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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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第22話 1

 いつものようにベルクオーロ城へと登城したわたしは、侍従に案内されて外宮控室へと通された。


 ソファに腰を下ろすと、フランの代わりに連れてきたメイドがお茶の用意を始める。


「やっと、や~っと今日に漕ぎ着けたわ~」


 背もたれに身を預けると、思わずそんなぼやきを漏らしてしまう。


 ベルクオーロ入りしてからこの三週間、連日に渡る外渉で肉体的にも精神的にも、かなり参っているのは自覚してるわ。


 けれど、それでも今日まで。


 今日の最終交渉さえ乗り切れば、後はわたしは自由よ!


「せっかくの海外旅行なのに!

 みんなは結構楽しんでるみたいなのに、わたしだけ毎日毎日、仕事仕事!

 明日からは絶対に観光を楽しむわ!」


 毎年行われる連合会議は、各国内での法と国際法のすり合わせという側面もある。


 ホルテッサ(ウチ)は特に、昨年からカイが大鉈を振るいまくった所為で、新設された法案が多く、他国とすり合わせる必要のあるものが多かったのよね。


 今日行われる最終事前交渉は、これまで行ってきた各国との交渉の最終打ち合わせ。


 各国の王族が一同に介して行われる本会議は、最終交渉会談で決まった内容の承認を目的として開かれるのよ。


 人目がないことを良いことに、思い切りだらけるわたしに、対面に座ったヴァルトがクスリと笑う。


「……なによ?」


 思わずジロリと睨むと。


「いや、<孤高の薔薇>と呼ばれたソフィア・クレストスのこんな姿、学園のおまえの信奉者達には見せられないなと思ってな」


「外面しか見ない連中になにを思われたって、わたしは気にしないわ」


 学生時代に自分がそう呼ばれていたのは知っているわ。


 連日のように愛の告白をしてくる男子生徒達を片っ端から袖にした結果、付けられたあだ名ね。


 メイドが淹れてくれたお茶に口をつけて、わたしは一息。


 ヴァルトも煙草に火をつけて、紫煙を天井に吹き上げた。


 その手がわずかに震えているのを見て、わたしはいたずら心を起こしてしまう。


「なあに? 緊張してるの? <氷の貴公子>サマが」


 だからこそ、変な軽口を叩いたってワケね。


 わたしの問いかけに、ヴァルトは煙が変なところに入ったのか咽せ込む。


 思わず笑ってしまったわ。


 そんなわたしをジロリと睨み、彼は頭を掻きむしる。


「当然だろう! 僕は官僚経験もない若造だぞ!?

 御陵としてなら、確かに経験を積んでいるが、政治の場――しかも外交なんて無知も良いところだ!

 おまえの補佐というなら、ノリス辺りを連れてくるべきだろうに!」


「彼は彼で別に動いてもらってるわ」


「――外務大臣は!?」


「知ってるでしょう? カリスト叔父様は本国居残り組よ」


 王城に王族がひとりも居なくなると、おかしな考えを起こすバカが出かねないから、残ってもらったのよね。


 そもそもわたしもカイも、末端の平官僚はともかく、役付きの外務官僚を信用していない。


 叔父様の元で再編の真っ最中の現在、指示通りに動かすだけならともかく、彼らの裁量権はかなり制限しているわ。


「だからと言って、なんで僕なんだ!?」


「――荒ごとが想定されるからよ」


「は?」


 驚いたように呆けた顔を見せるヴァルトに、わたしは溜め息をひとつ。


「昨日、<叡智の蛇>の盟主を保護したわ」


「なんだと?」


 そうしてわたしは、昨日、フランからもたらされた情報をヴァルトに説明する。


 <叡智の蛇>盟主――エイラ・オードは現在、公都郊外に停泊中の飛行船<風切>で保護しているそうだ。


「待て待て待て! そもそもなぜ盟主がおまえに保護を求めてくるんだ!?」


 こんなに取り乱す彼を見るのは久しぶりね。


 一緒に<深階>に潜った時以来かしら?


 身を乗り出すヴァルトを手で制して、わたしは微笑みを浮かべて見せたわ。


「言ってなかったかしら? わたし、<叡智の蛇>の前身――<叡智の果実>の創設者なのよ」


「――はぁっ!?」


「ほら、殿下は魔法が使えなかったでしょう? それをなんとかしたかったのよね」


 と、わたしは<叡智の果実>創設に至る経緯をヴァルトに説明する。


「…………つまりおまえは、行きずりの小娘に組織を丸投げしたということか?」


「言い方に悪意があるわね。わたしだって当時は小娘だったのよ?」


 とはいえ、丸投げしたのは事実と言えば事実。


 日々増え続ける人員が、まるで信奉者のようにわたしに熱狂していく様に恐怖を覚えたのも本当だものね。


 ……短期間で効率的に仕事をしてもらう為に、そういう性質傾向のある人材を選んだというのもあるけれど、アレは行き過ぎだと思ったわ。


「無理だと感じたら、逃げ出すようにエイラには言っていたのよ?

 ――手紙にだって、何度も書いたし」


 けれど、エイラは投げ出さずに、十年以上を盟主として勤め上げ、組織を維持どころか拡大させて行っていたのには、本当驚きだわ。


「殿下もそうだが、おまえも……

 ホルテッサ王室の人を見る目はどうなってるんだ?」


 ソファに座り直し、吐き出すように呟くヴァルト。


「血なのかしらねぇ。陛下は身内に恵まれすぎて、スカウトの才能はないようだけど」


 現王陛下はわたしのお父様を含めて、ご兄弟や親族が優秀過ぎたせいで人を募る事をして来られなかったのよね。


 それが結果、近年の貴族腐敗を招く事に繋がったのだけれど、これは陛下だけが悪いわけじゃない。


 先代陛下――お祖父様もまた、人を見出す才に優れた人だったそうで、<大戦>中に多くの無名だった将官を見出したそうよ。


 そうして引き立てられた彼らは、戦後もお祖父様と共に大いに活躍し――結果として、平和になった世の中で、子や孫がその地位に甘んじて無能になってしまうというのは良くある話。


 話が横道に逸れてしまってるわね。


「話を戻すけど、エイラによれば今日の交渉でローデリアがなにか仕掛けてくる可能性があるの。

 それが荒ごとだった場合……」


「まあ、おまえではどうしようもないな」


 薄笑いを浮かべるヴァルトに、わたしは顔をしかめる。


 自分でも運動面がぽんこつなのは自覚してるわ。けど、そんなはっきりと断言する事ないでしょう?


「つまり、僕は補佐の体で、おまえを護衛すれば良いんだな?」


「そ。殿下はザクソンを連れて行くように提案してたんだけど、交渉の場でしょ? 彼だとちょっとね……」


「ああ、ヤツは腹芸なんて器用な真似はできないからな」


 納得したとばかりに、ヴァルトは頷く。


 戦闘能力だけなら、魔法剣士のザクソンの方が役立つのだろうけど、彼は良くも悪くも人が好すぎるのよね。


 後ろ手にナイフを握りながら笑顔で握手を交わすような外交の場で、彼の実直さは正直なところ悪い方向に作用してしまう。


「だから、四天王の中で一番性格の悪い、あなたを選んだってワケ」


 頭の回転の速さなら、ステフでも良いのだけれど、あの子は短気すぎる。


 もし連れて来たなら、五分と待たずに取っ組み合いのケンカを始めてしまいそう。


 思考を放棄しているリックなんて以ての外。


 そもそも選択肢なんてなかったのよね。


「……自分の性格が良性のものと言うつもりはないが、そうはっきり言われると腹が立つな」


 そうでしょう? 自覚してることって他人に言われると腹が立つわよね。


「あら、褒めてるのよ?」


 運動音痴をからかわれた意趣返しができたようでなによりだわ。


「ともあれ、僕が連れてこられた理由は理解した」


 短くなった煙草を灰皿に押し付け、新たに咥えて火を着けるヴァルト。


 しばらく合わないうちに、すっかりヘビースモーカーになったようだ。


 御陵という特殊な役職に着く、彼のこれまでの苦労が忍ばれるわね。


「ところで殿下はどうしているんだ?

 <叡智の蛇>の盟主の言が確かなら、ここに来ても不思議ではないように思えるんだが……」


 さすがはカイの魂に惹かれたと自負する男ね。


 カイの性格をよくわかってる。


「ええ。最初は殿下も同行するって言い張ったんだけど、わたしが止めたの。

 今日の交渉で決まった事は、そのまま本会議で承認される事になるの。そこにホルテッサ王太子である殿下が参加したら、無用な混乱を招くだけだし、下手をしたら他国におかしな言質を与えることになりかねないから」


 そもそもカイも交渉事は苦手な人だもの。


 ……逆に。


 彼が苦手だからこそ、わたしはそういう事が得意になれるように努力してきたのよ?


 たとえカイにだって、わたしの活躍の場は奪われたくないわ。


「……ただでさえ、みんなに差を縮められているんだもの……」


「ん?」


 わたしの呟きにヴァルトが首を傾げる。


「いいえ、なんでもないわ。

 殿下は、今日はザクソンと一緒に都内を回ってもらっているわ」


「……話にあった、大規模魔芒陣の捜索か」


「そう。これまでの事を考えても、<叡智の蛇>の戦闘会員は相当数が入り込んでいるようだから。

 万が一、<執行者>クラスが出てきたら、ベルクオーロの衛士じゃ対応できないでしょう?」


 守られるべき王太子が自ら動くのは、他国では褒められたことではないのだろうけれど、有事に際して王族が率先して動くのは我が国のお国柄よ。


「そんなワケで、わたし達は交渉に専念しましょう」


「……わかった。だが、交渉そのものの補助は、本当に期待するなよ?」


「あら、気づいた事は言ってくれて良いのよ?」


 頭の回転は、ステフやわたしくらい良いはずなんだもの。


 政務交渉の経験が少ないとはいえ、人の機微には敏感な彼の助言なら、わたしは考慮しようと思ってるわ。


 そんなわたしの思惑を読み取ったのか、ヴァルトは渋い顔をして紫煙を吐き出す。


「……勘弁してくれ」


 心底嫌そうに呟く彼に、わたしは思わず笑ってしまったわ。


 と、そんな時、ドアがノックされて、部屋の隅に控えていたメイドがすぐに応じる。


「――お嬢様」


 ドアの向こうで来客に対応したメイドは、一度ドアを閉じて、わたしに告げる。


「アリシア・オルベール様がお越しです」


 それは隣国、ダストア王国に咲き誇る、賢く美しい華の名。


 フローティア王女の懐刀の一人――金薔薇と呼ばれる令嬢の名前だった。


「お通しして頂戴」


 メイドにそう告げて、わたしは居住まいを正す。

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