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第20話 体育祭の昼食は大所帯

 午前の競技が全て終わり、いよいよ昼休みとなった。源蔵からRineに送られてきたメッセージによると、木陰を確保できたと言う内容だった。


「黒谷先輩~!こっちこっち!」


 同じ名字なのにそう呼ばれるのは、なんとも変な感じがした。俺が兄さん呼びにするよう言ったが、夏凛は聞いてくれない。


 一般の妹も年頃になると兄へ攻撃的になるというし、それの亜種なのだろうか?


 俺が不安を覚えてるうちに夏凛はサッと中に入っていった。と、その時、背後から直近で聞いたことのある声が聞こえてきた。


「お母さん、何で場所取りしなかったの~?」


「ごめんね、恵……お母さんぼーっとしちゃってて」


 恵?一瞬誰だろうと考えたが振り向いてその答えがわかった。会話の内容から場所取りをし忘れた、そんなところだろうか。


「あ、黒谷君じゃない!お久し振り!」


 おうふっ!見つかってしまったか……まぁ内容を聞いた辺りから次に言う言葉は決まってたけどね。

 ちなみに城ヶ崎さんはさっきの件を思い出したのか、そっぽを向いている。


「お久し振りです。その……もしよろしければ──」


 俺の言葉を遮るようにして源蔵が前に出てきた。肩に乗せられた手が大きく、仕事で生きてきた(つわもの)を連想させた。


「おお、これはこれは美人が2人してどうなされた?」


「あらやだ!上手いですわね~!実は──」


 城ヶ崎さんのお母さんは来れない夫に変わって奮起したものの、朝に重箱作るだけで精一杯、場所取りを忘れてしまったのだとか。


 仕方がないので源蔵がスマートに誘って、みんなで昼食を取ることにした。


「源蔵さん、私達のも突っついて下さいな。ほら、あなた達もどうぞ!」


「ああ、どうも……いただきます」


 右隣に夏凛が、左隣に城ヶ崎さんが、2人揃ってこちらを見ている。取り敢えず気付かないフリしてお母様の卵焼きを1口食べる。


 もぐもぐ、ごっくん!


「小さくネギが入ってて美味しいですね。このタイプのは食べたことなかったです」


「あ、ごめんなさい。そこ恵が作ったところなの、恵……黒谷君がこう言ってるけど?」


 待て待て!アンタが1人で作ったような言い方してたよな?という突っ込みが出かかってなんとか飲み込むことに成功した。


「黒谷……ありがと」


「あ、ああ……ホントに美味かったよ」


 互いに気恥ずかしくなり、俯いていると夏凛が頬っぺたをツンツンしてきた。


「兄さん、こっちのまだ食べてないでしょ?ほら、あ~ん!」


「え?ちょっとま──むぐっ!」


 夏凛が何故か無理矢理突っ込んできた。その姿に俺も含め、夏凛以外が驚いた顔をしていた。そして夏凛本人も数秒置いてから「あっ!」みたいな顔をしている。


「えーっと、黒谷妹って……そんなに積極的な子だったっけ?」


「あ……ああ──ち、違うんですっ!兄さんが鼻の下伸ばしてるから、妹として恥ずかしいから……ちょっとした意趣返しです!」


 源蔵は(あご)をさすりながらニヤつき始めた。


「城ヶ崎の嬢ちゃん、大衆の面前でダンス後に抱き合う程だしな。ははっ!兄が取られそうで焦ってるなんて、兄妹らしくなったじゃねぇか!」


 城ヶ崎さんも夏凛も、そして俺でさえも顔を赤くしてダメージを受けていた。


──その後。


「あ~~アタシ、クラスでも多分弄られる~!グループメッセでも画像が送られてきたしーーーッ!」


「ごめんねぇ恵……恵は昔から感極まると抱き癖あるからねぇ、人の噂も75日、すぐ来るわよ~」


 と城ヶ崎さんは嘆き、さすがに弄りすぎたと反省した母親に慰められている。


「兄さん、さっきはごめんなさい。私、たまにモヤモヤしちゃって……なんか嫌な子になってきてますよね」


「いやいや、俺も配慮がなってなかったよ。先に自分ところの食べるべきだったな。気付かなくてごめんな?」


「兄さん……ありがとうございます」


 と俺も夏凛を慰め、昼休みが終わる頃にはみんな普段通りの調子に戻っていた。

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