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転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。  作者: 前森コウセイ
王太子、国内視察を思いつく

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第12話 4

 辺りはすっかり夕焼け色に染め上げられて。


 西から赤く四角い月(モニア)が昇りはじめている。


 今は双月の時期だから、もうじき白の月(ディオラ)も昇ってくるだろう。


 パーラちゃんとライルくんが鍛錬をはじめて一時間とちょっと。


 その間、ふたりは延々と前庭を走り続けていた。


 初めは私も付き合って走ってたんだけどね~。


 三十分くらいでリタイアしちゃったよ。


 今は庭に座り込んで休憩中だよ~。


 パーラちゃんは小さい時から、騎士に憧れて鍛えてきたっていうから、あれだけ走れるのはわかるけど。


 意外なのはライルくんだよね~。


 パーラちゃんでさえ、だいぶ息が上がってきてるのに、ライルくんはまだ平気そう。


 体育の授業は男女別だし、野営実習や魔境実習はライルくんとは別の班だったから、あんなに体力があるなんて知らなかったよ~。


「――メノア、おまえは走らないのか?」


 後ろから声をかけられて。


「――あ、殿下」


 慌てて立ち上がろうとした私に、殿下は手を振ってそのままで良いと示してくれる。


 殿下って、ホント、変なお方なんだよね。


 途中で繰り上げ卒業しちゃったけど、一学年上なだけだったから、殿下の事は学園でもお見かけした事も、噂話を聞いた事もあるんだよね。


 普通、貴族なんて爵位が上になればなるほど、礼儀だとかにうるさかったり、下の家の子に偉そうにしたりする。


 まして王族ともなれば、黙っていても周りがかしずくものなんだけど。


 学園でお見かけした殿下は、そうじゃなかったんだよね。


 一緒にいる人達の中には、平民の子もいたはず。


 そして彼らは敬語なんて使わず――一度だけだけど、殿下に肩パン食らわしてる人まで見た事ある。


 あれって不敬罪とかじゃないのかなぁ……


「? メノア?」


 殿下が学園にいらした頃を思い出して、ついぼーっとしてしまってたみたい。


「あ、失礼しました。

 ちょっとその……考え事を」


 あははと笑って誤魔化して。


「私はあの二人みたいに体力お化けじゃありませんので~。

 リタイアして休憩です」


「ふたりはどのくらい走ってる?」


「かれこれ一時間ってところですかねぇ」


「……ふむ」


 殿下は少し考え込むようにふたりを見つめられて。


「――ふたりとも!

 休憩だ! 水分補給しろ!」


 と、手を叩いて、ふたりを招き寄せる。


「メノア。悪いが水をもらってきてくれ。

 あー、あと塩と……いや、フランにスポドリくれって言えば作ってくれるから、それをもらってきてくれ」


 よくわからなかったけれど、フランさんにそう言えば良いらしい。


 私は代官屋敷に入って、フランさんに割り当てられた部屋に向かい、殿下の注文を伝えた。


「――あら? 休憩にしてはずいぶん早いですね?」


「あ、殿下の分じゃなく、パーラちゃんとライルくんのなんです」


「……ひょっとしてあれからずっと?」


「そうなんですよ~」


「それは良くないですね」


 言いながらも、フランさんは大ぶりの水差しに水を汲み入れ、そこに塩とはちみつを溶かし入れ、柑橘を切ってその果汁を絞った。


「……良くない、とは?」


 小首を傾げる私に、フランさんは優しげな笑みを浮かべる。


「ただがむしゃらに鍛えてもダメって事ですよ。

 適度な休憩――特に水分補給は重要なんです。

 ふたりも今頃、殿下に同じ事を言われているでしょうけど、あの<地獄の番犬隊>ですら、三十分に一度は水分補給を強制されるんですよ?

 彼らの場合はそこで一リットルは飲んでたはずです」


 フランさんが言うには。


 運動すると、体内の水と塩が汗として流れ出てしまうそうで。


 それは身体の活動に必須で、足りなくなると倒れてしまう事もあるのだという。


「じゃあ、今作ってるそれは……」


「ええ、そういう身体から失われた要素を一気に取り戻す為のものです。

 ――殿下が考えたのですが……美味しくはないんですよね。コレ」


 フランさんは苦笑しながら、できあがったスポドリという飲み物を手渡してくれる。


「……あの、フランさん。

 もしよろしければなのですが……」


 私は今まで鍛錬で、そういう効率とか栄養とかまで考えた事がなかった。


 ただひたすらに鍛えれば、それだけ強くなれると思っていたんだけど。


「そういうのって、もっとあるんですよね?

 よろしければ、私に教えてもらえませんか?」


「……ご興味がおありで?」


 目を細めて、私を見透かすように見てくるフランさんに、私は頷きで応える。


「私って、騎士を目指してはいるんですけど、剣はそれほど得意じゃないですし、魔法もちょっとだけなんですよ。

 なにか特技が欲しいなって、ずっと思ってて」


 今回の旅に同行させられたのも、パーラちゃんとペアだったからなんだ。


 実力だけでいったら、私なんかより優れた研修生はいっぱいいたもの。


 王都での訓練に参加できない分、この旅で私だけのものを見つけたい。


 そう思ってたんだ。


「――面白いですね」


 と、それまで黙って私達のやりとりを見ていたセリス様が、不意にそう仰った。


「メノア様は治癒魔法は習得なさってますか?」


 元とはいえ、殿下の婚約者で、今はサティリア大聖堂の聖女様に尋ねられて。


 私は思わず緊張しちゃう。


 この人、本当に私より年下なの~?


 なんか貫禄が違うんだけど。


「――は、はい。応急処置程度ですけど」


「ますます良いですね。

 以前、殿下が仰っていたのですが、殿下は衛生兵を育成したいそうなのですよ」


「……衛生兵?」


 初めて聞く言葉。


「今は戦場――魔物討伐や侵災調伏の際に怪我人が出た場合、後方の魔道士達のところまで後送して治癒を施してますよね?

 そうして治癒が間に合わずに、犠牲になってしまう方がいらっしゃる事を殿下は憂えておられまして」


「それなら、魔道士を各隊に配属したら良いんじゃ……」


「戦場に出られる魔道士の方は、それほど多くないのですよ

 そこで応急処置を医術的、魔道的両面から施せる騎士を育成したいと殿下はお考えになったようでして。

 そういう騎士が隊員の体調管理も行えるようになれば、それはもう理想的ですね」


 私、これだって思ったんだ~。


 身体に電流が走ったみたい。


「――衛生兵! 私、なりたいです!」


 手を挙げて訴えると、セリス様は優しく微笑まれて。


「それでは治癒の術は僭越ですが、わたしが手ほどき致しましょう。

 ――医術の面はフランさんにお任せしても?」


「お任せください。

 こう見えてわたし、学生時代に看護師の資格を取得していますので、本格的に説明できます。

 それではメノアさん、今日から夕食後にわたし達の部屋に来てください」


 やった! やった~!


 まさかメイドのフランさんが、看護師さんの資格まで持ってるとは思わなかったけど。

 

 そんなフランさんと、聖女のセリス様直々に手ほどき!


 これなら本当に衛生兵になれるかも!


 まさか旅に出た初日に目標が見つかるなんて、思ってもみなかったよ~。


「――さあさ、とりあえず今はそれを殿下に届けてください。

 きっとふたりとも喉がカラカラですよ」


 フランさんに促されて。


「――はいっ!」


 私は王国騎士の敬礼を返して、お二人の部屋を後にした。


 私が騎士としての目標を見つけたって、パーラちゃんに教えたら、どんな顔するだろう。


「むふふ~」


 走りながら、思わず笑みがこぼれちゃう。

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[一言] 衛生兵! これで怪我人が出たときに例の台詞を叫べますね。
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