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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
王太子、信仰と狂気を識る

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第21話 4

 セリスが立ち上がり、大声で叫んで。


 ひどく怒ったような足取りで、壇上へと進んでいく。


 会場はざわめくが、誰も彼女の足取りを止められない。


 ――我が妹ながら……


「……随分と肝が太くなったものだよ」


 思わず苦笑と共に呟き、私はオレア様に視線を向ける。


「……ああ、ノリス。着いて行ってやれ」


「ありがとうございます」


 応じてくれた殿下に一礼し、私は足早にセリスの後に続く。


 演壇脇の階段を昇り、セリスはまず観客達に向けて一礼。


 それから壇上におわす、各教派のお偉方にも腰を落として礼を示した。


「いち教徒ながら、あまりにもひどいお話ゆえに口を挟ませて頂きました」


 三大教派のトップ達にそう告げて。


 セリスはティアリス聖教の神子代理を見据える。


「――あなたは……神子代理様は、王は神の代理人と仰いましたね?」


 セリスに問われて、神子代理の女性は鷹揚にうなずく。


「ええ、各国の王もそれを認めるところでしょう?」


 自信満々に返す神子代理に、セリスは首を振る。


「いいえ。いいえですわ、神子代理様」


 セリスは顔を上げて、きっぱりと否定する。


「各国の貴族達が()()()()()()はあっても――王族自らがそれを謳う事は、決して()()()()()のです!」


 神子代理の眉が少しだけ持ち上がる。


「ありえない、とはどういう事でしょうか?」


「わからないのですか?」


 真っ直ぐ神子代理を見返すと、セリスは立ち上がって客席を見回した。


「この場にも、多くの王族の皆様がご列席なされてると存じます。

 その中で王位は神から賜ったものだとする方はいらっしゃいますか?

 いらっしゃるなら、失礼ですが挙手願えますか?」


 王族観覧席からの挙手はない。


 ……それはそうだ。


 まともに歴史を学んでいる王族なら、()()()()()()事を知っているのだから。


 セリスは神子代理に視線を戻して続ける。


「良いですか? 神子代理様。

 現存する各国の王家は、ルキウス帝国期以前――およそ二千年よりさらに前、中原中を巻き込んだ<継承戦争>にて勝ち残った将を祖としているのです。

 そして、東部の国々はルキウス帝国の貴族が祖となっています。

 それは歴史書によって明らかになっていて、()()()()()()()()など、どこにもないのですよ」


 セリスは澄んだ声で、まるで会場全体に言い聞かせるように、きっぱりと言い切った。


「で、ですがローデリアでは――」


 神子代理が食い下がる。


「ええ、ローデリア神聖帝国の祖は、聖女ティアリスと彼女を擁立した豪族の英雄だったそうですね。

 ですが、その豪族の祖もまた、元を辿れば<継承戦争>にて土地を得た兵のひとりです」


「いいえ! 初代皇帝は神に選ばれたからこそ、皇帝の地位に着けたのです!」


 神子代理の表情が崩れた。


 セリスを睨みつけ、眉を怒らせて口早に言い募る。


「ならば、宗教による王の選定は、ローデリアのみで行えばよろしいでしょう?

 各国の王は祖を尊び、その血筋ゆえに選ばれているのです」


 王族席から拍手が上がった。


 まあ、まともに頭が働いたら、王族にとって不利にしかならない、こんな提案を受け入れたくはないよね。


 セリスは王族席に一礼を返して。


「そもそも……」


 神子代理に対して、そう続ける。


「あなた方の言う『神』とは、どなたを指しているのでしょう?」


 それは――ティアリス聖教に対して、決定的な一撃だった。


「例えばわたくしは、サティリア教会に属して、女神サティリア様を敬愛しております」


 そう言って、セリスは胸の前で腕を交差させる、ティアリス教会の祈りの動作をする。


 異界の侵食から人界を守る、サティリア様の像を模した動作だ。


「双月神殿は月の双子女神、ディオラ様とモイラ様を奉り、テラリス社殿は太陽の女神テラリス様をお祀りしています。

 では、あなた方は?」


「――聖女ティアリス様です!」


「ティアリスはヒトでしょう?」


 セリスの言葉に、神子代理は首を傾げた。


 ……本当にわからないというように――彼女は不思議そうにセリスを見つめている。


 なるほど。


 セリスは、だからこそ怒って飛び出したんだね。


 私はようやくセリスの思惑を理解した。


「ヒトであるティアリスが祈った存在。

 彼女を聖女と認めた存在。

 そして、あなた方が神と呼ぶ存在はなんなのか、と。

 ――わたくしはそう訊ねているのです」


 セリスの真っ直ぐな視線が神子代理を貫く。


「まさか、ヒトを――ティアリスを神としているのですか?」


「ち、ちが――神は……神はおわします!」


 会場に神子代理の悲鳴じみた声が響き渡る。


 テラリス様は太陽として。


 双月の女神は月として。


 その化身を私達は日々目にする事ができる。


 サティリア様に関しては、歴史書を紐解けば、過去幾度となくその化身を顕現なさっている事が伺える。


 ヒトを愛する彼の女神は、苦境に立たされる人物の前に気まぐれに現れて、手を貸してくださるのだ。


 だが、ティアリス聖教の『神』は――その存在がひどく曖昧だ。


「神がおわすからこそ、ティアリス様は聖女として――」


「ならば、その神の名は? なにを司り、なにをなさる神なのですか?」


「――神々の御名を軽々しく口にすべきではないのです!」


「神々?」


 ずっと単数形だった存在が、急に複数形になった。


 セリスはその言葉を問いただす。


「いえ、そんな事はどうでも良いのです!」


「敬愛する『神』の存在を、あなたはどうでも良いと仰るのですか?」


「それは……それは――」


 神子代理の顔色は怒りに染まりながらも、セリスに論破されて青くもあって。


 髪を掻きむしりながらセリスを睨むすの姿は、登場した時のような優雅さはどこにもない。


 その動揺は、ティアリス聖教の信者達にも如実に伝わっているようだ。


 さて、ここらで私もセリスに協力しようかな。


「そうそう、これはあくまで商人の話なんですが――」


 セリスの後に跪いて控えていた私は、立ち上がって会場を見回す。


「商品を売る際に、私達は貴族や……時には王族の名前を挙げる事があります。

 誰それ様もご愛用されてます――そう告げると、不思議なことにね……売れるんですよ。

 商人同士の取引の時もそうです。

 自分は誰々様とも取引があって――これまた商談がすんなりとまとまる。

 ……なぜかわかりますか?」


 私の問いかけに――


「――信用だろう?

 その、誰それ様や誰々様が高位であればあるほど――それより下の者は、その方が信用しているなら、目の前の商人も信用できる、そう思うんだ」


 オレア様が皮肉げな表情で答えてくれる。


 私はオレア様に一礼を送り。


「そうです。

 そうして信用を積み重ね、やがて商人自身もまた、他の商人から名前を使われるようになる。

 ……似ていると思いませんか?

 神とティアリスとティアリス聖教の関係に……」


 聖女ティアリスは形の無い神という存在を騙る事で成り上がり――ティアリス聖教もまた、信用を得た聖女ティアリスの名で民衆の信用を得ようとしている。


「――崇高な神を商人などと一緒にするなッ!

 我々は幾度となく、神々の奇跡を目の当たりにしている!」


 神子代理はもはや取り繕うのも忘れたのか、口汚く叫んだ。


「――奇跡とは……」


 けれど、セリスは怯まない。


「奇跡とは、人々の真摯な想いによって紡がれる――ヒトの手による努力の結晶です。

 現に我がホルテッサ王国王太子であるオレア殿下は、ご自身の手によって<亜神>を調伏なさり、東部では広く奇跡が起きたと取り沙汰されております。

 ですが……これはオレア殿下とその共をなさった方々の――ヒトの力であり、そこに『神』などという曖昧な存在の介入する余地など、どこにもありませんでした!」


 オレア様の<亜神>調伏は、中原中で有名な最新ニュースだ。


 その情報を求められて、ソフィアは今日もあちこちの会合に引っ張りダコになっているほどに。


「いいや、奇跡は神の力だ!」


 神子代理が吼える。


「じゃあ、俺はカミサマか」


 茶化すようにオレア様が言って。


「力なんて、魔道を使えばなんとでも言い訳が立つだろう?

 本当におまえらが言う神なんてものがいるのなら……」


 犬歯を覗かせて、挑むように神子代理に笑った。


「――見せてみろよ、その神サマの奇跡とやらを!」


「言ったな、小僧っ!」


 神子代理は叫んで、両手を左右に広げた。


「――哀れな下僕に叡智の輝きを!」

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