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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
王太子、各国の後継達と交流する

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第20話 2

 迎賓館の中央ホールで催されたお茶会は、交流を目的としている為、立食形式となっていて、壁際のテーブルには、各国を代表する様々な菓子が並べられていた。


 菓子ごとに合うお茶も違うため、テーブルごとに色んなお茶が提供されている。


 菓子の甘ったるい匂いと、お茶独特の香味、そして参加者の香水の匂いが混ざり合って、俺は酒を呑んでもいないのに、酔ったような感覚になっていた。


 およその挨拶周りを終えて、俺はホールの隅に設けられた座卓に腰掛けて一息つく。


「オレアお兄様、これ美味しいよ。あーん」


 サラがケーキをフォークで切り分けて、俺の口元に運んでくれる。


「お、確かにうまいな」


 オーウ連合王国の特産の果実がふんだんに使われたもので、爽やかな酸味が気疲れした身体に心地良い。


「んふふ。サラもこれ好き~」


 頬に手を当てて満面の笑みを浮かべるサラ。


 周りに同年代の子供がいないのに、サラに気後れした様子は見られない。


 王族の後継ばかりが集まるこのお茶会。


 次世代の交流という名目で開かれているものなのだが、参加しているのはある程度、歳の行った者ばかりで、俺でさえ若造の部類に入る。


 基本的に王ってのは終身制だから、王が高齢の為に隠居して、王太子が実務を担当している国も少なくはない。


 ウチは父上が現役なのに、俺が働かされてる納得行かない状況だけどな。


 そんな中で、サラのような子供が混じっているのは、やはり奇異に見えるだろう。


 会場に着いてから、ずっとチラチラ見られてるしな。


 それもこれもサヨ陛下が、サラを後継指名した所為だ。


 なんでも、現在、ホツマ国内では先の粛清の煽りを受けて、皇族内が荒れに荒れているらしい。


 というのも、ガンス前宰相がパルドス王妃を嫁がせようとしていたのが、サヨ陛下の後継順位一位の人物だったそうでなぁ。


 前宰相に言われるがままに、それを受け入れようとしていた彼を後継にはできないって事になり……じゃあ、誰を後継にしようかとなった時に、サヨ陛下は思いついてしまった。


 ――サラで良いんじゃね?


 良くねえよ!


 確かにサラは優れた才能を持つ子供だし、可愛いし、控え目に言っても天使だ。


 武術の鍛錬に熱心だが、礼儀作法だってきっちり学んでいる。


 同年代の令嬢に比べたら、かなりしっかりしているはずだ。


 このまま成長したら、さぞかし社交界を彩る美しい華となる事だろう。


 いや、サヨ陛下の言い分もわかる。


 ホツマの政治ってのは、アレだ。


 議会の派閥によってかなり左右される。


 そして、それをサヨ陛下が圧倒的な恐怖で、バランスを取ってる状態なんだ。


 議会の言いなりになるような者が魔王になったら、あっという間に瓦解する際どい構造。


 だからこそ、武に優れているサラに目をつけるのも、わからなくもない。


 サヨ陛下が仰るには、なによりもサラの見た目が良いのだという。


 これはホツマの宗教観念の話になるんだが。


 ホツマは祖霊と精霊を信仰する、特殊な宗教を奉じている。


 祖霊ってのは、先祖――ひいてはその血脈の祖たる貴属、妖属を祀るというもので。


 以前、サヨ陛下にも忠告されたが、サラの白髪紅瞳は、その妖属の血が色濃く反映されたものらしい。


 そして、皇族の血を引いている証でもある。


 現在のホツマの皇族には、白髪と紅瞳、どちらかを持っているものはいるそうだが、両方という者はいないそうで。


 ――ぶっちゃけ、サラが魔王を継いでくれたら、あっという間に国民の偶像(アイドル)になれるぞ。


 そんなんで決めて良いのか、次代の魔王……


 もちろん、サラが望むなら、という前提でサヨ陛下は仰っているのだが、実質、魔王後継順位一位指名だ。


 内々の話ではあるものの、これだけの話を隠しきれるものではない。


 それならばいっそ、確固たる立場を作ってしまえというサヨ陛下の言葉に従い、俺は今回の会議に、サラを連れてきたんだ。


 まあ、ホルテッサの庇護下にある、ホツマの後継ってのを周辺国に知らしめるのは、サラにとっても有利に働くだろうし、ホルテッサにとっても都合が良い。


 ホツマと蜜月関係にあるってのをアピールできるからな。


 サラみたいな幼児を政治の道具にするのは、すげえ気が引けるんだが、そうも言ってられないのが外交ってやつだ。


 ――使えるんなら、馬糞だって使うのが外務交渉よ!


 ってのは、連日飛び回ってるソフィアの主張だ。


 そんなわけで、今日のサラは、立場的にはホツマの後継候補として、このお茶会に参加してるってワケだ。


 本当なら、サヨ陛下が保護者として同席してくれるはずだったんだが、別の――ホツマ製魔道器の流通交渉があるとかで、欠席せざるを得なかったんだ。


 それでも挨拶の時に、サラはしっかりといつもの名乗りに加えて、『サヨ陛下の名代』という事を伝えていた。


 すごくね?


 この歳で、しっかりと自分の立場を理解してるんだぜ?


 俺がサラくらいの時は、ソフィアと一緒にコラーボ婆の小屋で、ゲームに熱中してたぜ。


 いや、ソフィアはなんか小難しい本ばっか読んでたっけ。


 ゲームは俺だけか。


「次は~、あそこのにしよっと!」


 サラは椅子から降りると、小走りにお菓子が並んでいるテーブルを目指す。


「――あ、お待ち下さい。サラ様」


 脇に控えていたエリィが、それを追って。


 俺はそんな二人を見送りながら、コーヒーをすする。


 色んな国が自国の茶葉を提供しているが、俺はやっぱりコーヒーが一番だな。


 ホルテッサの特産テーブルで提供してるんだ。


「……しっかし、この雰囲気、どうにかならんかねぇ」


 俺は何気ない風を装って、周囲を見回す。


 参加している王族達の中でも、武に覚えのある方は気づいているようで、俺同様に周囲を気にしている。


 現在、この会場のあちこちに、各国の諜報員が紛れ込んでいるんだ。


 護衛目的なのだろうが、ぶっちゃけ殺気立ちすぎだ。


「なあ、なんで各国に襲撃情報流したんだ?」


 後ろに立つモンドに訊ねると。


「フラン局長の判断です。

 <竜の瞳(ウチ)>と<密蜂>だけでは、各国の王族方を守りきれませんので」


「自分トコの王族は、自分らで守ってもらおうって?」


 結果として、諜報員同士が牽制しあって、すげえ殺気立ってるじゃねえか。


「この雰囲気の中で、襲撃して来れるなら、それはそれですごいですね」


「まあ、そうだろうけどさぁ」


 仮面の下で苦笑するモンドに、俺もまた苦笑。


 サラを狙った襲撃があるって話は、俺もすでに聞かされている。


 もうお茶会自体、中止で良いんじゃねえかとも思ったんだが、会場の準備も、各国王族方の予定も決まっていて、中止できない状況まで来ちゃってたんだよな。


 なにより、王族の予定が襲撃を警戒して左右されるとなると、メンツに関わる。


 王族たるもの、襲撃など護衛を信頼して、受け流さなければならないんだ。


 しかし、襲撃なんて本当に起こるのかねぇ?


 ダストアの勇者――<銀華>が掴んだ情報だっていうけど、アジトを潰された時点で、計画変更ってのもありえるんじゃねえかな?


 まあ、それならそれで、なんにも問題ないんだろうけどさ。


 そんな事を考えながら、エリィにお菓子を取り皿に盛り付けてもらっているサラを見ていると。


「おや、今日はひとりなのかい?」


 白銀の髪をしたローブ姿の美女――エイダ様が、俺に声をかけてきた。


「エイダ様!? 参加なさってたんですか?」


 俺の問いに、彼女はにやりと笑みを浮かべ。


「魔女に立ち入れない場所なんてないのさ。

 今日は各国の菓子が振る舞われるそうじゃないか。

 留守番してる孫に届けてやろうと思ってね」


 と、エイダ様は腰のポーチをポンと叩く。


 なんでも、そのポーチに収めると、エイダ様の館の倉庫に転送されるらしい。


 ステフの鞄みたいなものだろうか?


「それで? あんたは?」


「俺はサラの保護者みたいなもんですね。

 アルやリッサ様とはさっき挨拶しましたが、ふたりとも他の方々と交流があるようでして」


「フローティア嬢ちゃんはどうしたね?」


「別にあの方と俺は、いつも一緒にいるわけじゃないですからね?

 フローティア様なら、あそこですよ」


 俺が指差すのは、ホールの上手中央。


 フローティア様は多くの男性に囲まれて、談笑の真っ最中だ。


「おやおや、モテモテだね。

 ん? 一緒に囲まれてるのは、リリーシャ嬢ちゃんかい?」


「ええ。先日、親しくなったそうで。

 彼女の隣にいるのが、ウチの魔道士局長の令嬢で、シンシア・リステロです」


 と、俺がシンシアをリリーシャに貸し出す事になった理由を説明すると、エイダ様は顎をさすって目を細めた。


「どこの国も後継問題は難しいもんだねぇ」


 しみじみとしたその声色に、俺はエイダ様の国――シルトヴェールの現王の即位にまつわる出来事を思い出す。


 確か兄が侯爵家の一人娘と結ばれたいが為に出奔し、王座に興味のなかった弟が王位を継ぐ事になったんだったか。


 問題だったのは、その出奔した兄というのが、文武両道で誰からも王に望まれていたという点だ。


 弟――現シルトヴェール王も、決して無能というわけではないのだけれど、兄に比べるとどうしても見劣りしてしまい、貴族達からも侮られているらしい。


「そういう意味じゃ、ホルテッサはうまい仕組みを作ったもんだと、つくづく思うよ」


「ああ、エイダ様は継承試練をご存知なんですね」


 さすが長くを生きる魔女というわけだ。


 ホルテッサの王位は、原則として長子継承だ。


 だが、双子が生まれた場合や、長子より優れた子供が生まれた時、試練によって継承者を決めるよう、初代が法に定めている。


 その試練というのが――


「コラーボが勝負して、資質を見極めるんだろう?

 正直、あの小娘の相手は、あたしでもなるべくならしたくないね」


 ウチの守護竜を小娘扱いだ。


 エイダ様には逆らわないでおこう。


「……ところで、坊や。

 アレは放っておいて良いのかい?」


 と、エイダ様が指し示したのは、フローティア様を中心とした集団で。


 今はその人垣が割れて、金髪の男を先頭に、フローティア様とリリーシャ、シンシアがその後に続いていた。


 窓から差し込む陽の光を受けてきらめく金髪を後ろに撫でつけ、整ったその顔は楽しげな微笑を浮かべている。


 身長も高く、手足も長い――見るからに爽やか系イケメンだ。


 向かっているのは、こことは別――ちょうどホールの反対側にある休憩テーブルのようだ。


「……あれ、誰です?」


 この場にいるって事は、どっかの王族なんだろうけど、知らない顔だ。


「おや、知らなかったのかい? てっきりもう挨拶してると思ったんだがね……」


 意外そうな表情を見せて、エイダ様は続ける。


「――ローデリア神聖帝国の第三皇子。

 フローティア嬢ちゃんに婚約を申し込んだヤツさ」

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