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第15話 8

 ようやく落ち着いた父上達を見据え、俺はため息をつく。


「――それにしても、本当に……ぷっ!

 クク……可愛らしくなったものだな!」


 ……父上はまだ落ち着いていないらしい。


 クソぅ。


 その似合わねえアゴヒゲ、引っこ抜いてやろうか。


「ちょっと目つきが悪いけど、ソフィアちゃんそっくりね」


 などと言いながら、母上は俺の背後に回り込み。


「――あの、母上?」


「いいから。娘の髪を結うのが夢だったのよねぇ……」


 俺の頭を掴んで前を向かせると、どこからともなく櫛やらリボンを取り出し、今朝、フランが整えてくれた俺の髪をいじり始める。


 そのいきなりどっからか道具を出すやつ、クレストス家の女はみんな使えるのか?


 母上はクレストス家の先々代当主の末妹――ソフィアの大叔母にあたる。


 だから、ソフィアやフランが使ってるその技術が使えたとしても不思議ではない。


 俺はされるがままに髪をいじられながら、そんな事を考える。


「――しかし、開拓村のそばに魔道帝国時代の遺跡がなぁ……」


「陛下が滞在した頃に、周辺調査はし尽くしたと思ったのですがねぇ」


 父上の言葉に、ネイト宰相が首をひねる。


「それ、三十年くらい前の話だろ?

 その頃より開拓範囲が広がってるんだよ。

 当然、狩りをする森も、父上が訪れた頃は奥地とされていた辺りになってる」


「……時代の流れというものか。

 これを機に周辺調査をし直すのも良いかもしれんな」


 父上は似合わないアゴヒゲを撫でながら遠い目をして告げる。


「ああ、王城に調査団の手配を頼んでおいたから、ついでに第二に周辺調査をさせるつもりだよ」


 俺が真剣に答えたというのに、父上は俺を残念そうな目で見る。


「――その顔でその口調、どうにかならんか?

 そもそもおまえ、去年までは俺がどれだけ言っても、頑なに敬語を崩さなかったじゃないか」


 父上の言葉に、フランが身を乗り出し。


「さすが陛下! もっと言ってやって下さい!

 わたしもさんざん言ったのに、殿下ったら直してくださらないんですよぅ」


「――それでバカ見て、バカバカしくなったんだよ。

 俺が良い子ちゃんで得するのは、周りの小狡い連中ばっかりだ」


 この一年の出来事は、王城にいる時からこまめに遠話で伝えてある。


 だから父上もうなずきを返し。


「……ふぅむ。

 成長と言えば成長なのだろうがなぁ……なあ、試しにパパって呼んでみんか?」


「あら良いわね。わたしの事はお母様って呼んでみない?」


 クソっ!


 夫婦そろって、女になってしまった俺をいじって愉しんでやがる。


「――とにかく!

 あの地下遺跡は魔道帝国時代の遊戯施設だ。

 野生化したキメラが大量に繁殖してるから、キメラ研究も進むんじゃねえかな。

 調査団次第だけど、俺達が見つけられなかった魔道技術も見つけられるかもしれない。

 開拓村への予算を増やすから、承認を頼む」


 俺は強引に俺が話題を戻した。


 途端、父上は今度こそ真剣な顔で俺を見据えて。


「――遊戯施設というのは、()()()()()()()()の判断か?」

「ああ。()()()()()()()


 この場にロイドやフランが居るから、父上はあえて言葉をボカしてくれたのだろう。


 父上は、この世界より科学的に進んだ世界の記憶を持つ俺の目で見て、遊戯施設と判断したのかと、そう尋ねたんだ。


 実は俺に前世の記憶があるのは、記憶が蘇った直後に報告してある。


 ……というより、バレた。


 あれは紙幣制度の導入を報告したのがきっかけだったか。


 制度の導入による利点を説明した際に、この時代にそぐわない概念や言葉をうっかり使ってしまって、父上に怪しまれたんだ。


 まして言葉遣いなんかも変わっちまってたからな。


 初めは悪魔憑きを疑われたんだが、過去の記憶もまたはっきりしている事から、サティリア教会が伝える、『前世持ち』なのだと納得してくれた。


 俺はその時まで知らなかったんだが、悪魔憑きの場合は別人格になっちまうから、過去の記憶がないんだそうだ。


 父上は腕組みして、宙に視線を走らせる。


「――例えば、それはそのまま流用できるものか?」


「観光地化できるかって質問なら無理だよ。

 キメラの数が多すぎるのと、魔道技術――鬼道の部分がステフでも理解できてない。

 たぶん、魔道器で劣化版を別に作った方が早いと思う」


 ステフの頭脳は父上も良く知っている。


 あいつが無理というなら、一朝一夕ですぐにどうにかなる問題じゃないとわかってもらえるはずだ。


「――なら、その方向で進めよう。

 おまえ、子供への教育に力を入れてるだろう?

 頑張る子供にはご褒美が必要だと思わないか?」


「……学園での遠足を、幼年学校にも取り入れようって事か?」


「そうそう。

 遠足先に遊戯施設を設けて、遊ばせてやるんだ」


 ……悪くない案だな。


 王都の東側にある森が星船の落下で木々が薙ぎ倒されてて、間伐しないといけないとか農林省から上がってきてたはずだ。


 どうせだから切り開いて、その木材を使って遊園地を作るのも良いかも知れない。


 新たな雇用も造れるし、王都の新たな観光名所にもなる。


 一度遠足で訪れた子供は、今度は親と来たくなるはずだ。


「国営にするより、商人ギルドを絡めたいと思うのですが……」


 その方が、ノウハウを積んだ商人達が国内各所に似たような施設を作ってくれるはずだ。


 俺の考えを正確に読み取った父上は、鷹揚にうなずく。


「ああ、その方がいいな。

 手始めに王都、次にフラムベール。

 そこまでは国庫で面倒を見て、そこから先は商人ギルドに任せた方が普及が早まるだろうな」


 俺はフランに持たされたポーチから手帳を取り出して、手早く書きつける。


 スカートのポケットに手帳を入れようとしたら、フランにもセリスにも、スカートの型が崩れるってめちゃくちゃ怒られたんだよな。


「――さて、それじゃあ本題と行くか……」


 父上はアゴヒゲを撫でて、そう告げる。


「……<亜神の卵>の件、か」


 途端、俺は母上に頭を叩かれた。


「なに言ってるの!

 そんなのはあなた達が頑張ってどうにかなさい!

 ――本題はセリスちゃんの事に決まってるでしょう!」


「――え? そっち?」


 父上を見ると、母上への同意を示して深々とうなずいている。


「あの娘は、家や父親、そして王室や勇者を名乗るクズに翻弄された哀れな娘だ。

 それでもなお再起してみせた心意気を褒めてやらねばならんだろう?」


 ……そういや、ウチの両親ってセリスやソフィアには、めちゃくちゃ甘いんだよな。


 そんなに娘が欲しかったか。


 そうか。


 悪かったな。男に生まれて来て。


 今は女だぞ。


「……俺ももっと甘やかしていいんだぞ?」


「――パパって呼んだらな」


 父上は片目をつむってニヤリと笑う。


「――わ、わたし、セリス様を呼んできますね」


「じ、自分も行って参ります」


 堪えられなくなったのか、フランとロイドが回廊へと駆けていく。


「ぜってえ、呼ばねえからな!」


 俺が声を張り上げると、回廊の向こうから吹き出したフラン達の笑い声が聞こえた。

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