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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
王太子、各国の後継達と交流する

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第20話 1

 各国の要人達が、会議期間中に宿泊する迎賓館。


 今回の会議の為に新設されたのだというこの建物は、招待された国ごとに一棟ずつ用意されていて、もう小規模なお城と言っても差し支えないものになっている。


 リリーシャ様の側付きという名目で同行しているわたくしは、ホルテッサ人なのにミルドニア皇国の棟――リリーシャ様の隣に部屋を与えられたわ。


 側付きと言っても、あくまでそういう名目というだけで、実際のリリーシャ様のお世話は、ミルドニアから来た侍女が行うし、なんなら侍女達はわたくしの世話まで焼いてくれようとするから、かなり気楽な立場ね。


 今は王族子女のお茶会の為に、侍女達に飾り付けられているリリーシャ様を待って、わたくしは侍女が用意してくれたお茶を愉しんでいるところ。


 わたくし自身の準備は――お母様に幼い頃から、自分の事は自分でできるようにと仕込まれているから、さっさと終わらせてしまったわ。


 ゆったりとソファでくつろぐわたくしに、恨めしそうな目を向けてくるリリーシャ様が面白いわね。


 リリーシャ様がわたくしを側付きに選んだ理由は、実にわかりやすいものだった。


 アリーシャ様がそのお立場を復権されて、ミルドニア第二皇女となって、リリーシャ様は第三皇女に順下げになったのだけれど、皇位継承権に関しては、アリーシャ様が望まなかった為に、変化がなかったのだそう。


 むしろ、ラインドルフが皇籍から抹消された為に、ひとつ繰り上がったのだというわね。


 現在、一位と目されているリーンハルト殿下とリリーシャ様の関係は、比較的、良好だそうだけど、彼が異母兄である為に、周囲を取り巻く貴族達同士で派閥争いが起こっているのだとか。


 どこの国でも、政治の駆け引きというのは難しいわね。


 そんな中で、国から派遣される側付きのご令嬢を信じ切る事は難しいという事で、わたくしが選ばれたの。


 侯爵令嬢としての礼儀作法がしっかりしていて、ホツマへ留学中というのも、箔付けとして申し分ないのでしょうね。


 エリスという選択肢もあったのでしょうけど、姉思いのリリーシャ様は、アリーシャ様には気心の知れたエリスが付いた方が良いと、わたくしにお声がけなさったの。


 わたくしに異存はなかったわ。


 近頃、異能の才で、新たな魔道を開拓なさったアリーシャ様に触発されて。


 リリーシャ様もまた、ご自身ができる事を増やそうと努力なさってらっしゃるの。


 毎週、ホツマからの帰国に合わせて訪ねてらっしゃって、古式魔法や武道について学ぼうとなさってる姿は、非常に好感が持てるわ。


 わたくしは逆に、政治分野――特に社交界での根回しの手法などを教えてもらっているの。


 オレア殿下はそういう分野に疎いお方。


 ソフィア様がいらっしゃるけれど、だからこそ、あの方に伸し掛かる業務はあまりに膨大で。


 わたくしは、少しでもご負担を軽くして差し上げたいのよね。


 そんな事を考えながら、わたくしは化粧を終えて、着替えの為に衝立の向こうに消えていくリリーシャ様を見送る。


 ……それにしても、よ。


「――リック先生。

 女性が着替えるのですから、席を外されては?」


 わたくしは正面のソファに座って、茶菓子を頬張る大柄な男性を見据える。


 角刈り頭に、いかつい容貌。


 鍛え上げられた肉体を、いまは礼服に押し込めているわ。


 ――リック・モルダー。


 オレア殿下の友人だという彼は、現在、王城では四天王という役職に就いていて、その職務の一環として、学園の教師もしている。


 そして、今回の会議期間中は、わたくし達の護衛という立場なのよね。


 彼は口の中の焼き菓子をお茶で流し込み、男臭い笑みを浮かべる。


「俺は護衛だからな。

 基本的にすぐに駆けつけられるトコにいるべきだろう?」


 角刈りにした頭を撫でながら、さも当然というように断言。


「オレアから言われてんだよ。

 リリーシャをしっかり守ってやれって。

 なんか理由をごちゃごちゃ言ってたけど、基本的にあいつの言う通りにしておけば、間違いないからな。

 まあ、多少、不自由に感じるかもしれないが、我慢してくれ」


 悪い人ではないのでしょう。


 オレア殿下を信頼しているのも、言葉の端々から感じられる。


 けれど……子爵嫡男だったという割に、この方は礼儀に無頓着が過ぎると思うわ。


 オレア殿下やリリーシャ様を、平気で呼び捨てになさっているし。


「――あら、わたくしはそれほど不自由を感じていませんわ」


 と、衝立の向こうから、淡い青のドレスに身を包んだリリーシャ様が姿を現して、苦笑混じりにそう仰ったわ。


 紫水晶のような髪には、ミルドニア皇女であることを示す、銀細工のティアラが輝いている。


「むしろ、他国の者であるわたくしの為に、リック先生のような猛者を付けてくださった、オレア殿下に感謝しております」


 そう告げて、リリーシャ様はリック先生にカーテシー。


「まあ、俺は一応、おまえの先生でもあるわけだしな」


 と、リック先生は腕組みして胸を張る。


 対して、わたくしは思わずため息をついてしまったわ。


 魔道に成長を見出したアリーシャ様に対して、リリーシャ様は武道に成長を見いだされたのよね。


 わたくしからホツマの武道を教わっているように、彼女は普段、リック先生からも体術を教わっているのだそうよ。


 なんでも、何度も人質に取られた事が、相当悔しかったのだとか。


 皇女の立場に甘えずに、努力するその姿は美しいと思うけれど、リリーシャ様はリック先生に甘すぎると思うの。


 ちょっとくらい注意しても良いと、わたくしは思ってしまうわ。


 そんなわたくしの内心をよそに、リリーシャ様は侍女に指示して、小箱を持ってこさせて、それを受け取ると、わたくしの隣に腰を下ろす。


「――今日は、これをシンシアとお揃いでつけようと思ってたのよ」


 開かれた小箱には、半円に分割された蒼い石のペアペンダントが並べられていて。


「……これって……エリス達が魔女様からもらったという?」


 昨晩、集まった時に、エリスとアリーシャ様がお揃いで着けていたから覚えているわ。


「ふたりのとは別のものよ。

 先日の夜会で、エイダ様が泥酔してらしてね。

 介抱して差し上げて、一緒にお話をしてたら、わたくしをお気に召したと仰って、これをくださったのよ。

 その時は、単純にお礼だと思っていたし、わたくしとお姉様の分だと思っていたのだけれどね」


 昨晩のエリス達の話を聞いて、リリーシャ様もこのペンダントの力に気づいたのでしょうね。


「お守りみたいなものって、エイダ様は仰ってらしたわ。

 お姉様はもう、別に持っているから、これはシンシアに着けてもらおうと思うの」


「……よろしいのでしょうか?」


「あなたが着けなければ、誰が着けるというの?」


 リリーシャ様はそう仰って、手ずからわたくしの首に下げてくださったわ。


「どうも、これをエイダ様から頂いた方は、オレア様との段階を進めているように思えるのよね。

 なら、次はわたくし達の番でも良いと思わない?」


 いたずらっぽい笑みを浮かべて片目をつむるリリーシャ様に、わたくしもまた吹き出す。


「そういう意味でも、お守りなのかもしれませんね。

 ……では、ありがたく頂戴いたしますね」


「ええ、わたくし達にも、幸運が訪れると良いわね」


 リリーシャ様もまた、ペンダントを首から下げて。


 わたくし達は微笑みを交わす。


「――なんかよくわからんが、楽しそうでなによりだ」


 本当に良くわかっていないのだろうリック先生は、腕組みしたまま鷹揚にうなずくと、わたくし達を見回して、力強くそう告げた。


「では、参りましょうか」


「ええ、わたくし達の戦場へ」


 今日は各国の王族の次代が集まるお茶会だもの。


 一筋縄ではいかないでしょうね。


 気を抜けない場になる事は、目に見えているわ。


 リック先生が先導する中、わたくしはリリーシャ様と手を繋いで、会場に向けて歩き出した。


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