が国の魔道士団による専用工房が必要だ」


 フェリクス皇子の反論に、アリシア様は再び扇を開いて頷いた。


「ええ、殿下の仰る通り。

 捕らえた者を尋問しましたが、あの魔道器の建造技術を、彼らは持ち合わせておりませんでした」


「そうだろう? 恐らくは我が国で試験的に設置したものを盗み出したのではないか?」


「――まあ! 伝神柱(でんしんばしら)とは、そんな簡単に盗難できるものなのですか?

 そして、盗まれても気づけない、と?」


 ……本当に、アリシア様が味方で良かったわね……


 会議室の誰もが――ローデリア寄りの西域諸国ですら、彼女の言葉に取り込まれて、彼女から目が離せなくなっていたわ。


 フェリクス皇子の反論が、尽く言質となっていく……


「くっ……それは……」


 言葉に詰まるフェリクス皇子。


 そんな彼に、アリシア様は追い打ちとばかりに笑みを濃くして告げる。


「そうそう、わたくしとした事が、申し忘れておりました。

 この御柱派。ティアリス聖教から分派した宗派なのだそうですの。

 ええ、殿下。仰られなくてもわかっておりますわ。

 あのティアリス聖教は、一部の過激派が独断行動に走りやすい組織なのですものね。

 ここでローデリアと御柱派の関係を追及するつもりはございませんの。

 ――ただ……」


 弧を描いていたアリシア様の目元が、すっと水平を描いて、フェリクス皇子を捉える。


「捕らえたカルト教徒達は、この魔道器の原理は理解しておりましたわ。

 この資料に記されていない、遠話の原理を――」


 そう。わたしもそこが引っかかっていたのよ。


 カイとリステロ魔道士長が開発した新型の遠話魔法――精霊響共鳴式なら、距離の制限なんてなくなるはず。


 けれど、伝神柱(でんしんばしら)の有効範囲は一〇キロ四方なのだという。


 単純に魔道器による有効距離の延伸かとも考えたけれど、それではローデリアが新たに生み出したという遠視、遠話の魔法の必要性がわからなくなる。


 ――その時。


『――ソフィア! 聞こえるかっ!?』


 耳に付けたイヤリング型遠話器が喚起されて、カイの声が耳を打つ。


 ひどく焦った様子の声色に、わたしはイヤリングに触れてそっと魔道を通し、落とした声で応える。


「ええ。どうしたの? 緊急?」


『ああ! 例の陣を見つけた。

 連中、とんでもねえ事考えてやがった!』


 走りながら遠話しているのだろう。カイは荒い呼気と共にそう告げてくる。 


「――この魔道器は、遠話の媒体として、あるものを用いているのです」


 アリシア様がわずかに震えを帯びた声で、会議室の代表達に語る。


「それはヒトにとっての禁忌の領域――上位種たる貴属の領地……」


 そこまで告げただけで、察しの良い者は顔色を青く染め上げた。


 そして、カイとアリシア様の言葉は図らずも重なる。


「――霊脈です」


『――霊脈だっ!』

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