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心から愛しております旦那様、私と離婚を致しましょう  作者: 菜ノ宮 ともり
season2:手に入れた本当の幸せ
30/41

リアムとリヴェーラの話


  "旦那様、いかがお過ごしでしょうか?突然のご連絡申し訳ありません。肌寒くなってきましたから、体調崩しておられないか心配しております"


 リヴェーラからの手紙は、そんな当たり障りのない文から始まった。


 "旦那様のお好きなカモミールはこれくらいの気温を好むのでしょうね。今年は綺麗に咲いていますでしょうか。庭師の方に許可を頂いて、実は私も少し手入れをしていました"


 "ロロやリリ、それに他のみんなも元気ですか?特にロロには私の仕事もお願いしてしまったので心配ですが、ロロならきっと上手くやってくれますね。二人は私がいなくなって寂しそうにしているかもしれませんが、あまり咎めないで頂けると嬉しいです"


 滑らかな字体は震えている。彼女が何を思ってこの手紙を書いたのか、言葉よりもずっと強く伝わってくる。

 まるで妻が夫に宛てた手紙とは思えない。異常なほどの怯え、縋りつくような切実さ、身を切るような寂しさも。


 ずっと目を背けてきたものに、ゆっくりと、無理やりに向き合わされる感覚に俺は瞼を閉じた。

 

 カモミールが好きなのは君だと思っていた。

 刺繍をするときはいつも決まってカモミールのモチーフで、庭で手入れをしていたのも知っていたから。

 亡き母が好んでいただけで、特に思い入れがあるわけでもないその花に、俺が気を配っていたのは君のためで、庭に出る君が万一にも怪我をしないように庭師に言いつけていたのも、君のためで。


 俺はそれを、一度でも君に伝えたことがあっただろうか。


 支えがなければ歩けない日にも、俺の出迎えに出てくることがもどかしかった。

 そんなことをしている暇があったら休んでくれ。俺は君のことが気がかりで、家を空けている間も発作を起こしていないか、苦しんでいないかと気が気じゃないのに、なぜこんなことに僅かな体力を割こうとする。


 毎日決まって頭を垂れて俺を出迎える君に、伝えたことがあっただろうか。

 その行動に苛立ちにも似たもどかしさと、そして愛おしさを感じていたことを。


 俺がいつ何時でも君を愛していたことを、君は知らなかった。

 それでも分かってくれているはずだと目を逸らし続けたのは俺の弱さだった。

 君があの邸宅で、俺が作り上げたあの檻の中で、何に苦しんでいたのか。

 見ないふりをして逃げ続けて、君はそんな俺をどう見ていたのだろう。


 手紙には、その後にも謝罪と気遣いの言葉ばかりが並んでいた。 

 自分のことについては一切記述がない。そこでどんな風に過ごしているのか、体調に変わりはないのか、気が狂いそうなほど知りたい彼女のことは何も書かれていない。


 俺を気遣い、使用人を気遣い、謝罪をするばかり。

 丁寧に封蝋までして、出されることのなかった十数通にも及ぶその手紙を、なぜ彼女が仕舞い込んで隠したのか。この薄い便せんに吐露するしかなかった思いをなぜ彼女に抱かせてしまったのか。


 守っているつもりだった。そんな言い訳をして目を背け続けていたものに追い詰められる。


 "心から愛しております、旦那様。"と締められるこの手紙を彼女に隠させたのは、俺だ。


 ぽたりと、手紙に涙の粒がこぼれ落ちたのが見えた。それ以上濡らさないように、俺の汚い涙でリヴェーラの清廉な文字が汚れないように、手紙を向かいの席に置く。


「……っ」


 息が出来ないほどの胸の痛みに悶える。

 君はこれ以上の苦しみをずっと味わっていた。


 アルカディル伯爵夫人の座があれば、病持ちだと蔑まれることは無くなる。薬も、最高級のものを用意出来る。医者も、質のいいベッドも、体に合う食事も、すべて用意出来る。


 病気を負い目に感じているのなら、それなら何も問題はないと。病など関係なく、ただ有りのままの君を愛していると、そんな身勝手なおごりを盾にした。


 君は、与えられ続けてどんな気分だったのだろう。言葉のない、本心の分からない贈り物が、気遣いが、どれだけ恐ろしいものだったのか、俺はこんな時にしか気づけない。

 

 なんて傲慢で、醜い思いを君に向けていたのだろう。

 純真無垢で汚れの知らない君の隣に、俺のような正しい愛も分からない人間が立っていていいはずがないと、初めから分かっていたのに。





◇◇





「お久しぶりですなぁ、伯爵」

 

 しゃがれた声が背後からかかる。

 嫌な声だ。そのねばりつくような呼び掛けだけで声の主が分かる。


「…お久しぶりです」

「ちょうど一年が経ちましたなぁ、最後にお会いした日から。今後も伯爵のお力になりたいと思っている身としては、もう少し頻繁にお会いしたいんですが」

「………」


 もっと社交界に現れたらどうだ、と細められた目の奥が言っている。


 五十路にかかるとは思えない鍛え上げられた体格。全盛期は過ぎているだろうに筋肉は衰えていない。若い頃の美丈夫ぶりを思わせる彫り深い顔立ちや、優しげな雰囲気を醸す垂れ気味な目。

 流暢な話術で中小家門にしては社交界で名が知れている男はマクベル伯爵という。


 間違いなく最も危険視するべき男の背後から紫色のドレスの裾が覗いている。


「お?あぁ、ミランダ、いつの間にそこに居たんだ?前へ出なさい、伯爵に紹介するから」


 わざとらしい演技の後に、小柄な娘が出てくる。


 父親と同じ赤髪赤眼で、大きな瞳を潤ませている。小柄な体型の割に身体付きがよく、内気な設定の割には色香を含む目尻を細めて笑いかけてくる。


 そういえばデビューしたてに関わらず求婚が殺到する令嬢がいると噂になっていたことを思い出す。


「娘です。歳は十六ですよ?」


 さあどうだと言わんばかりの言いぐさに呆れて目を逸らす。しかし娘の方は気にも留めずおずおずと一歩近づいてきた。


「ミランダと申します。…あの、初対面でこんなことを申し上げるのは失礼かと思うのですが、その…ずっと、憧れておりました……」


 頬を赤く染めて上目遣いに見上げてくる。

 失礼だと分かっているのなら言わなければいいだろうと思いつつ、適当に返事をする。自慢の娘に対する態度が気に食わなかったのか、伯爵が鼻息荒く踏み込んできた。


「伯爵もそろそろ身を固める頃合いかと思いまして、うちの愛娘を紹介させて頂きました。ミランダは」

「伯爵」


 傾けていたグラスをテーブルの上に置き、薄い笑みを浮かべた。


「申し訳ありません。この後用事がありますので」

「…ああそうですか、それは失礼しました」


 伯爵の方は何の変哲もなくまだ微笑んでいるが、娘、ミランダと言ったか、の方は眉を顰め、ありえないと言った顔をして悔しそうにドレスを握りしめている。


 マクベル伯爵。中小家門ではあるが、今最も勢力を拡大している家門だ。

 それも、正当な方法ではない。異常な程に神殿に取り入り、自分に都合のいいお告げを社交の場で披露する。神の権威に縋りたい貴族連中が次々と取り込まれていた。


 勢力を広げた伯爵が次に味方に引き入れたいのは、光栄なことに我がアルカディル家らしい。

 やはり夜会など参加するべきでは無い、そう思いながら無造作にネクタイを緩め、中庭に出た。


 皇室主催の夜会で序盤に抜け出すうつけ者は他にはいない。予想通り中庭には人気が無い。

 会場からは社交活動に必死になる人々の喧騒が漏れ出ていた。

 

 皇室からの覚え高い英雄の一族は、そこへ混ざる義務はない。築き上げられた確固とした家門の恩恵を有難く受けるうちに、アルカディル伯爵は社交嫌いだと囁かれるようになった。


 過去の当主の功績に対する褒美にしては莫大すぎる権威はもはや滑稽で、享受させられる子孫が一体どんな環境で生きることを強いられるのか、まるで理解していない。


 栄光ある家門の内部は蛇や狸、その他害虫が騒いで、隙あらば命もろとも奪い去ろうと目論んでいる。命を狙われることには十六で、媚びへつらわれることには十八で慣れた。

 権威の扱い方を覚える暇など与えられず戦場へ投げ出され、唯一残った弟を守ることに満身創痍で、魂が汚れていく感覚をまざまざと感じながら生きるしかない。

 

 こんな褒美が欲しいと言う人間がいるのなら、頭をどうかしている。


 とはいえ欲深い欲深い人間の集会に今更参加する気も起きず、結局は権威に縋る。

 吐き気がする。自分の名前にも、あの喧騒にも。


 鋭い冷気が首筋を撫でる。いっそのこと本物の刃でも含んでいればいいものを。


 荒んだ心を癒す術を探そうにも、どこへ行ったらいいのか分からない。結局庭を半周したところで帰ろうと思い踵を返しかけた時、木陰から荒々しい息遣いが聞こえた。


 最悪だと眉をひそめた時、会場の出口の方から大きな声が聞こえてきた。


「ヴェーラ!ヴェーラ、どこにいるの!?」


 ひどく取り乱した声はこちらとは反対の方へ遠ざかっていく。

 まさかな、と思いつつ木陰を覗き込むと、淡い緑色のドレスをまとい、ミルクティー色の髪を持つ少女が見えた。


 細い方が大きく上下し、喘鳴が混じった呼吸が繰り返されている。

 月光で首筋に伝う汗が光っていた。


「大丈夫か」


 声をかけると華奢な肩が跳ね、少女が勢いよく振り返った。

 涙の膜が張るその瞳を見た瞬間、息を呑んだ。


 小さく蹲っていたためまだ年若いのかと思っていたが、自分と同じぐらいの歳の令嬢だった。

 苦しそうにひそめられた眉と、涙に濡れるまつ毛、紅潮した頬に白く透き通るような肌。男の庇護欲を掻き立てる容姿をした彼女の瞳には、色がなかった。


 目の中心にかすかに緑色の虹彩が残っているが、薄すぎるその瞳は俺の色を反射し、グレーに染まる。覗き込むほどに色濃くなっていくのを見て、俺は動けなくなった。


 自分の身に何が起こったのか分からない。無防備に涙を流す彼女の瞳が俺と同じ色に染まっていく様を、ただ見ていることしかできなかった。


 気づけばその肩に触れようとしていて、彼女が身じろぎしたことではっと我に返った。


「誰…お姉様?…お父様、ですか…?」


 息を呑んだ。

 手を伸ばせば触れられる距離に居ながら、彼女の焦点は合わない。見知らぬ男に詰め寄られているというのに逃げることもせず、手を伸ばすこともせず、ただじっとその場で震えている。


 泣き出しそうに歪んだ唇からか細いが発せられた時、盲目であることを悟った。同時に、彼女が度々会話に持ち出される、フェンデル侯爵家の病持ちの次女であることも。


「も、申し訳ありません。私、目が、見えないのです。お父様ですか?それとも…」

「…アルカディル伯爵と申します」


 彼女の顔に絶望が広がったのが見えた。父親でなくてがっかりしたのだろうか、それとも。


「も、申し分けございません、アルカディル伯爵様。英雄の子孫でいらっしゃる伯爵様にこんな姿をお見せしてしまって、本当に申し訳ございません」

「………」

 

 目が見えない、家族ともはぐれた、自分がどこにいるのかも分からない。怯えて泣き崩れる彼女を見ていると、そんな状況にいる彼女に詰め寄ってしまったことに罪悪感を抱いた。


「…すぐそこにベンチがあるのでそこまで案内しましょう。歩けますか」


 その言葉で立ち上がろうとするが、すぐにバランスを崩して転倒する。目が見えないため、体重の扱い方が分からないのだろう。戦場で目を負傷した兵士と同じような動きをしていた。


 腕を差し出して自分の方に体重を傾けるように促す。


 彼女は謝罪の言葉を口にしながら歩いた。

 言うべき言葉はあるだろうに声にならず、沈黙を貫いた。驚くほど軽い体重も、その肌の柔らかさも、頼りなさげな声も、初めて感じるもので思春期の少年かと思うほどみっともなく動揺していた。


 ベンチに座らせたあと、家族を呼びに行くと告げると止められた。


「か、家族には、知られたくないのです。今、きっと楽しんでいらっしゃるから…」

「……あなたはこんなに苦しんでいるのに?」

「いつも迷惑をかけているのは私ですから」


 そう言って、静かに微笑んだ。


 彼女が味わっている苦しみがどれほどのものかは分からない。

 だが、その頬に大粒の涙を零すほど、呼吸をするのもままならないほど、一人では歩けないほど、辛いはず。なのに何故笑い、痛みを隠すように平気なふりをするのかまるで理解できない。


 あまりにも貴族令嬢らしくない姿に言葉を詰まらせた。

 いや正しくは、彼女のような人が、自分と同じように家族から隠れようとする姿に。


 甘やかされて育ったと言い切るには彼女のことを知らなすぎる。だがあれだけ必死に探されているのだから、大切に育てられているのだろうに。確かに孤独ではないはずだというのに、なぜ目の前の彼女は普通の貴族令嬢の様に助けを請わないのだろう。


「伯爵様、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

「…」

「私なら大丈夫ですので、会場に」

「いや」


 彼女の前に跪いて、ドレスの泥を払う。彼女は驚いたように身をすくめ、おやめ下さい、とか細く言ったが、俺は気にせずある程度の泥を払い落とした。


「私も、人に酔ってしまって抜けてきたところです。あなたさえ良ければ、一緒に休ませて頂きたいのですが」


 困ったように眉尻が下がる。なんと言ったらいいか分からずしばらく思案していたようだが、そのうち頷いた。

 その息遣いはまだ苦しそうで、彼女の隣に座り深い息を促すようにそっと背中をさすると、何故かまた泣いた。


「苦しいのですか」

「いえ…申し訳ないのです。ご迷惑をお掛けして、本当に申し訳」

「謝らなくて結構です」


 口を開けば謝罪の言葉。まるでそれ以外の言葉を忘れてしまったかのように。

 彼女の胸の内にある感情が、すすり泣く声から伝わってくるような気がした。


 それはあまりにも残酷で、冷酷で、孤独な。

 生を受けた人間が味わう必要などない忌まわしい感情。


 俺が縫い留められたように彼女から離れられないのは、その容姿に心惹かれたわけでも、境遇に同情したからでもない。


 木陰で一人で泣きながら必死に訴えようとして、けれど誰にも縋れないことを理解している。誰かに見つけてもらったとして、手を差し伸べてもらったとして、自分の身の上を思えば頼り方が分からない。頼れない自分が憎く、どうしようもないやるせなさに身を焼かれる。


 “私の居場所はどこにある?”


 世界のどこにもないのかもしれない。そんな恐怖の追手から隠れようとする彼女を見つけられたのは、同じ闇の中で必死にもがきあっていたからだ。

 

 同じ恐怖を抱いているから、俺は彼女を見つけた。


「もし、消えたいと願うくらいなら」


 自分が何を言おうとしているのか分からない。たった今出会ったばかりの名前も知らない令嬢に、出来ることなど何も無い。自分が干渉することでもない。彼女の事情も何も知らない、ただの第三者に過ぎない。


 同志であると気づいているのは自分だけだと分かっているのに。


「俺のもとに来たらいい」


 消えるくらいなら俺のもとへ逃げくればいい。

 泣くなら俺の傍で、隠れたいなら俺の陰に。そうしてすべてを俺の世界の中で完結させていれば、何も怖くない。一生手放すことはないから。


「………隠れられたら、傍にいたくてもいられない」


 自分の口から出る言葉がまるで普段のものとは異なり、我に返って羞恥心が湧いた。

 なんて柄にもないことを言ったのかと。彼女も出会ったばかりの男にこんなことを言われたら気味が悪いだろう、と後悔しかけた時、すすり泣く声が止まった。


 いつの間にか呼吸が落ち着いていた。顔を押えていた手を離し、彼女がゆっくりとこちらを向く。


「……」


 先程俺の瞳の色を反射した、色をなくしたガラス玉はもうそこにはなく、水面に映る新緑の葉の色に濡れたように艷めく、美しい瞳がそこにあった。


「伯爵様…」

「……」


 今度は自分の心臓が苦しくなる番だった。

 これ以上ないほどの疼きに息を詰める間にも、何も知らない彼女は一人聖域にいるかのように、澄んだ空気を纏ってそこにいる。


 リヴェーラ、と心の中でつぶやいた。

 まるで女神の名前の様に錯覚した。穢れを知らない彼女の名前を、きっと俺は呼ぶことが出来ないだろう。そんなことをすれば、俺が抱く醜い感情がすべて伝わってしまう気がして。


 似ているようで違う。

 同じく孤独でありながら、彼女は清らかなままだ。周りの人間にまだ気づかれていないからこそ、何人のことも知らない。


 欲しい、とここまで切実に願ったのは生まれて初めてのことだった。

 彼女が傍にいてくれたら、永遠の渇きから解放される気がする。

 彼女が俺の傍にいれば、互いが居場所になれる。


 醜い欲を向けられているとも知らない彼女は、遠くでかすかに聞こえる家族に声に振り向いた。


「お母様の声です。私、もう行かなくては…」

「...」

「本当に、助けていただいてありがとうございました」

 

 立ち上がるその目には色が戻り、足取りも確かなものだった。裾から除いた細い足首を見た瞬間、首をもたげた欲求で我に返る。

 いけない。これは、違う。行き過ぎている。


「いえ、お気になさらず……」


 彼女の瞳と同じ色のドレスが翻る。

 それを半ば放心状態で眺めている時、彼女が立ち止まり、振り返った。


「その…今度、もしお会いする時がありましたら、今日のお詫びを…」


 男慣れしていなそうに、耳まで赤くしてそう言う彼女を見て、奇妙な感覚が沸き起こった。

 先ほどまでのどす黒い感情に、自覚するにはむず痒い、一滴の温かい雫が混じっていく。


「…いえ、その必要はありません。近々戦へ出立する予定ですので」

「そう、なのですか…!?」


 立ち上がって近づくと、警戒心も一切なく上目遣いで見上げてくる。


「どうかお気をつけて…」

「ご心配なさらず」


 次に会う時もこんな目を向けてくれるだろうか。その時まで誰にも縋らず、一人で泣いていてくれるだろうか。あぁ、出来るだけ早く帰ってこないといけない。


 彼女を、妻にするために。


「またお会いするでしょう」


 次の春がやってくる前に。

 一筋すくった髪に口づける。ほんのりと頬を染めて恥じらった彼女は、かすかに、けれど確かに頷いた。


 

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