表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
王太子、各国の後継達と交流する

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

214/262

第20話 8

 ――シンシアが立ちすくんだその瞬間。


 自分でもびっくりするくらい、自然に身体が動いてくれた。


 リック先生が護身用にと渡してくれた、魔道器の腕輪に魔道を通す。


「――目覚めてもたらせ!」


 略唱の喚起詞と共に、床を蹴って結界の外へ。


 腕輪が黒色の手甲へと変わり、わたくしはシンシアの前に。


 飛び込んでくる異形に向けて、拳を振り抜いた。


 手甲に覆われた拳は、虚ろな目をした異形の顔面を捉える。


「――<剛力甲(アシスト・ガード)>!」


 正規の喚起詞に応じて、魔道器はその効果を発揮する。


 水蒸気の輪が散って、異形が吹き飛んだ。


 拳を振り抜いた勢いで身を回し、わたくしは追撃を警戒して身構える。


「――リリーシャ様っ!?」


 シンシアが驚いた声で、わたくしの名前を呼んだわ。


「オレア殿下じゃなくて悪いわね」


「――なっ、なんでそれをっ!?」


 顔を赤く染めてうろたえるシンシアに、わたくしは片目をつむって応える。


「同じ状況なら、わたくしもあの方を思い描くからよ」


 助けを求める誰かの為に、自らを省みずに真っ先に飛び込んでしまう、わたくし達の漆黒の狼剣士様。


 なにも知らなかった時のわたくしは、あの方には怖いものなんてない、勇気に溢れる方なのだと思っていたわ。


 ……そんな人、居るはずもないのに。


 ホルテッサの守護竜様に、あの方はむしろ臆病なくらいだと教えられて。


 オレア殿下は、勇気に溢れているのではなく――ただ、お優しい為に、誰も見捨てられないのだと気づかされたわ。


 そして、わたくしはただ守られているだけの自分を、恥ずかしく思った。


 だから、力を求めたわ。


 周囲を見回した時――淑女同盟のみなさんは、全員が全員、なにかに秀でていて。


 ――わたくしはひどく中途半端だった。


 得意と思っていた政治分野では、ソフィア様にまるで及ばない。


 魔眼があって有利だと考えていた魔道に関しても、お姉様はおろか、エリスやシンシアにも及ばなかった。


 武に関しても、ジュリアやユメさんのように、幼い頃から鍛錬しているわけじゃない。


 なにもかも中途半端だったわたくしは、それでもせめて守られるだけは嫌だったから、武術を学ぼうと考えたのよね。


 そんなわたくしに、リック先生は言ったわ。


 ――逆に言えば、全部、それなりにできるって事じゃねえか?


 リック先生が言うには、四天王をまとめているザクソン先生が、そういうタイプなんだとか。


 ――おまえは難しく考えすぎなんだよ。


 と、先生は続けたのよね。


 なにかひとつに絞る必要はない。


 わたくしはわたくしができるすべてで、オレア殿下を支えれば良い。


 リック先生の見ている世界は、きっとひどく単純なのでしょうね。


 ……けれど。


 その発想に、わたくしは救われたわ。


 この場はシンシアに出遅れてしまったけれど。


 積み重ねた努力は裏切ることなく、シンシアを守るのに役立ってくれた。


「――あの人形を使っている間は、身を守れないのでしょう?

 あなたはこのままわたくしが守るわ」


 わたくしがシンシアに告げると、彼女は力強くうなずく。


「――お願いしますっ!」


 賢い彼女は、判断も早い。


 再び両手を振り上げて、舞いの型をなぞり始める。


 その四肢から、そして指先から。


 無数の魔道が虹色に輝く糸のように伸びて、傀儡達につながってきらめく。


 魔道を見通すわたくしの魔眼は、魔道傀儡の原理を正確に見抜いた。


 十基近い人形魔道器を、シンシアは魔道の糸で操りきっていたのよ。


 それは彼女自身もまた、努力を続けていた証で。


 いいえ、彼女だけじゃないわね。


 淑女同盟のみなさんは、日々、努力と成長を続けているもの。


「……負けてられないわよね」


 傀儡達が異形と戦うのを横目で見ながら、わたくしも牽制のために攻性魔法を放ち、くぐり抜けてきた異形を拳で迎え撃つ。


 結界を張った護衛達も戦線に復帰し、異形の数はみるみる床に倒れ伏していく。


 その時、庭の方で一際まばゆい真紅の閃光が走った。


 直後、虚ろな表情だった異形達が、不意に苦悶の表情を浮かべる。


 その胸に、漆黒の渦が生まれて。


 まるでその渦に吸い込まれるかのように、異形達の身体がねじれながら収縮していく。


「――――ッ!?」


 異形達が悲鳴をあげた。


 渦は完全に異形を呑み込み、拳大のいびつな鈍色の球体が宙に残される。


 それらは、そのまま次々と金属音を響かせて床に落ちた。


 突然の出来事に、ホールに静寂が訪れる。


 わたくしもシンシアも、護衛達同様に周囲を見回して、警戒を解かない。


 そんなホールに。


「――やれやれ、手間取っちまったよ。歳は取りたくないもんだ」


 割れた大窓をくぐって、エイダ様が戻ってくる。


「――エイダ様! これは……」


 わたくしは床に転がったままの鈍色の球体を見回した。


「禁忌に触れた者の成れの果てさ。

 遺体が残らず、歪められた魔道器官だけが残されるんだ。

 まったくひどい事をするもんだね」


 そうして、エイダ様はホールの天井を見上げて。


「……手間取ってるようだね。どれ――」


 そう呟くと、彼女はおもむろに手にした拳銃型の魔道器をそちらに向ける。


 真紅の輝きがホールを照らし出して。


 駆け抜けた光条は天井を貫いて大穴を空ける。


 そこから、人影が落ちてきた。


 白磁の肌をした――鬼属を思わせる角を額から生やした異形。


「――あんたがこの騒動の仕掛け人だろう?

 なんて言ったか……」


 首をひねるエイダ様。


 頭上に空いた穴から、さらに人影がふたつ落ちてきて。


「……<執行者>です。

 お手を煩わせて申し訳ありません」


 仮面をつけた侍従姿の男――モンドがエイダ様に会釈する。


 ……あの人が他者に頭を下げるなんて――本当に変わったのね。


 身構える白磁の異形――<執行者>に、同じくミリィも身構えて。


「いいさ。禁忌に手を染める奴のツラを拝んでおきたかったしね」


 エイダ様は肩を竦めて、異形を見据える。


「……魔物由来のバイオスーツかい。

 どうやら禁忌はステータス書き換えだけじゃないようだね?

 いろいろと歌ってもらわないといけないねぇ」


 銃口を向けて訊ねられても、異形は無言のまま。


「――とはいえ、だ」


 銃把を離して、エイダ様は苦笑。


 その指先に引っかかって、魔道器がくるりと回る。


 異形が、じりじりとこちらに退くのがわかった。


「あたしじゃ、あんたを殺しちまいかねない。

 ……あんたらもそうだろう?」


 エイダ様が左右のモンドとミリィに問いかけると、二人は正面を向いたままうなずきを返した。


「……残念ながら、ヤツが<鬼装束>を(まと)ってしまった以上、手加減は難しいですね」


「その前に仕留めたかったのですが……」


 モンドとミリィの答えに、エイダ様は銃型魔道器をくるくる回して、腰のポーチにしまうと、不意にわたくしとシンシアに視線を向けた。


「……あんた達、やれるね?」


 居並ぶ護衛達ではなく。


 最果ての魔女であるエイダ様は、わたくし達に問いかけてきた。


 親指で自身の首元を指差し。


「それを持つにふさわしいってトコを……」


 にやりと笑う。


 わたくしとシンシア様は、同時に自分の首元を押さえる。


 そこには、先日、エイダ様から頂いた青い石のペンダントがある。


「――あたしに見せておくれよ」


 ジュリアもエリスもお姉様も。


 この石を預かったみんなは、その努力を証明してきた。


 なら、わたくし達も負けてられない。


「……シンシア、ご覧頂きましょうか」


 わたくしが背後に呟けば。


「ええ。もはやわたくし達は守られるだけの存在ではないのだと。

 殿下にも、ご承知頂く良い機会ですわ!」


 わたくしの気持ちを、そのまま言葉に乗せてシンシアがうなずいて、わたくしの隣に並ぶ。


 異形の周囲を、シンシアが操る魔道傀儡が取り囲む。


「――異形のあなた。

 お相手願えますかしら?」


 ダンスの作法に従って。


 わたくし達は、右手を異形に差し出して。


 こちらに身構える彼は、応じたということで良いのでしょう。


 ――だから。


 わたくし達はふたり並んで、彼に優雅にカーテシー。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂き、ありがとうございます!
ご意見、ご感想を頂けると嬉しいです。
もし面白いと思って頂けましたら、
ブックマークや↑にある☆を★5個にして応援して頂けると、すごく励みになります!
どうぞよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ