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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
閑話

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閑話3

 ――エイラ・オード。


 それはかつて、今は亡き旦那様――クレストス公爵と共にローデリア神聖帝国を訪れた際に出会った少女の名前。


 ソフィアお嬢様がまだ七つの時の事だ。


 王城内で初等教育が始まり、カイくんが魔法を使えない事がわかったのがその頃。


 あの子が落ち込んでいるのを見たソフィアお嬢様は、解決策を求めて様々な知識を欲するようになった。


 まず始めたのは、国内で同様の症例が過去になかったのかを探ること。


 とはいえ、ルキウス帝国滅亡後の戦乱時代、そして<大戦>においては最前線となっていて、古い資料の多くが散逸していたから、ソフィアお嬢様の求める情報はまるで集まらなかったのよね。


 そこでソフィアお嬢様は、知識を国外へ求めた。


 旦那様が宰相として国外へ出向かれる際は、積極的に同行するようになったわ。


 ローデリア神聖帝国は、連合王国を経て帝政化した国家だ。


 その祖であるローデリア王国の興国は、ルキウス帝国が興るより前――まだ中原東部地域が群雄割拠の戦国の世にあった時まで遡れる。


 そこに眠るであろう資料を求めて、ソフィアお嬢様が旦那様に同行を求めたのは必然だったわ。


 一ヶ月以上に及ぶ長距離の旅程に、旦那様もはじめは渋ったものの、泣き落としから始まり、最終的には床に転がってのたうち回って懇願するソフィアお嬢様に、最終的には折れる事になったのよね。


 あんなに駄々をこねるソフィアお嬢様を見たのは、あの時くらいね。


 子供の頃から取り澄ましていたお嬢様が、ガチのギャン泣きだったわ。


 そんなワケで、お嬢様のローデリア行きは許され、当然、わたしも同行することになった。


 旦那様のローデリア来訪目的は、先代の皇帝即位を祝う為。


 先々代の皇帝が長命であった為、先代の皇帝はご高齢での即位する事になったのよね。


 パーティー会場で見た時の陛下の印象は、その肩書と立場に反して弱々しい老人といったもの。


 西部屈指の強国として伝え聞くローデリアの皇帝というから、わたしはウチの陛下や旦那様のようにもっとガッシリとして威厳に満ちた人物を想像していたのよね。


 お国柄の違いを学ばされたわ。


 滞在中、旦那様は様々な式典や交渉事に奔走する事になり、自然、子供のソフィアお嬢様やわたしへの目が行き届いていなかった。


 それを良い事に、ソフィアお嬢様はわたしを伴って、帝都に降りて国立大図書館に入り浸るようになった。


 けれど、求める情報――魔法を使えない者の回復法は杳として見つからず……


 ソフィアお嬢様は目に見えて消沈して行ったわ。


 だからわたしは、気分転換に帝都巡りに誘ったのよね。


 古都として知られるローデリア帝都ローディアの町並みは、ルキウス帝国時代より古い建築物などもあって、見所には事欠かなかったわ。


 エイラと出会ったのは、そんな街巡りの最中だった。




「――お連れ致しました!」


 と、ドアがノックされて、衛士がひとりの女性を連れて来た。


「ありがとう」


 敬礼する衛士にシーラ様が礼を言うと、彼は照れたように顔を赤らめて退室して行く。


 それからシーラ様は残された女性に顔を向けて。


「どう? お腹は膨れたかしら?」


 そう尋ねると、彼女は気恥ずかしそうに胸の前で指を絡めながら。


「は、はい。お恥ずかしい限りで……」


 ――どういう事?


 と、わたしがシーラ様に首を傾げて見せると。


「ずっと森の中を旅して来て、ロクなもの食べてなかったそうでね。

 異形達を退治した後、空腹で目を回しちゃってたから、先にご飯を食べてもらってたの」


 そうわたしに説明するシーラ様の視線を追って、女性もまたわたしとモンドを視界に収めた。


 色素が薄く光の加減によっては銀にも見える金髪。


 かつては宝石のように透き通ってきらめいていた碧の瞳は、いまはどこかくたびれたようにくすんで見えた。


 ――エイラ・オード。


 かつてソフィアお嬢様が拾い上げた、ローディアの下町に暮らしていた少女は、すっかり大人の女性になっていた。


 わたしのひとつ下だったから、今年で二十歳か。


「――久しぶりね、エイラ」


 わたしが声をかけると、女性――エイラは小首を傾げる。


「え、えっと……」


 戸惑ったようにシーラ様とわたしの間に視線をさまよわせる彼女に、わたしは思わず苦笑。


「わからない? これならどうかしら?」


 と、ポーチからメガネを取り出してかけて見せる。


「――フ、フランお姉様っ!?」


 驚きに目を見開き、エイラはわたしの名前を呼んだ。


「よかったわ。覚えてくれてたのね」


「わ、忘れるわけありません! ああ、ディオラ様、モイラ様、この再会に感謝します!」


 エイラは胸の前で両手を合わせて、月の双女神に祈りを捧げ始める。


「報告書は読んでたけど、本当に知り合いだったのね……」


 シーラ様が驚いたように呟いた。


 <密蜂>との連携を取るに当たって、わたしはわたしとソフィアお嬢様が<叡智の蛇>の前身――<叡智の果実>の創設者であり、エイラ・オードに組織を引き継いだ事を告げている。


 代替わりでもしていない限り、<叡智の蛇>の盟主はエイラ・オードなのだと。


 ただ、ここ四年ほどは連絡が取れていない事も説明していた。


 ソフィアお嬢様が学園に入学した頃から、手紙を送っても返事がなくなっていたのよね。


 折しもローデリア神聖帝国が今上帝に代替わりし、外拡路線を執り始めた頃だった為、国内が混乱しているのだろうと、ソフィアお嬢様もわたしもそんな風に考えていたのよ。


 やがて中原各地から<叡智の蛇>のテロ活動が報告に上がるようになり、わたしもお嬢様もエイラが変わってしまったのかと、諦めにも似た感情を抱いて連絡を断念した。


「あああ、あのあの! わた、私、ソフィアお嬢様に会えるんじゃないかって、そう思ってここまで来たんです!

 フランお姉様、ソ、ソフィアお嬢様もこの地に来訪されてますよね!?」


 興奮すると早口になるのは、あの頃と変わっていないようで。


 そんな些細な事に安堵してしまう自分に気づく。


「落ち着きなさい、エイラ。

 確かにソフィアお嬢様もこの地を訪れているわ。

 会いたいと言ったわね?

 ……順を追って説明してくれる?」


 努めて柔らかな声色で、わたしはエイラにそう尋ねた。


 エイラはコクコクと何度もうなずき。


「……私、<叡智の蛇>から逃げて来たんです……」


 と、そんな風に切り出した。


「――なっ!?」


 モンドが驚愕の声をあげるのを、わたしは視線で黙らせる。


 彼の言の通りなら、エイラは仮面で気づいていないようだけど、彼とエイラは面識があるはずだ。


 <叡智の蛇>から逃げて来たという彼女を、ここで混乱させたくない。


「ソフィアお嬢様に預けられたというのに、あの場所はもう、私にはどうにもできなくて……」


 今にも泣き出しそうな表情を浮かべて、エイラは訴えるようにわたしを見つめる。


 ……そして。


 彼女はポツリポツリと語り始めた。

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