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第19話 3

 あたしの曲に乗せて、エリスが歌ってる。


 孤児院時代に戻ったようで、それがなんだかすごく嬉しい。


 あの頃も、年少組の為にあたしがオルガンを弾いて、あんたが歌ってたよね。


 エリスの歌によって、精霊光が店内に出現して、曲に合わせて舞い踊る。


 目の前に不意に現れた幻想的な光景に、お客達はそれまでの手拍子さえ忘れて、エリスの歌に聞き入った。


 そう。これがエリスの歌。


 聞く人みんなを虜にしちゃう、すごい才能。


 曲調に合わせて彩りを変える精霊光さえ、エリスを輝かせる舞台装置で。


 なんでもない童謡だって、エリスが歌えば芸術になっちゃうんだから。


 それから三曲ほど続けて。


 鍵盤楽器の旋律が余韻を残す中、あたしとエリスは深々とお辞儀。


 顔をあげたあたしは、ぐるりと店内を見回して。


「――三日後の芸術展覧会にも出場しますので、ぜひ見に来てくださいねっ!」


 片目をつむって店内に告げると、お客達は割れんばかりの拍手をくれた。


「さすがエリスだわ」


 そんな店内の反応に、あたしは満足して大きくうなずく。


「アイシャこそ!

 なに、なんなの今の!?」


 ふふ。驚いてる驚いてる。


 そういう反応してもらいたいから、こっそり練習してたのよね。


「へへ。今のはね……」


 タネを明かそうとしたところで。


「――いやはや、まさか現代で響律魔芒陣を再現してるヤツがいるとはね……」


 そう言いながら、お客達の中から進み出てきたのは、美しい白銀の髪をした女性で。


「――エイダ様!」


 殿下とアル様、リッサ様が彼女の名前を呼んで、礼を取った。


 あたしも同じように礼を取ると、彼女が何者かを知らないエリスもあたし達に倣う。


 いや、あたしも詳しくは知らないんだけどね。


 先日の王族が集まったあの夜会で、彼女が殿下とアル様に拳骨食らわせてたのは見てたからね。


 きっと王族以上に偉い人なんだと思う。


「ねえ、アイシャ。誰?」


「……なんかね、西の魔王とか、果ての魔女とか呼ばれてる、偉い人」


 不思議そうな顔をしているエリスにそう説明する間にも、エイダ様と呼ばれた彼女はあたし達のそばにやってくる。


「ん? あんたらは……この魔道は、オレア坊やとアル坊や、リッサ嬢ちゃんかい」


 と、エイダ様は、姿変えを使っている殿下達の正体を見抜く。


「――先日はお世話になりました」


 殿下はそうお礼を言って、彼女に席を勧める。


「ありがとよ。

 いやさ、孫の土産選ぼうと街をぶらついてたら、懐かしい魔道の使い方されてるのが見えてね」


 二十代なかばくらいの見た目なのに、孫がいるの?


 彼女の何気ない言葉に驚かされる。


 そうしてエイダ様は、同じように席に着いたあたしとエリスを見た。


「古代魔法――ステージを人属が使ってるのも驚きだが……」


 その赤い瞳があたしを見据えて。


「あんた、さっきのアレは独学かい?」


 尋ねられて、あたしはうなずく。


「――ほぼ独学みたいなもの、かなぁ。

 一応、ゴルダ先生とかヴァルト先生から、古い資料を融通してもらいましたけど……」


「ん? なんだ、ヴァルト先生って」


「アレ? オリー、知らなかったの?

 てっきり、オリーの指示だと思ってたんだけど……」


 この春から、殿下の四天王のみなさんが、日替わりで学園講師してんだよね。


 青田買いだとか、腐敗教師の粛清とか、よくわかんない事言ってたから、あたしもリリーシャもてっきり殿下の指示だと思ってたのよね。


「あいつら……毎日誰かしら欠けてると思ったら、学園でそんな事してたのか……」


 顔を片手で覆って、殿下が呻く。


「それはともかく、ゴルダ先生もヴァルト先生も古い文献、たくさん知ってるから、あたしに協力してくれたの」


 そうして、あたしは説明を始める。


 きっかけは半年前。


 ラインドルフが引き起こした、あの事件の直後だったと思う。


 あたしは魔道の流れみたいなものが視えるようになっていた。


 魔眼を使おうとすると、虹色にきらめく綺麗な線がそこらに見えてね。


 ゴルダ先生に相談したら、あの巨属の学者先生は。


 ――きっと魔眼が進化して、魔道が視えるようになったんだろう、って。


 だからゴルダ先生とふたりで色々と実験を繰り返して。


 ――視えるんだから、触れられるんじゃないかね?


 そんなゴルダ先生の言葉が発端となって、あたしは魔道に触れる練習を始めたんだ。


 そうして数ヶ月。


 ついに魔道に触れるようになったあたしは、先生と一緒にこの力の使い道を模索しはじめた。


「そんな中で、魔道への触り方で、音が出る事に気づいてね」


 色ごとに音階があったりするのにも気づいた。


「で、先生が太古の昔には魔道で音を奏でて、原始的な魔法を使っていたという記録があったはずって言い出してね」


 ふたりで学園の図書館で、その資料を探してたら、ヴァルト先生に見つけられて、彼もまた協力してくれるようになったってわけだ。


「それでつい先週、ようやくできるようになったのが、さっきの魔芒陣演奏――ってわけ」


「……いやはや、すごいねぇ。ホント、長生きはするもんだよ」


 それまで黙って聞いていたエイダ様が、感嘆を漏らした。


「あんたが魔芒陣演奏って呼ぶアレは、正しくは響律魔芒陣ってシロモノさ。

 定められた音階と旋律で世界を書き換える――まあ、原始の魔法を使うためのモノさね」


 その言葉に、今度はあたしが驚いてしまう。


「音を出すだけのものじゃなかったんですか?」


 楽器がなくても、いろんな音色を奏でられて便利で。


 あたし、音楽の魔法だと思ってたんだよね。


「……なるほどね。魔法の再現までは行ってないって事かい。

 まあ、スコアなんてもう遺ってないだろうしねぇ」


 小さく鼻を鳴らして。


 エイダ様はあたしとエリスを見据える。


「あんたら、三日後の芸術展覧会に出るんだってね」


 その赤い瞳が愉快そうに細められて。


「いいね。面白いじゃないか。

 オレア坊や、このふたりを借りてくよ」


 そう告げるが早いか、エイダ様はあたしとエリスの手を取る。


「は?」


「――え? え!?」


 驚くあたし達に、彼女はニヤリと笑って告げた。


「教えてやるよ。

 本当の魔法ってやつをね」


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