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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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第22話 12

 控室での打ち合わせ後、昼食休憩を終えて、わたし達は大会議室に戻った。


 午前同様、各国の代表が各々の席に着くのだけれど、法案を提出する国の代表はわたしがヴァルトを連れてきているのと同様に、補佐官を控えさせている。


 最後にカルロス大公が議長席に着席して木槌を打ち鳴らすと、本会議に提出する国際法案の審議が始まった。


 とはいえ、今日この場に至るまでに、各国それぞれの官僚同士が事前に交渉を重ね、根回しが済んでいるものがほとんど。


 大半が議論の形を取った、法案内容の確認のみで交渉は進み、本会議への提出決議に関しても、事前に想定された結果となって可否が採択されていく。


 この場で可決された法案は、本会議で各国の承認を受けて施行される事になる。


 ここまでに審議された法案の大半が、提出国とその近隣国との利権の衝突や国内法の差から起こる軋轢を解消する為のもので、中には国際法にするまでもなく、個々の外交交渉で解決できる内容のものある。


 当然、そういったものは否決される事になるのよね。


 否決された法案は――言い方は悪いけれど、基本的に多数決による採決なのだから、根回しが足りなかったという事になるわね。


「――それでは次に、ミルドニア皇国より提出された法案について審議を始めます」


 カルロス議長の宣言で、リーンハルト殿下が立ち上がる。


「我が国からは、国際司法直轄の捜査・執行機関の設立を提案したいと思います」


 よく通るテノールで告げられた言葉に、喝采と野次が入り混じった声が上がったわ。


 割合としては半々と行ったところかしら。


 喝采しているのは、隣国との間になにかしらの国際問題を抱えていて、よく国際司法裁判所に訴えている国ね。


 逆に野次を飛ばしているのは、訴えられている側が多いようね。


 先代魔王による、魔属獣属の社会的地位確立の訴えによって起こった<大戦>。


 中原連合は終戦後、その反省を活かし、国家間の問題を話し合いによって解決する為に連合会議を設立し、毎年交渉の場を持つようになったわ。


 そして、国際法を制定する事により、それを遵守する事によって国家間の問題を抑制しようとしてきた。


 ――けれど。


 実際のところ、国際司法裁判所の判決に強制力はなく、当該国に対して改善を求めるだけ。


 乱暴な言い方をしてしまえば、無視してしまう事さえできてしまうのが現状なのよ。


 今、野次を飛ばしているのは、そういった――判決に対して無視を決め込んでいる国々ね。


「――静粛に!」


 カルロス大公が木槌を打ち鳴らして、場を静まらせる。


 各国代表達が落ち着くのを待って、リーンハルト殿下は再び口を開いた。


「午前、ホルテッサの提案にもあったように、現在、国際犯罪――無国籍の者に対する司法が存在しません。

 また国際司法の結果に対する強制力もなく――言い方は悪いですが、時には国家ぐるみでの司法判決逃れまで起きているのが現状です」


「――そうだ!」


 先程、喝采していた国々の代表者達が同意の声を上げたわ。


 恐らくはミルドニアが事前に根回しをしていたのでしょうね。


 その数は比較的多いように思えるわ。


「一例を上げるのならば、先のパルドス戦役。

 あれもまた、国際司法裁判所に強制力があったならば、そもそもパルドスがあそこまで増長する事はなかったと言えましょう」


 ……そうね。


 パルドス王国の横暴さは、ホルテッサ(ウチ)を含む、隣接周辺国が何度も連名で国際司法裁判所に訴えてきたわ。


 その度に司法裁判所はパルドスに改善を求めたけれど、あの国が聞き入れることはなかった。


「――なによ! 判事に賄賂を渡して出された判決に従う謂れなんてないって、お父様が言ってたわ!」


 傍聴人席から耳に触るキンキン声が上がる。


 パルドス王国のキムナル王女だ。


「――根拠のない中傷はしないように。そもそも傍聴人に発言権はありません!」


 カルロス大公がそう言って、彼女を嗜める。


 ……キムナル王女が主張したように。


 パルドスはいつもそう言って、国際司法裁判所の発言を無視していたわ。


 だから、カイは――戦争という実力行使の道を選んでしまう事になった。


 ミルドニアやダストア、ベルクオーロなどの周辺国を巻き込んで。


 周辺国がホルテッサに賛同したのは、それだけパルドスが恨まれていたからなのよ。


「またこの後、ホツマからの提案に挙がる予定の奴隷取引の取締。

 あるいは国家を跨いで活動するテロ組織に対しても、個々の国単位では対応が後手に回ってしまう事でしょう。

 それらを踏まえて、ミルドニアは中原連合直轄の国際捜査機関と、国際司法裁判所直轄の司法執行機関の設立を提案致します」


 リーンハルト皇子はそう締めくくり、着席した。


 あちこちから拍手があがり、先程まで野次を飛ばしていた国々は憎々しげに押し黙る。


 パルドス王国を例に挙げたのが決め手ね。


 正論でぶん殴ったようなものだわ。


 この案に反対するということは、パルドス王国と同様に――自ら後ろ暗い事をしていると自白するようなもの。


 そして、リーンハルト皇子の提案が実現しないのならば、彼らはいつかパルドス王国のように周辺国に攻め込まれるかもしれないと自覚したんだわ。


「――それでは決を採ります。ミルドニア皇国の法案提出に賛成の国は挙手を……」


 カルロス大公の言葉に応じて、各国代表が手を挙げる。


 満場一致だわ。


 まあそうよね。ここで反対するという事は、国際司法の存在自体を否定する事になるのだもの。


 内心はともかく、国際社会に対する体面を保つ為には賛成せざるを得ないわよね。


「反対なしとして、本法案は本会議に提出するものとします」


 カルロス大公が木槌を打ち鳴らし、拍手が会議室に響き渡った。


「続きまして、ホツマによる奴隷取引の取締について。トーゴ殿、お願いします」


 名前を呼ばれ、トーゴ宰相が説明を始める。


 先のパルドス戦役以降、ホツマ国民が奴隷狩りに遭った事。


 その捜索と解放を、連合の名の元に行い、今後、拉致などによる不当な奴隷化を禁止するよう国際法として規定して欲しいというものだ。


「捜索は公正に行われるよう、先程ミルドニア皇国より提案のあった、国際捜査機関にて行われるよう願いたいと思います」


 トーゴ宰相の提案に反対の声はなかった。


 これもまた、リーンハルト殿下同様に正論だったからね。


 この提案に反対する国、あるいは独自捜査を主張する国は、調べられたくないような――なにか後ろ暗い事があるのではないかと疑われる事になるもの。


 と、その時だった。


「――議長! 発言をよろしいか?」


 そう告げて挙手したのは、オーウ連合の代表者。


「我が連合所属の(こおり)からも、獣属が不当に拉致され、奴隷化される案件が増えている。捜索対象には、我が連合の民も加えて欲しい」


 この発言に、会議室がざわついたわ。


 魔属と獣属の奴隷化。


 ホツマとオーウ連合の訴えは、まさに先代魔王の主張を彷彿させるものだわ。


 <大戦>終結に端を発する連合会議は、この件には特に過敏にならざるを得ないのよ。


 国ごとにそれぞれ差こそあるものの、魔属や獣属に対する偏見はまだまだ根強い。


 特に上位階級になるほど、その傾向が強いように思えるわ。


 高度な教育を受けているにも関わらず――いいえ、だからこそサティリア教会を始めとした三大宗派の古い教えにある、ヒト属の優位性を今も信じ続けている者が多いのだわ。


 <大戦>以降、三大宗派はそれを否定しているというのに。


 ウチだって、その偏見によってユリアンが獣属である事を隠して騎士になっていたものね。


 各国共に偏見はまだ残っているとはいえ、それを公にし、改善の姿勢を見せない事は、中原連合会議の理念に反する事になるわ。


 だから、この件に関してはどの国も反対の声を挙げられない。


「追記を認めます。

 ――他に意見は?」


 カルロス大公が会議室を見回すけれど、それ以上の意見はなく、採決は満場一致で本会議への提出が可決されたわ。


「――さて、それでは続きまして、ホルテッサ王国クレストス殿」


 名前を呼ばれて、わたしは席を立つ。


 ……さあ、いよいよ勝負処ね。


 一度、背後のヴァルトを振り返る。


 彼は資料を手に、任せろとばかりに頷いてくれた。


 深呼吸をひとつ、わたしは会議室を見回す。


「――我が国からは国家間を結ぶ、大規模伝心網の構築を提案したいと思います」

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