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第12話 7

 翌朝、あたし達はリロイ市の冒険者ギルドにやってきた。


「――とりあえずギルドで魔獣の情報をもらって、対策を練るわよ」


「は~い!」


「そうだね。いきなり突っ込んで行くって言わなくて安心したよ」


 手を挙げて返事するメノアと、余計な事を言ってくるライル。


 とりあえずライルの尻に蹴りを叩き込んで、ギルドに踏み込む。


 殿下が言っていた通り、ギルドは閑散としていた。


 こころなしか受付のお姉さんも退屈そう。


 ちゃんと仕事しなさいよ。


「ねえ、ちょっと聞きたいんだけど」


「あ、はい。ようこそ。冒険者ギルドへ」


「市壁の外に魔獣の群れが出るって聞いたんだけど?」


 途端、お姉さんはカウンターから身を乗り出してきた。


「そうなんですよ!

 お百姓さんや近隣の農家さんからも対策を請われているのですが……

 ――今はこの通り人手不足でして……」

 お姉さんがロビーを手で示す。


 そうね。ガランとしてるわね。


 でも、まったく人が居ないわけじゃないわ。


 併設されてる食堂で朝食食べてるお爺さんとか、あたし達より若い子――新人なのかしらね?――もいる。


 彼らは依頼の張り出されたボードの前で、なんか相談してる。


 あと中年のおっさんが、やっぱり食堂で――朝からお酒呑んでる。


 見たところ、それなりに鍛えられた身体つきをしているのに、朝っぱらからお酒呑むようじゃ、魔獣退治する気概なんてないでしょうね。


「――その魔獣、あたし達がどうにかしてあげるから、わかってる情報を寄越しなさい」


 お姉さんは一瞬、嬉しそうな表情を浮かべたけれど。


 すぐにあたし達の格好を見て、表情を曇らせたわ。


 そりゃあね。


 今のあたし達は学園の制服の上に騎士団で借りた訓練用鎧って格好だものね。


 怪しく思われても仕方ないわ。


 これくらい、あたしも予想できてたわよ。


「失礼ですが、この依頼は中級相当でして。

 お嬢さん達の冒険者等級は?」


 尋ねられて、あたしは学生証を出して見せる。


「――学園の騎士科課程三年生は、中級相当として活動できるって習ったけど?」


 <深階>教練と野営教練の履修が条件らしいけど。


 ライルはどっちも履修してないけど、黙ってればわからないわよね。


 あたしとメノアが履修してるのは事実だし。


「これは失礼しました。

 それでは資料を集めて参りますので、少々お待ち下さい」


 と、お姉さんはカウンターの後ろにあるドアの向こうに入って行き。


 あたし達はロビーの隅にあるベンチへと腰を降ろした。


 するとライルが。


「ねえ、パーラくん。

 冒険者等級ってなに?」


「――はあ?

 アンタ、そんな事も知らないの?」


「パーラちゃん、魔道士科は騎士科と違って、冒険者との連携を前提とした教練はないんだよ~」


 あら、そうなの?


 ライルもメノアの言葉に苦笑しながらうなずく。


「魔道士科は、基本的に宮廷魔道士になる為の前提学科みたいなトコだからね。

 あとは商会で魔道器作成に携わる事もあるから、代わりに商会とのやりとりを教わる教練はあるよ」


「――聞いてないわ」


 そして魔道士科の授業内容なんて興味もないわ。


 肩を落とすライルに、メノアが肩を叩いて慰めてる。


 そんなヤツ、甘やかす必要なんてないのに。


「――良い?

 冒険者には、強さや功績でランク分けされてるの。

 初級、下級、中級、上級ってね。

 さらに国によっては級ごとに、過去にこなしたクエストの難易度によって、等級を細分化してるわ。

 ――ウチの国だと、各等級ごとに甲種、乙種、丙種の三分類法ね」


「じゃあ、僕達は中級の何種になるの?」


「クエスト達成実績が無いから、種別なしよ。

 ――今回の魔獣討伐を達成したら、乙種になるわね」


「甲種は飛ばすの?」


「ちょっとは考えなさいよ!

 甲種は魔獣単独討伐。

 乙種は群れの討伐達成。

 丙種は群れの巣を潰したり、それに匹敵する功績を立てた場合よ!」


 わたしの説明に、ライルはへらっと笑って。


「そうなんだ。教えてくれてありがとう。

 パーラくんは物知りだなぁ」


 心底、そう思っているのがわかって。


「――フン!」


 あたしは思わず、その頭を叩いた。


「――あぃたっ!

 もう、乱暴だなぁ……」


「パーラちゃん、すぐ叩くの良くないよ~」


「叩きやすそうな頭してる、そいつが悪いのよ!」


 腕組みして顔を逸らすと、メノアがライルの頭を撫でてるのが視界の隅に映った。


 もう! メノアはそいつを甘やかしすぎ!


「ちなみにね~?

 上級の上に勇者が来るんだけど~。

 これは侵災調伏を単独で行ったりみたいな、領地を巻き込む大事件を解決した時に、領主の推薦を受けて、王城が承認してようやくなれる等級なんだ~」


 と、メノアが勇者の説明を始める。


「ただ、その場合は国家認定された公務員になるから、冒険者じゃなくなるんだけどね~」


「ちなみに今はホルテッサには勇者は居ないわよ。

 ――アベルのヤツが国家反逆罪で逮捕されたから」


「あ~、居たねぇ、そんな人」


 メノアの中では、忘却の彼方の人物らしいけど。


「パーラちゃん、すごくアプローチかけられてたよねぇ」


 そうそう。


 確かに勇者認定されるだけあって、アイツは騎士科の中でもダントツに強かったけど。


 あの可愛い女子なら誰でも良いって態度が気持ち悪かったのよ。


「――え?」


 メノアの発言に、ライルが驚いたようにあたしを見た。


「な、なによ。

 なんでそこでアンタが驚くのよ?

 あたし、アンタみたいにおどおどしてるヤツも嫌いだけど、アイツみたいに女をアクセサリーみたいに考えてるヤツも大っ嫌いなの!

 裏庭の光曜樹に呼び出されたけど、無視してやったわ!

 ――あんなサルにオチる女の顔が見てみたいわね!」


「パーラちゃん、それセリス様の前で言わないようにね~」


「――あっ!」


 そうだった。


 セリス様は殿下の婚約者だった時に、あのサルにオトされてたんだったわ。


「……メノア、内緒よ?」


「は~い」


「ライル、アンタもよ?」


「はは。さすがに言えないよね」


 またへらっと笑うから、あたしはイラっと来て叩いた。


 ……それにしても、よ。


「――パーラちゃん?」


 あたしはベンチから立って、すぐ横手の食堂のテーブルに向かう。


 朝からお酒を呑んでるおっさんの席だ。


「――さっきからチラチラ、あたし達の様子をうかがって!

 なんの用!? 文句でもあんの?」


 テーブルを叩いて、あたしはおっさんに怒鳴った。


 あたし知ってるわ。


 冒険者小説にあったもの。


 冒険者ギルドでは、新人相手に絡んでくる奴が定番なのよ。


 どうせ揉めるなら、先手を取った方が有利。


 ――『やられる前にやれ!』は、ウィンスターの家訓よ。


 おっさんは面食らったように狼狽えて。


「い、いや。

 おまえさん達、魔獣退治を受けるって聞こえたもんでな。

 見たところ、王立学園の学生だろう?

 心配してただけなんだが……」


 ――あ、あら?


「フ、フン!

 朝からお酒呑んでるような人に心配されるいわれはないわ!」


「あ?

 俺は酒なんて呑んじゃいないぞ?」


「ウソおっしゃい!

 そんなに顔を真っ赤にして!」


 途端、おっさんは声をあげて笑った。


「朝食のつもりで頼んだコレが、辛すぎたんだよ」


 と、おっさんがテーブルの上を指し示す。


 それは昨日の昼食に殿下が振る舞ってくれた、カレーっていうもので。


 確か国内に広めていこうとしているって仰ってたわね。


 確かに辛くてあたしも水をおかわりしたわ。


「王都でも食った事あって頼んだんだが――ここのは独自色出し過ぎでな。

 辛くて辛くて。

 だから、このジョッキは水だよ」


 差し出されたジョッキは、確かにお酒の匂いなんてしない、ただのお水だった。


「――ご、ごめんなさい。

 あたしてっきり……」


「ははは! 酔っぱらいに絡まれると思ったか?

 まあ、気にするな。勘違いは誰にでもある。

 ――俺はオリー。

 おまえさん達は?」


 おっさん――オリーさんはあたしの勘違いを笑って許してくれて。


「も~、ハラハラしたよ~、パーラちゃ~ん!」


「――本当だよ! もうちょっと考えて行動しようよ!」


 メノアが抱きついてきて、ライルがすごい剣幕で怒鳴ってくる。


「うぅ……悪かったわよ」


 それからあたし達はオリーさんに自己紹介して。


「ああ、昨日、変わった馬車が街に来たって噂になってたが、おまえら殿下のお供か!」


 さすがに獣騎車は目立ってたみたいね。


 もう街で噂になってたみたい。


 隠して変に勘ぐられるより、正直に話した方が良いわよね?


「そうよ!

 お百姓が困ってるっていうから、殿下があたし達を遣わしたのよ!」


「なるほどなぁ。

 よし、俺もちょうど魔獣をなんとかしたいと思ってたんだ。

 だが、なにぶん俺はひとりだったからな。

 毎朝、こうしてパーティ組める奴が来ないか張ってたんだよ。

 せっかくこうして知り合ったんだ。

 ――俺を混ぜないか?」


 そうしてオリーさんが取り出したのは。


「――オッ、オルター領ギルド発行の上級丙種カード!?」


「オルター領って、<深階>のあるトコだよね?

 あそこって初心者向けの魔境じゃなかったっけ?

 学園が教練に使えるくらいの……」


 あたしはとぼけた事を抜かすライルの頭を容赦なく打ち抜いた。


「オルター領の上級!

 それも丙種っていうのはね! 少なくとも下層到達者の証なのよ!

 そこの魔物を倒して、部位を持ち帰ってはじめて認定されるの!」


「それってすごいの?」


「――騎士で言ったら、近衛くらいの強さよ!」


「へー――あぃたっ!」


 いまいちピンと来ていないライルの頭をもう一回打ち抜いて。


「オリーさん、ご、ごめんなさい。

 このバカの事は放っておいて。

 協力して頂けるなら、ぜひお願いします!」


 確かに野営教練は受けたけど。


 その道のプロが協力してくれるなら、心強い事この上ない。


 ましてオルター上級丙種なら、願ってもない申し出だわ。


 あたしは右手を差し出すと、オリーさんはニヤリと笑って握手を返してくれた。


「決まりだな。

 ……ちょうど受付の嬢ちゃんも戻ってきたようだ。

 さっそく情報収集と行こうか」


 こうしてあたし達はオリーさんを加えて、受付カウンターへと戻った。

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