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第19話 4

「――ぜひ、俺達も!」


 エイダ様の言葉に、まず乗り気になったのは、魔道に造詣が深いアルとリッサ様だった。


 誘われた当のアイシャとエリスは、きょとんとしてる。


「あんたらは素養がない。諦めな」


 エイダ様はばっさりと切り捨てるが。


「それならひと目だけでも!」


 と、アルは食い下がる。


「……仕方ないねぇ。見せるだけだよ」


 根負けしたのか、エイダ様は肩を竦めて、アルとリッサ様の同行を許した。


「あんたも来るのかい?」


 座ってお茶を飲む俺に、エイダ様は尋ねる。


「いや、俺は良いです」


「は? 魔女の魔法を見られるんだぞ?」


 アルが意外そうな表情を見せるが。


「――俺には俺の都合があってだな……」


 そもそも俺にとっては、今日の街歩きはそれが主目的と言っても良い。


 確かに西の魔王と名高いエイダ様の魔法に、興味がないと言えばウソになるが、それより優先しなければならない事があるんだ。


 それがあったからこそ、アルとリッサ様の街歩きに同行することにしたと言っても良い。


 俺が同行しない事に残念そうにしながらも、エイダ様の魔道指導への興味が勝ったのか、アルとリッサ様は店の外に向かうエイダ様達の後に続いた。


 ひとり取り残された俺は、再度、カップを傾けると、肩掛け鞄から写実器(カメラ)を取り出す。


「さて……」


 テーブル横の窓を開ければ、春の心地よい風が店内に吹き込む。


 露天屋台で売られている様々な飲食物の匂いに混じって、街路樹の花の香り。


 実はこの時間帯にこの店に入る事は、昨日の段階で決めていたんだ。


 エリス達と会って、予定より早く着いてしまったが、遅れるよりはずっと良い。


 店員にお茶のおかわりを頼んで、俺は窓の外――人々が行き交う通りに顔を向ける。


 連合諸国会議の期間だけあって道行く人々は様々で、ベルクオーロの主属である人属だけでなく、獣属や巨属、魔属の姿さえあった。


 ――しばらくして。


「……来たっ!」


 俺は窓際に身を寄せて、写実器(カメラ)を構える。


 向ける先は、通りの向こうから歩いて来る三人の幼女だ。


 ……こう言うと誤解を招きそうだな……


 正確には、サラとその友人であるフランチェスカとティナだ。


 サラはミリィと手を繋ぎ、フランチェスカとティナは彼女達の保護者と思しき中年の執事を間に挟んで、仲良く手を繋ぎながらやって来る。


 そう。今日はサラの初めての街歩きの日なんだ。


 大事な妹分の記念すべき日を写真に収めるのは、兄貴分である俺の使命と言っても良い。


 俺の代わりに王城に残ってくれた叔父上の為にも、この使命は絶対に実行されなければならない。


 三人の幼女は棒付き飴を手に、嬉しそうに歩いていた。


 連射した。


 そりゃもう連射したさ。


 サラにとって、初めての友人との街歩きだ。


 写真は何枚あったって多すぎるって事はないはずだ。


 飴を舐めて、友人達と顔を見合わせてる、あの幸せそうな顔!


 控えめに言って、天使じゃね?


 見てるこっちまで幸せな気持ちになってくるもんな。


「……ん?」


 そんな気分に水を差すヤツが現れたのは、その直後だった。


 平民の格好をしたそいつは、行き交う人々を縫うようにして、背後からサラ達に忍び寄り――


「――あっ!?」


 突然の事に、俺は思わず声をあげる。


 その男はすくい上げるようにしてサラを担ぎ上げ、そのまま駆け――出せなかった。


 サラと手を繋いだミリィが、右足を高く掲げて滑るように男に追いすがり、その後頭部に踵を振り下ろす。


「――ガッ!?」


 男が呻いて前のめりに倒れ込むのと、サラが宙に放り出されるのは同時で。


「――ミリィ!」


 サラが叫ぶと、ミリィはサラの思惑を察して、その手を引いて、身を回した。


 サラの身体が宙に放たれる。


 向かう先はフランチェスカ達の背後で。


「――必殺のぉ! ビリビリっ!!」


 紫電が周囲を染め上げて、木板を打ち合わせたような衝撃音が通りに響き渡る。


 俺は慌てて会計カウンターにベルクオーロ金貨を置いて、店外に飛び出した。


「――成敗っ!」


 通りに出ると、そこには紫電でノビた男の背に立って、ブイサインを掲げるサラの姿。


「サ、サラ様、すごいっ! すごいすごい!」


 フランチェスカがそんなサラに抱きついて飛び跳ねて。


「――さすがサラ様です」


 ティナもまた、驚きの表情を隠さずに称賛を口にする。


 俺は周囲に視線を巡らせて、それ以上の刺客が居ないのを確認。


 それから最初の男を取り押さえているミリィに歩み寄る。


「よくやってくれた。ミリィ」


 昨晩のうちにオリーの顔を見せていたから、彼女はすぐに俺だと気づいた。


「……いえ、接近に気づけませんでした。申し訳ありません」


 男を拘束している為、目礼で詫びるミリィに俺は苦笑。


「いや見てたが、この人通りじゃ気づけないだろ。詫びる必要はない」


「――あっ! オレアお兄様だ! 見て見て~!

 サラ、悪者やっつけたの!」


 姿変えを使っているにもかかわらず、サラは異能でも使っているのか、正確に魔道を読み取って、俺の名前を呼んでくる。


 ここまで来ると、襲撃者が哀れに思えてくるな。


 あいつもまさか七つの幼児が、攻精魔法を使えるとは思いもしなかったはずだ。


 なんせサラは、この歳にしてホルテッサの勇者候補だ。


 このまま成長を続けるなら、成人を待って勇者認定する予定だ。

 

 俺がサラに歩み寄ると、フランチェスカとティナが不思議そうな顔で俺を見上げた。


 たった今、襲われそうになったばかりだからか、明らかに警戒の色が浮かんでいる。


 一緒の執事も幼女三人を庇うように前に出た。


 そんな執事と友人達をよそに、サラは跳び上がって俺に抱きついてきて。


「大丈夫、すがたかえの魔法を使ってるだけで、この人はオレアお兄様だよ!」


 そう説明してくれる。


 執事がミリィに確認の視線を向け、ミリィは頷きで返答。


 その間にも、俺はサラの電撃でノビた男の横にしゃがみ込んだ。


 男の上着を剥ぎ取り、それで手足を拘束する。


 執事に衛士を呼んでくるよう頼む間に、ミリィがもうひとりを同じように上着で拘束して引きずって来て、ふたりを並べる。


 ミリィの踵を喰らった男は完全に昏倒していたが、サラの電撃を受けた男は、身体の自由が利かないだけで、意識ははっきりしていた。


「――んで? おまえは何処の誰くん?」


 サラの初のお出かけと、俺の至福の時間を邪魔したんだ。


 背後関係、きっちりと吐いてもらわないとな。

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