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第12話 13

 大熊を倒して、俺は浮遊の魔法を使って宙に身を躍らせる。


 風を出して方角を調整しながら、ゆっくりと滑るように降下しながら。


「……あいつら、移動してるのか?」


 崖の直下にライル達は居なくて、俺は呟いた。


 その時、鈍い打突音が連続して響いて。


 そちらに視線を巡らせると、魔猪六頭が森の中に立ち上がった土壁に体当たりを繰り返しているのが見えた。


 そして、その土壁の向こうにはライル達三人。


「血の匂いに誘われたか……」


 ライルが包帯を頭に巻いてるのを見て、そう当たりをつける。


 俺がそちらに滑空しようと、風を調整しかけたところで。


 パーラがライルの手を握り――ライルの背後に魔芒陣が開いた。


 パーラの装備と似た、篭手と小型盾が一体化したような腕を持つ<兵騎>が現れて。


「――ウィンスターの<伯騎>か!」


 ルキウス帝国時代から、ウィンスター伯爵家はホルテッサの譜代家臣で、騎士家としては名門と言っても良いだろう。


 だが、彼の家はひとつの問題を抱えていた。


 ある時を境に、魔道の弱い子供しか生まれなくなったのだ。


 騎士としては優秀な家なのだが、<爵騎>を扱えない騎士として揶揄される事もある。


 ウィンスター家も遺伝学などに則って、魔道の強い家から嫁をもらったりもしたようだが――結果は芳しくないようだ。


 中原大戦においても、ホルテッサ・ウィンスターは<爵騎>を使えない為に最前線には出られず、同格の家が昇爵される中、かなり悔しい思いをしたのだという。


 そのウィンスターの<爵騎>――ルキウス帝国時代に、その勇猛さから時の皇帝に下賜された<古代騎>が――数代振りに姿を現している。


「――ライルを主に選んだか! <英雄>!」


 それがウィンスターの<爵騎>に贈られた二つ名。


 <英雄>はライルを呑み込むと、銀の輝きを放ってその姿を変えて。


 まるで騎士甲冑のようなシンプルなシルエット。


 面頬の奥で面に文様が走って赤の貌を結ぶ。


『……見てて。パーラちゃん』


 感覚を確かめるようにゆっくりと動き出した<英雄>は。


『――僕は今度こそ君の騎士になるよ!』


 ライルの声でそう告げて。


 土壁に向かって歩き出すと、腰の長剣を抜き放った。


 土壁が砕けて、魔獣が飛び出す。


 <英雄>の周囲に十近くもの雷球が生み出されて、その周囲を旋回しはじめた。


 ――ライルの奴、すげえな。


 いくら<英雄>によって魔法が増幅されるとはいえ。


 あれだけの数の魔法を同時に制御しきってやがる。


『ダアアアアァァァァ――ッ!!』


 戦闘は――いや、もはや蹂躙だな――あっという間に終わった。


 突っ込んで行った魔獣が、雷球に触れて悲鳴をあげ、そこを<英雄>が斬り捨てる。


 ライルにとっても、作業みたいなものだったろう。


 だが、それもライルの魔道と剣の腕があったからだ。


 いいね。


 アイツ、実にいいね。


「――ハハ! パーラもメノアもポカンとした顔してやがる」


 俺はアイツがやる奴だってわかってたぞ。


 出会ったばかりの頃の、ユリアンと同じ――なにかをひたすらに目指してる目をしてたからな。


 すべての魔獣を倒し終えて、残心を解いた<英雄>が帰喚されて、地面に降りたライルがゆっくりと膝をつく。


「――ライル!」


 パーラが駆け寄ろうとして、不意に顔を歪めて前のめりに倒れ込んだ。


「……なんだ? アイツ、怪我でもしてんのか?」


 そんなパーラを気遣うように、ライルが立ち上がって彼女に歩み寄った。


「……大丈夫。ちょっと疲れただけだから」


 ライルがパーラを助け起こして座らせた。


 メノアが駆け寄って、パーラの足に治癒魔法を使おうとしている。


 熊なんてトラブルには見舞われたものの。


「――ま、全員無事なようでなによりだ」


 俺は三人の元へと降り立って、そう声をかけた。


「――殿下っ!?」


 ライルとパーラが驚きの声をあげて。


「だよね? 驚くよね? オリーさんが殿下だったんだよ~」


 メノアが、俺が姿変えの魔法でオリーに化けてたのだと教える。


「さて、色々言いたい事もあるが、まずは――」


 俺は魔獣の死骸に目を向ける。


 このままじゃ、血の匂いに釣られて野犬や狼なんかが寄ってくるかもしれないからな。


 身体強化と浮遊の魔法で魔獣の死骸を集め始めると。


「――殿下! 僕がやります!」


 そう言ってライルが駆け寄ろうとした。


「良いから、おまえも休んどけ。

 頭、怪我してるみたいじゃねえか。

 おまえもメノアに診てもらえ」


 手を振ってライルを座らせて、俺は魔獣の死骸を集め終えて。


「――これでよし」


 結界を張って、俺は血に汚れた手を魔法で出した水で洗う。


 いやあ、魔法って本当に便利だよな。


 それから俺はポケットに突っ込んだイヤーカフを着けて。


『――殿下っ!? ご無事ですか!?

 今どちらにっ!?』


 途端、ロイドの声が耳に響いた。


「あ~、何処って……山の中?」


『――山っ!? なぜそのようなところに!?』


「あーもう、悪かったよ!」


 ロイドに話したら、絶対に反対されると思って、普段身につけてる探査用の魔道器は全部置いてきたんだよな。


 代官屋敷におらず、けれど魔道器の反応は屋敷からで……ロイドはさぞかし肝を冷やした事だろう。


「実はさ……」


 研修生達の鍛錬になればという行動だったと説明すれば、遠話の魔道器の向こうでロイドが深々とため息をつく。


「んで、魔獣退治は終わったんだが数が多くてな。

 ギルドに連絡して、死骸の回収を頼んで欲しいんだ」


 場所はイヤーカフを着けてれば、探査の魔道器で辿れるだろう。


 それから二、三、ロイドに指示を出して。


「よーし、おまえらそこに正座――パーラは無理か。

 いいや、とにかく座れ」


 俺は腕組みして三人を見回す。


「さて、なにがどうしてこうなった?」


 そうして三人の話を聞いて。


「つまりライルとパーラは崖上に上がる道を探して、そのふたりを追ってたメノアが……」


「――ライルくんの血の匂いに誘われた魔獣と、ばったり出くわしちゃいました~」


 肩を落とすメノア。


 それはライルとパーラも同様で。


 俺は思わず苦笑する。


 こいつらはきっと伸びる。


 だからこそ、今のうちに失敗は失敗だと教えてやる必要があるんだ。


「よし、それじゃあギルドの回収班が来るまで、反省会だ。

 まずライル――」


「――はい。探査魔法の使い方と勝手に隊列を離れた事ですね」


 気づいてたか。


「そうだ。

 おまえ、探査を魔獣の魔道器官に絞って探査してたろ?

 だから熊に気づけなかったんだ。

 山や森では魔獣以外の生物も脅威なのはわかったな?

 次に活かせ。

 隊列を離れた件は――」


 まさかパーラが吹っ飛ばされるとは、俺も思わなかったからなぁ。


「俺の指示出し遅れだ。

 パーラを救うのが間に合ったわけだし、今回は不問とする。

 むしろ、よくパーラとメノアを守りきったと褒めてやる。

 ――次にパーラ」


「……あたしは別になにもしてないです」


「問題だらけだ、馬鹿野郎……

 ……なんで勝手に熊に攻撃した?」


 そもそも今回のトラブルはそこからだ。


「だって、誰も動けなかったから……

 やられる前にやれって教わったし……」


 ウィンスター家の家訓か……


 俺はため息ついて、頭を掻く。


「野営教練で教わらなかったか?

 野生の熊を興奮させるなって。

 あいつらもまた、基本的には臆病なんだ。

 大声でおどして、俺達を狩れないとわからせれば逃げていく。

 おまえは結果として、パーティを危険にさらした事になるんだよ」


「――ええー!?」


 こいつが教練で教わった事を覚えていないのか、教練での教え方が悪いのか。


 それは別として、パーティを危機に陥れたのは、パーラの知識不足が原因だ。


「これからは討伐対象だけじゃなく、その土地の生態まで情報収取するようにな。

 だが、ライルを見捨てなかった根性は良かったぞ。

 ――最後にメノア」


「はい。魔獣を興奮させた事ですよねぇ」


「そうだ。熊に限らず、逃げると興奮して追ってくる野生動物は多いんだ。

 直前に教えた事が頭から抜け落ちてたな」


「はい……」


「だが、それもふたりの元に急いで駆けつけたいという思いからだったと思えば……まあ、仕方ないか。

 今後、気をつけるようにな。

 ――そして、最後に俺だ」


「……殿下は、なにも失敗してませんよね?」


 メノアが不思議そうに首を傾げて尋ねてくる。


「……俺が一番ミスってんだよ。

 おまえらの性格を把握しきれず、ベテラン保護者気取っておきながら、パーティをバラバラにしちまった。

 次からは気をつける。悪かったな」


 俺が頭を下げると、三人は驚いた顔をして。


 慌てて臣下の礼を取った。


 俺は手を振って、楽にするよう示して。


「ま、なにはともあれ、結果としては魔獣討伐できて任務成功は成功だ。

 反省は次に活かして、今は誇って良いぞ」


 そう告げると、三人は顔を見合わせた。


「――やったよ! ふたりとも~!」


 メノアがライルとパーラを抱き寄せ、顔を寄せられたライルとパーラが顔を真っ赤にして視線をそらす。


 んん?


「な、なによ。ライル!

 顔真っ赤にして!

 メノアに抱きつかれて、スケベな事考えてたんでしょ!

 エロ! ライルのエロ!」


「――パ、パーラちゃんだって真っ赤じゃないか!」


 ほほう。パーラちゃんねえ。


 俺はライルの肩を叩き。


「……なあ、ライル。

 俺、おまえを先生って呼んだ方が良いか?」


 中級魔法だけじゃなく、ライルから教わる事は他にもありそうだ。


「え? ええっ!?」


 戸惑うライルに俺は苦笑して、三人を見回す。


 思いつきで同行させる事にした連中だけどさ。


 ――こいつらと一緒なら退屈はせずに済みそうだ。

 これで12話は終了となります。

 新キャラ三人、いかがでしたでしょうか?

 作者としては、パーラが思ったように動いてくれずに苦労させられました^^;


 次回は閑話で王都に残った淑女同盟の様子をお伝えします。

 

 そして13話は、いよいよ殿下のやべー仲間達です。

 本当は12話で登場させるつもりだったのですが、新キャラ三人を掘り下げる為に、あえて先延ばしにしました^^;


 ご意見、ご感想をお待ちしております。

 面白い、もっとやれ、と思って頂けましたら、どうぞブクマや評価をお願い致します。


 それでは次回のあとがきにて。

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