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第14話 3

 ――翌日。


 俺はリックと共に森の中に居た。


 同行者はステフとメノアだ。


 目的地はリックが見つけたという古代遺跡。


「しかし、あいつら酒弱かったんだなぁ」


 カラカラと笑うリックに、俺は顔をしかめてしまう。


 おまえに比べたら、誰でも弱いだろうよ。


 昨夜の事を思い出すと、俺はライルやパーラに同情せざるを得ない。


 ロイター子爵によって歓迎の宴が開かれたのだ。


 街の料理に比べると、質素ではあったが、山菜や獣の地味に溢れた料理の数々に、俺は大いに満足だった。


 開拓地の特産にしようと考えているのだという、米を醸したにごり酒も振る舞われ、リックは後輩三人に勧めまくったのだ。


 上下関係を徹底的に叩き込まれているライル達は断る事もできず、結局、潰れるまで呑まされて、今日は二日酔いでダウンだ。


 実際のトコ、あの酒は度数の割に甘みがあって呑みやすいからな。


 自分の限界を見失うんだ。


「――メノアは平気なんだな?」


「わたし、酔うって感覚がわからないんですよねぇ~」


 この歳でザルだ。


 末恐ろしい。


 どのみち森の獣を刺激しないよう、少人数での移動を考えていたので、ライルとパーラ、その看病にセリスとフランを置いて、俺達は出発した。


 ロイドは俺の代わりに周辺の小集落を回ってもらう事になっている。


 俺とステフはリックが呑兵衛なのをよ~っく知っていて、適度に調整して呑んでいたから、二日酔いにはなっていない。


 蔦や藪に覆われた森を、先頭に立ってかき分けていくのはリックだ。


 その背には小柄なステフが背負われている。


「リッくんの歩幅に合わせてたら、疲れちまうからナ!」


 と、当然のようにのたまうステフに、リックは嫌な顔ひとつせずに黙って彼女を背負っている。


「――お礼にケツ揉んでも良いゾ」


 などとステフは言うのだが。


「そりゃあ、後が怖いな!」


 リックは豪快に笑って返すのだった。


 懐かしいな、この雰囲気。


 学園の生徒会室は、いつもこんなやり取りが繰り広げられていた。


 だいたい、リックかステフがバカな事を言い出して、ザクソンが煽り、ヴァルトかソフィアがたしなめるんだ。


 頭のおかしい連中ばかりだったけど、俺はあの雰囲気が嫌いじゃなかった。


 俺も……仲間に入れてもらえてるような気がしてさ。


 獣除けに、あえてでかい声で話しながら、俺達は森の中を進む。


 やがて森の中にぽっかりと空いた間隙に出て、休憩を取る事にしたのだが。


「あれ? リック先輩のその腕輪って、ひょっとして魔道盾ですか?」


 今気づいたのか、メノアがリックの右腕を指しながら尋ねる。


「ナンだよ! まだ持ってたのかぃ?

 ひょっとしてリッくん、あたしにホの字なんじゃネ?」


 ステフがからかうように告げるが。


「おうよ。俺はステフもオレアも大好きだぜ!」


 リックは満面の笑みでそう返す。


「――お、おうョ」


 煽ったステフの方が照れて顔を赤くしてやがる。


 昔からリックはこうだ。


 真っ正直に、男女を問わずに好意を告げてくるんだ。


「――せっかくもらったモンだしな。

 なんだかんだで、コイツは便利だし!」


 そう言って立ち上がったリックは、魔道盾を喚起する。


 虹色にきらめく結晶結界が開かれて――


「……ふわぁぁ~」


 縦横三メートルほどに広がったそれを見て、メノアは驚きの声をあげた。


「なぁにを驚いてンだョ。

 完成品のおマエのモンも、これくらいは余裕でイケるはずなんだぜぃ?」


「まあ、ステフの魔道器は慣れが必要だからなぁ」


「使いこなせれば、確かに便利なんだよな」


 さんざん被検体にされた俺とリックは、しみじみと呟く。


「こ、コツとかあるんですか?」


 だいぶステフやリックに馴染んできたのか、メノアはリックにそう尋ねた。


「そうだなぁ……結界まるごと、自分の身体――手足の延長みたいにイメージする事か?」


「いや、俺に聞かれても、わかんねーよ」


 基本的にリックは感覚でなんでもこなしやがるから、人に教えるのは向いてない。


 子爵家令息の肩書を持ちながら、勘頼りで生き延びてきた野生児みたいなヤツなんだ。


「メノアよぅ、楽しようとすンな。

 ナンでも練習だョ、練習!

 リッくんだって、最初はパーラの盾手甲くらいのサイズから始めてンだからな!」


「そうですかぁ~……」


 がっくりと肩を落とすメノアの頭を、ステフはグリグリと撫で回す。


「それはさておき、だ」


 俺はリックに視線を戻して尋ねる。


「おまえが見つけた遺跡って、どのくらいの規模なんだ?

 全体は見て回ったか?」


「――いや、<古代騎>見つけて満足しちまってな。


 全部は見てねえんだ。


 見た範囲で言えば、<古代騎>で歩き回れるくらいには広かったぞ」


「――<古代騎>があったって事は、漆壁系とは別……鬼道系――魔道帝国の遺跡だと思うンだけどなぁ」


 ――魔道帝国。


 それは太古の昔に中原のみならず、この大陸全土を支配していたという国家の名前だ。


 正式名称はすでに残っておらず、その痕跡から散見される、現代より遥かに進んだ原始魔道――鬼道技術ゆえにそう呼ばれている。


 漆壁系と分類される異物よりは歴史的に浅いのだろうが、その遺跡で発見される異物は現代の技術に様々な影響を与えている。


 その最たるものが<兵騎>や魔道器だ。


 そして――


「鬼道系って事は、守護者がいるかもしれないよな?」


 リックが言うには、<古代騎>は入り口そばで見つけたそうで。


「俺もそう思ってな。

 さすがに一人じゃ守護者の相手はキツいから、放置してたんだよ」


「けどさ、<古代騎>以上のお宝が眠ってるカモしンねーんだぜぃ?

 あたしとオレアちんも居るんだシ!

 ――行くしかネぇダロ!」


 あ、こいつ、完全に火がついてやがる。


「――だよな!?

 俺もそう思ってたんだよ!」

 そしてリックもそれに乗っかる。


 こうなると、ソフィアかヴァルトでも居ないと止められない。


 俺はため息ついて、頭を掻く。


「……メノア、おまえはとにかく自分の身を守る事を考えろ。

 ああなったあのふたりは俺でも止められん……」


「は、はい~」


 そうして俺達は、休憩を終えて再び森の中を歩き始める。

 2022/04/18現在

 活動報告でもお報せしましたが、13話と14話の間に「閑話」を入れるのが漏れていた為、追加投稿させて頂きました。

 14話2までの段階で、読んでいなくても物語には影響はないのですが、王都での淑女同盟のお話となり、行く行くは影響がでてくる恐れがあった為に、ここにお報せを載せることにしました。

 申し訳ありません。

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