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第17話 3

 まるで俺の反応を確かめるように、じっと見つめてくるフローティア様。


 だから俺は、首を振って見せる。


「いや、無理だろう?

 フローティア様は――」


 現在、ダストア王国は王太子を置いていない。


 王がまだ40代と若い事もあるし、三人の王子王女がみな優秀だから、決めかねているという事もある。


 だが実際のところ、フローティア様が女王として即位するだろうというのが、大方の見立てだ。


 長子のルシオン殿も優秀な方なのだが、フローティア様に比べると気弱な点が目立ち、なにより本人が王になりたがっていない。


 数年前、フローティア様に泣かされた俺を慰めてくれてた際に、本人が言ってたから間違いない。


 彼は王位をフローティア様に譲って、彼女の補佐をしたいのだという。


 その方が性に合うと言っていた。


「――王太子内定してるようなもんなんだから」


 彼女の妹のアレーティア様もまた、政治への興味は薄く、とにかく一生を<兵騎>の発展に捧げたいと公言しているような変わり者だ。


 となれば、フローティア様が立つしかないだろう。


「……だからこそ、なのよ」


 怒りに満ちた目で、フローティア様は告げる。


「裏でどうにもならなくなったから、表から仕掛けてきたのね」


「……というと?」


「――<叡智の蛇>の暗躍。

 それを潰したから、次の手ってわけね」


 肩を竦めて苦笑するフローティア様。


「あの連中とローデリアが繋がってるっていう確証が取れたのか!?」


 ラインドルフやミレディに訊いても、そこだけは確証が取れなかったんだ。


 ふたりはあくまで盟主の指示を受けて動いていたのだという。


「わたしは以前から繋がりを疑っていたからね。

 捕らえた執行者に尋問したの。

 それでわかったのだけれど、その執行者が以前組んでいた使徒が、今のローデリアの宰相よ」


 政治のトップが使徒だと……


 実質、ローデリアは<叡智の蛇>に牛耳られてるようなもんじゃねえか。


「だからわたしは、今回の婚姻話は<叡智の蛇>絡みだと思ってる。

 申し入れのあった公子が王配に納まれたら御の字、もし内政干渉を嫌って、わたしが王位を断念したなら、王になるのはルシオン兄様よ。

 どのみち外交はやりやすくなると考えているのでしょうね……」


「だが、なんでダストアなんだ?」


 いや、狙われたのはウチもだが、ローデリアという国を治めている以上、中原東部にあるウチやダストアを狙う理由がわからない。


 途端、フローティア様は悔しげに首を振って唇を噛んだ。


「ウチだけじゃないわ。

 ここベルクオーロやランベルク、ミルドニアも含む南部諸国にも婚姻話を持ちかけているそうよ。

 北部のシルトヴェールはまだ王子が幼いから無いそうだけど、その南の商業都市にも働きかけてるみたいね」


 中原の主要各国に縁戚政策を打ち出してるって事か?


「それとね、今年の会議に彼の国は傍聴国として、参加を申し込んでるって知ってた?」


 中原の西端にあるローデリアは、先の<大戦>で連合に参加しなかった。


 東部にある魔族の国ホツマの脅威や被害を直接受ける事がなかったからな。


 だからその後に開催されるようになった中原連合諸国会議にも、ずっと不参加を貫いていたんだ。


 それが今年になって参加を表明したのは……


「パルドス亡命政府か……」


 留学中だったパルドスの第二王女を旗印に、ローデリア国内の在パルドス人が亡命政府を立ち上げたのだという。


 その保護を大義に、ローデリアとその亡命政府は、今年の会議に乗り込んできたというわけだ。


 目的は亡命政府の本国帰還と、国境封鎖の解除だろう。


 それが成れば、ローデリアは中原中域に大きな干渉力を持つようになる。


「ここまで来れば、ローデリアの目的が見えてくるでしょう?」


「ああ、中原に覇を唱えようってわけか……」


 それも戦ではなく、政治的――縁戚という形で、表向きは平和裏にだ。


「わたしはね、それを潰したいのよ」


 そう言って、フローティア様は俺に手を差し出す。


「オレア、協力して頂戴。

 これを契機に、<叡智の蛇>を滅ぼすわ」


「……できると思うか?」


 なにせ相手は、中原中に影響力を持つテロ組織だ。


「その為に、ウチは懐刀を連れてきたのよ?」


 どうやら本気らしい。


「いい加減、うんざりなのよね。

 知ってるでしょう? ウチの北部にはツガルの流れを組む遺跡群がたくさんあるの。

 でも、下手に発掘なんてしようものなら、<叡智の蛇>に狙われる可能性があるから、いまだに手をつけられてないの」


 連中は古代の遺物を好んで収集するからな。


 ウチも東部の開拓が進めば、同じように狙われる遺跡が出てくるだろう。


 考え込む俺に、フローティア様は焦れたように閉じた扇を突きつけて。


「そもそも考える必要なんてないでしょう?

 臣下の憂いを取り除いてあげるのも、王の勤め……そうじゃないかしら?」


 見慣れたイジメっ子の表情で、彼女は俺に告げてくる。


「ど、どういう事だ?」


「とぼけるんじゃないわ。

 ……ソフィアの事は、わたしの耳にも届いているのよ?

 ――初代の盟主なんでしょう?」


 ……ソフィアがそれをランドルフに告げた時、王都の民が大勢集まってたからな。


 流れ流れてダストアまで伝わったのか。


 ソフィア自身はすでに組織とは切れてるとはいえ、今の盟主はあいつの知己だというからな。


 表には出さないが、内心は穏やかではないはずだ。


「――わかったよ!

 どのみちあの組織は、色々と厄介だと思ってたんだ!」


 俺は頭を掻いて、差し出されたフローティア様の手を取る。


 ダストアが協力してくれるなら、取れる手段も多くなる。


 <天使>を始めとする未知の技術には、ユメも不審感を抱いていたしな。


 この際、潰せるなら潰してしまいたいというのが本音だ。


「はじめから、そう言えば良いのよ」


 満足げに胸をそらすフローティア様。


 やっぱ俺、この人苦手だ。


「で、具体的にはどうするんだよ?」


「手始めとしては、主要国をこちらに引き入れるところからね。

 パルドスの閉鎖を解かせないようにするのが大前提。

 隣接国は、過去に被害を受けているから認めないでしょうけど、そうじゃない国はどう転ぶかわからないからね」


「俺、交渉事って苦手なんだよな」


「誰もオレアにやれなんて言ってないでしょう?」


 そうして彼女は、再び俺に扇を突きつける。


「聞いてるのよ? この一年であなた、ずいぶんと手駒を増やしたみたいじゃない?」


「ずいぶんと良い耳持ってるんだな……」


 さっきからウチの事情に通じ過ぎだろう。


 いや、昔からそうだったっけ。


 彼女はやたらと俺の周辺に詳しくて、会議で会うたびにネチネチといじめられたものだ。


 間者が入り込んでるなら、ウチの暗部が黙っていなさそうなもんだが、そういった話は上がってきていないんだよなぁ。


「まあ、詳しい計画はいずれ報せるわ。

 あまり長くふたりで外してると、いらない噂が立ちそうだしね。

 ダストア女王候補とホルテッサ王太子のスキャンダル。

 新聞の格好の的じゃない?

 だから、今日はここまでという事で。

 それじゃあ、ごきげんよう」


 そう告げて、フローティア様は優雅にカーテシーして、ホールに戻っていく。


 おかしな噂が立つと困るのは、俺も一緒だ。


 だから俺は少し間を空けて、ホールに戻った。


 途端。


「――見つけたぞ! ホルテッサの王太子!」


 そう声を荒げて、俺に指を突きつけてきたのは、目が覚めるような赤毛の青年で。


 ……誰だ?


 今日の宴は王族しか招かれていないから、どこかしらの王族なのだろうが、見覚えがないという事は、初対面のはずだ。


「……ランベルクの第三王子アルマンド殿下です」


 さり気なく寄ってきたソフィアが、俺にそう耳打ちする。


 あー、知らないわけだ。


 ランベルクは毎年、王と王妃のみで会議に参加してたからな。


「はじめまして。アルマンド殿。

 その剣幕はいったい、どうしたのですか?」


 俺は笑顔の仮面を貼り付けて、なるべく彼を刺激しないよう、そう告げる。


「――黙れ! この女の敵め!」


「……はあ?」


 前世の記憶の所為で、むしろ女は敵と思ってる俺が、女の敵だと?


 いや、女に敵のように嫌われてるという意味なら、合ってるのか?


 俺が困惑の表情を浮かべたのを、馬鹿にされたと取ったのか、アルマンド殿はさらに顔を赤くした。


「――貴様に決闘を申し込む!」


 投げられる手袋。


「なんでそうなるっ!? 理由を説明しろ!」


 それを打ち払って、俺は素の口調もあらわに叫び返していた。

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