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第14話 10

 翌日、俺達は開拓村を後にする事にした。


 元々はこの後、父上達のいる離宮に向かう予定だったのだが、それを変更して、離宮の北にある学術都市に向かう事にしたんだ。


「――手持ちの器材じゃ、ティアラの解析が追いつかネーンダ」


 と、ステフが言い出したのが発端で。


 ロイター子爵には、遺跡調査の為に後日、調査団を派遣する事を約束して、俺達は出立した。


「――獣騎車って思ったより揺れないんだな。

 馬車とは大違いだ」


 俺の正面に座り、個室内を珍しそうに見回すのはリックだ。


 こいつもステフ同様、ザクソンが結婚するのを知らなかった為、ついでだからと同行させる事にした。


「ああ、緩衝板に新型の刻印を施しててな。

 今はまだデカいのしかできてないけど、いずれ小型化して馬車にも転用させようと魔道局に研究させてる」


 そう告げる俺は、今日も女の格好だ。


 目覚めたら男に戻ってないかと期待してたんだけどなぁ……


 フランが自前の服を俺に合うように丈を繕ってくれて、今はそれを着ている。


 相変わらずスカートは落ち着かなくて、知らず知らずに内股になってしまう。


「小型化なら、あたしに見せてミロョ。

 うまいコト、調整かけてやるぜぃ?」


 リックの隣に座ったステフが得意げに胸を張る。


「おまえはまず、俺を男に戻す手段を見つけてくれ……」


「――フラムベールについたら、まずは殿下の服を買わないといけませんね」


 妙に気合を入れたセリスが、両拳を握りしめて俺に告げる。


 学術都市フラムベールは、先々代の王――曽祖父の時代に造られた都市だ。


 曽祖父の友人であった統合学者――当時は賢者と呼ばれていたのだが――が開いた私塾がその礎となっている。


 国内外の学者が集まっていった結果、学者の街として発展してきたという歴史がある。


 王都の国立大学が政治と密接に紐付いた学府なのに対して、フラムベールは学者が自身の好きな事を好きに研究する趣味人の都市といった趣だ。


 宮廷魔道士に進まなかった魔道士も多く集まっているし、学者の依頼が定期的に舞い込む為、多くの技術者も集まっている。


 王国一の大図書館がある事でも有名で、智の道を志す者なら一度は訪れてみたい都市となっている。


 都市の名前は賢者の名が用いられていて、生前の彼の遺品を展示した記念館がある事でも有名だ。


 父上のいる離宮から馬車で半日という距離で、もともと学者気質な父上が、数ある離宮の中から南の離宮を選んだのも、フラムベールが近いというのが理由のひとつなのだろう。


「おもしれえ街ダゾ。

 毎日そこかしこで騒動が起きてンだ」


 ステフも旅の途中で滞在したことがあるのだという。


「……おまえが面白いと感じるって事は、ロクでもない予感しかしないんだけどな……」


 なんにせよ、さっさと男に戻りたい俺としては選択の余地がない。


 まさか女の格好で父上母上に会うわけにもいかないだろう。


 ……いや、ソフィアを娘のように可愛がり、そのたびに娘が欲しかったと言っていた母上なら喜ぶのか?


 ……恐ろしい……考えたくもねえな。


 開拓道から街道に入ると獣騎車は速度を上げて。


 途中、昼休憩を入れても、夕方になる前にはフラムベールの郊外へとたどり着く事ができた。


 学術都市フラムベールの周囲は、農学者の研究作物を育成する為の広大な農地が広がっている。


 といっても普通の畑ではなく、季節を選ばずに栽培できるよう硝子張りの温室畑となっていて。


「……うわぁ……これはすごいですね……」


 獣騎車の窓から見える光景に、セリスが思わず歓声を漏らす。


 視界いっぱいに広がる、きらきらと輝く温室棟は圧巻としか言いようがない。


「まるで光の海のようですね」


 そしてその向こうに地面から突き出す学術塔の群れ。


 国内の画家達がこぞって描きに訪れる風景のひとつだ。


 街道の左右に広がる温室畑を、リックもまた興味深そうに見つめていて。


「これがあれば開拓村でも、米以外のものも作れるんじゃねえかな?」


 などと呟いている。


 しばらく合わないうちに、すっかり百姓が板に着いているようだ。


「こんなンで驚いてたら、身がもたネーゾ。

 あそこはこンなンばっかだからな」


 俺も知識としては知ってるんだが、フラムベールは学術都市の名を冠するに相応しく、多くの魔道技術――魔道器が活用されている都市だ。


 パルドスが滅び、ホツマとの交流が容易になってから、その発展は留まることをしらず、南部最大の都とも言われはじめている。


 儀式型の大規模結界に守られているこの都市に市壁はなく、街道の左右に広がっていた温室畑は、いつしか商店街となり。


『――殿下、どうやらフラムベールに入ったようですけど、どちらに向かいましょう?』


 遠話器でパーラが尋ねてくる。


「――都市中央にある学術塔わかるか?

 一番でけー塔だ。

 そこに代官屋敷があるはずだから向かってくれ」


『わかりました』


 そうして重騎車はゆっくりと進み始める。


 道行く人々は学術都市の住民らしく、興味深そうに獣騎車を見つめていた。


 中には並走して観察する者もいるくらいだ。


 パーラは指示通り獣騎を駆って、やがて獣騎車は停止する。


「……相変わらずムダにでけーよなっ!」


 と、ステフは不機嫌そうに天を突くように伸びる学術塔を窓から見上げ。


「いや、俺も見るのは初めてだが……すげえな」


 城で読んだ資料では、現段階で二〇〇メートルを越えていて、さらに年々伸びているのだという。


 魔道建築の実験も兼ねているそうで、学者が増えるたびに増築を繰り返していて、功績ある学者ほど上層に研究室を構えられるらしい。


「上に部屋もらったって、不便なだけなのにナ」


 功績や権威にまるで興味のないステフにとっては、どうやら学術塔のシステムが気に入らないようだ。


 俺達は獣騎車を降り、ロイドが代官屋敷のドアをノックする。


 ドアが開かれて、現れたのは茶色がかった金髪の美青年で。


「――ヴァルトじゃねえか!」


 俺が驚きの声をあげると同時。


 俺の左右から、ステフとリックが飛び出し。


「――久しぶりだなっ!」


 叫びながら、ふたりとも綺麗なフォームで飛び蹴りを放った。

 以上で14話が終了です。


 二話連続でロボもバトルもありませんでした^^;


 元々三部は、「国内視察」という大きなお話を、各話小分けにして展開しようと考えてまして^^;


 14話が中途半端な終わり方をしているように見えるのはその為です(い、言い訳じゃないんですよ^^;)


 とはいえ、ちょっと短いので、この後、ちょっと時間を置いて、閑話まで一気に投稿してしまいます。

 

 「面白い」「もっとやれ」と思って頂けましたら、ブクマや★をお願い致します。


 作者の励みになりますので、ぜひ!


 それでは次のあとがきにて。

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