表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/262

閑話

 あの処刑の日から一週間ほど経って。


 ソフィアお嬢様がようやくお時間が取れたので、淑女同盟のお嬢様方がいつものようにお嬢様の執務室に集まった。


 シンシア様の隣にエリス様が座り。


 その後ろには保護者と称して魔王陛下が、楽しげに顔をにやけさせている。


 お二人をホツマから連れてきたのだから、まあ陛下の参加はわかる。


 その向かいのソファには、リリーシャ様とアリーシャ様が座る。


 下手のひとり席にジュリア様が座り。


 それでソファは満杯の為、ソフィアお嬢様は執務机の椅子だ。


 ……そして、そんな皆様を見下ろし、鼻息荒く両腕を組んで仁王立ちのユメさん。


 彼女がこの場にいるのが、わたしには理解できない。


 皆様も同じ思いなのか、顔を引きつらせてユメ様を見上げ。


 魔王陛下は相変わらずニヤニヤ。


 そう。本日の淑女同盟会合は、ユメ様によって開かれている。


 わたしは人数分のお茶――魔王陛下だけはカフェオレだ――を用意して、テーブルに並べる。


「――あ、ありがとう。フラン」


 お嬢様の礼の言葉にお辞儀を返して、わたしは壁の一部となった。


 今は下手に口を開かない方がいい。


 巻き込まれたくない。


 わたしは壁だ。


「――さて、全員揃ったのかな? 違うよね?

 ひとり足りないよね?」


 怒ったようなユメさんの口調。


「……サヨちゃん、お願い」


「――そなたはもうちょっと我を敬って良いと思うのだがのぅ……」


 愚痴りながら、魔王陛下は指を鳴らす。


 途端、陛下のすぐ隣にセリス様が現れて。


「――え? こ、ここは!?」


 突然転移させられて戸惑うセリス様。


 そりゃそうでしょう。


「……セリス様、お久しぶりです」


 そう告げてソフィアお嬢様はセリス様に歩み寄り、この場の趣旨を説明した。


「……殿下をお支えする為の乙女の集い――そんな場所、わたしにはふさわしくありません」


 セリス様は跪いて、深々と頭を垂れる。


 そんな彼女に。


「……いやあ、先日、民を導き、我と共にオレア殿の勝利を願ったそなたには、十分その資格はありだと思うがのう」


 魔王陛下が優しげに声をかける。


「そんな……恐れ多いです」


 なおも言い募るセリス様に、ユメさんは歩み寄って肩を掴み。強引に顔を上げさせた。


「資格があるとかないとか、どーでも良いんだよ。

 君、オレアくんの役に立ちたくないの?」


 いつもにこにこしているユメさんらしくない、ひどく怒った表情。


 その勢いに気圧されて。


「そ、そう問われるならば、その……お役に立ちたい気持ちです……」


 セリス様は観念したように、そう答える。


「――ならばヨシ!」


 ユメさんは皆様を見回す。


「さて……」


 皆様、一斉に彼女を見上げた。


「先日の魔道儀式の時に広がった景色。

 ……みんなも見たよね?」


 ――か細い月に照らされた、どこまでも続く寒々しい赤茶けた荒野。


 あれは場所なんて関係なく、王都中の人々すべてが見せつけられた風景だ。


「魔道儀式による大規模ステージの展開と聞きましたが……あの光景はなんだったのです?」


 物怖じしないシンシア様が代表して。


 ユメさんにそう尋ねる。


「ちなみにステージというのは、古式魔法における、魔法作用空間の事だの」


 魔王陛下が、古式魔法に疎い方々の為に補足説明を入れた。


「そう。そして、ステージっていうのはね、濃くなればなるほど……開いた人の心象風景が反映されるものなんだよ」


 ユメさんのその言葉に、皆様一斉に息を呑んだ。


「……気づいたみたいだね。

 オレアくんはね、あんな寂しい風景を心に抱いて……それでもみんなの為にって、ずっと一生懸命に頑張ってきて――きっとこれからも頑張っちゃう子なんだよ……」


 ユメさんの言葉に、わたしもまた、ハッとさせられた。


 カイくんは、いつもどこか人と一線を引いているような感覚があったけれど。


 それとあの風景は関係しているのだろうか。


 うつむいて垂れた髪を掻き上げて、ユメさんは再度、皆様を見回す。


「わたしはね、怒ってるんだよ。

 みんなさ、オレアくんを支える、なんて言って集まっていながらさ!

 ――なんであんな心のままにさせてるんだっ!?」


 ユメさんが皆様を一喝して。


 ソフィアお嬢様達は言葉を失って俯く。


 わたしもまた、言葉がなかった。


 そんな素振り、カイくんはみんなの前では一度も見せたことがなかったから。


 ちょっと女が苦手な――そんな子なんだと思い込んでいたんだ。


「『わたし達の魔法』で開かれるステージはさ、もっとその人の願望とか、夢とか、そういうものに満ち溢れた世界が開かれるものなんだ……

 あんな……なにもない寂しい世界なんて……わたし、見た事がないよ。

 君達を責めるのはお門違いかもしれないけどさ。

 きっとオレアくん自身にも問題があるのかもしれないけどさ……」


 洟をすすって涙を拭うユメさん。


「あの子を想うなら……お願いだよ。

 あんな心をいつまでも抱えさせてちゃいけないんだ。

 お願いだから、オレアくんに幸せを感じさせてあげてよ……」


 吐き出すように皆様に告げて。


 ユメさんは続ける。


「――それがムリっていうならさ。

 こんなお茶会なんてさっさとやめて、オレアくんを諦めたらいいよ。

 そうだね。

 わたしがオレアくんを幸せにしてみせるからさ」


 まるで挑むように。


 ユメさんは皆様を見回した。


「わたしはやり手だからね。

 今までも何人もの男の子を手玉に取ってきたんだから。

 きっとオレアくんだって、すぐにメロメロだよ?」


「……それ、そなたが持っとるゲームの話だろう?

 乙女ゲーとかいうやつ……」


 魔王陛下がソファに頬杖突いて、呆れたように呟くけれど、ユメさんは気にせずに皆様に問いかける。


「――さあ、みんなはどうするの?」


 皆様、一斉に息を呑んで。


 そして拳を握りしめた。


 カイくん……ごめん。


 なんか変な流れになってる。


 アンタには幸せにはなってもらいたいと思うからさ、これを止められないわたしを許してね。

以上で2部終了となります。


プロット作成の為、一週間くらいお時間を頂いて、3部を始めたいと思います。


その間、つなぎとして、すでにプロットのできている勇者令嬢を短期集中連載致しますので、どうぞよろしくお願い致します。


『パーティメンバーを追放したら、しつこく付きまとわれるので、わたし、勇者を辞めて貴族令嬢になります!』

 https://ncode.syosetu.com/n5113hm/


 ご意見、ご感想お気軽にどうぞ!

 楽しみに待ってます。


 もしお気に召して頂けたなら、ブクマや評価をお願い致します。

 作者の励みになりますので^^;


 なるべく早く3部をお届けできるよう頑張りますので、どうぞ引続きよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読み頂き、ありがとうございます!
ご意見、ご感想を頂けると嬉しいです。
もし面白いと思って頂けましたら、
ブックマークや↑にある☆を★5個にして応援して頂けると、すごく励みになります!
どうぞよろしくお願い致します。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ