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第19話 6

 誘拐犯をやってきた衛士達に預けると、俺は馬車で公都郊外に停泊中の<風切>に向かった。


 犯人ふたりの尋問は、サラ達に同行していた執事が行うそうだ。


 彼が音の鳴らない笛を吹くと、すぐさま代わりの執事がやってきて、引き継ぎが速やかに行われた。


 アルドノート公爵家の執事である彼は、ミルドニアの保安官資格を持っているそうで、尋問術も身につけているのだそうだ。


 俺が<風切>を目指したのは、同じく独自の尋問術を修めているヴァルトを頼る為だ。


 ミルドニアとは良好な関係とはいえ、ウチのサラが狙われた可能性が高い以上、ウチからも尋問官を出すべきだって考えたんだ。


 衛士が来るまでの間に、俺も誘拐犯のふたりを締め上げてみたんだが、連中、金で頼まれたの一点張りだった。


 サラは現在、かなり特殊な立場にある。


 貴属の一種属である妖属の血を色濃く映した魔属の子でありながら、ホルテッサ王弟であるガル公爵の養女にして、ホルテッサ次期勇者候補。


 それだけでも設定盛り過ぎなのに、今代ホツマ魔王であるサヨ陛下が、内々とはいえ後継者に指名している。


 魔王後継に関しては、ホルテッサ内でも侯爵以上――それも手続き上必要な者にしか知らせていないのだが、事が事だけに、俺達は情報が漏れるのは仕方ないと割り切っている。


 だから、サラのそばにはミリィを付けたし、<竜の瞳>も陰ながら目を光らせているはずだ。


 最近明らかになった、あいつの異能もまた、狙われる理由としては十分と思える。


 ぶっちゃけ狙われる要素が多すぎて、犯人の背後関係の特定が難しいんだよな。


 だからこそ、アルドノートの執事やヴァルトの尋問には期待したいところだ。


 頭を悩ませる俺達をよそに、拐われかけたはずの当のサラ達はけろりとしたもので。


 今も元気に街歩きを続行中だ。


 ミリィが<竜の瞳>に護衛の増員を連絡していたから、またすぐに狙われる事はないと思いたいが……


 そんな事を考えている間にも、馬車は<風切>や各国の護衛騎士団が野営している、ルーイン長河の河川敷へと差し掛かっていた。


 氾濫に備えての堤防の上を走る道から、河川敷へ降りる道を下る中、車窓からは<風切>の舷側に集まった人だかりが見えて。


 喫茶店でアリーシャが披露したような魔芒陣を展開したエイダ様が、踊るようにして曲を奏でているのが見えた。


 と、その背後の景色が揺らいで、蒼碧の輝きを放ってヒビ割れ、そこから巨大な影がせり出してくる。


 それは前世で言うところの戦闘機のような――機首にノーズアートのように(かお)があるところなど、まさにそうだ――見た目をしていて。


 けれど、徐々に這い出してくるその機体は、翼が皮膜に覆われた生物質だ。


 機首のすぐ下には前足となる一対の小腕があり、ノズルがあるべき場所からは太く強靭な後ろ脚が伸びている。


「――擬竜じゃん!」


 古竜の遺骸を用いて造られるのだというそれの名を、俺は停車した馬車から降りながら叫んだ。


 ホルテッサにも一基あるんだよ。


 父上達のいる南の離宮の地下に安置されてるんだよ。


 コラーボ婆の祖母の遺骸を使って、婆の母親が拵えたってシロモノがさ。


 魔道帝国時代の魔法で動かしてたって伝承だけが残ってて、今じゃ誰も動かせない遺物だったんだ。


「――なんだい、オレア坊や。

 結局、来たのかい」


 エイダ様が俺を見つけて、擬竜の鼻先を撫でながら声をかけてくる。


 擬竜の大きさは三十メートルほどで。


 背中までの高さは五メートルちょっとというところだろうか。


「あ、はい。ちょっと別件で。

 それよりエイダ様、擬竜の動かし方をご存知だったのですか?」


 俺の問いかけの理由を、エイダ様は正確に読み取ってくれたようで。


「ああ、そういえばホルテッサも、先々代のコラーボを擬竜にしてたんだったね。

 そうさ。竜は唄を好むからね。

 響律魔芒陣こそが、擬竜を手繰る術なのさ」


「――ってことは……」


「ああ。うまく行けば、アリーシャとエリスでホルテッサの擬竜を蘇らせられるかもね」


 ――マジか。


 アレの研究って、実は隠居生活を送ってる父上のライフワークになってたりするんだよな。


 動かせるとなったら、きっと父上は喜ぶに違いない。


「まあ、それはふたりの頑張り次第ってトコかね」


「――アリーシャ、エリス!

 頼む! なんとかモノにしてくれ!」


 ふたりの手を握って俺が頼めば。


「――が、がんばりますっ!」


 と、胸の前で拳を握りしめるエリスと。


「ご褒美は期待しても良いのかしら?」


 愉しげに目を細めるアリーシャ。


「……お、俺にできる事なら……」


 その視線になにか嫌な予感を覚えて、思わず俺は口ごもる。


「やった! 聞いたよね、エリス!

 こりゃ頑張らないとね!」


「そ、そうだね。芸術展覧会もあるし、頑張らないと……殿下がなんでも……」


 いや、エリス。なんでもとは言ってねーぞ。


 いったい、俺はなにを要求されるのだろうか。


 背筋に冷たい汗が伝うのを感じる俺に、エイダ様が再び声をかける。


「んで? 別件ってなんだい?

 なにか厄介事かい?」


「――そうだった!」


 擬竜の出現で、すっかり忘れるとこだったよ。


 俺は慌てて、擬竜の躯体を興味深そうに見て回っているヴァルトに声をかけた。


 そうして街で起きたサラ達の誘拐未遂事件を説明する。


「……つまり、背後関係を吐かせれば良いわけですね」


「そうだ。

 金で雇われただけって言い張ってるから、内偵に<竜の瞳>を使っても構わない。

 ――できるか?」


「ご期待に応えてみせましょう」


 俺の問いに、ヴァルトはいつも着けてる手袋を引き絞って、笑みを浮かべてみせた。


「それじゃあ、ちょうど良いから、衛士詰め所まで送ってやろうかね」


 と、話を聞いていたエイダ様が、擬竜の鼻先を叩くと、まるで応じるようにその腹が開いた。


「――乗れるんですかっ!?」


 俺とアルが身を乗り出してエイダ様に詰め寄る。


 彼女は苦笑しながら、俺達の頭を撫でて。


「……ホント、男の子だねぇ」


 それからエイダ様はエリスとアリーシャに視線を向けて。


「擬竜の制御を見せてやるから、しっかり覚えるんだよ」


 その言葉に、ふたりは。


「――はい!」


 声をそろえて大きくうなずいた。

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