第18話 体育祭は嫌いだ、でも──
個人競技は障害物競走で決まり、俺は油断していた。
その日のホームルーム。剛田先生ことゴリラが足音を立てて教室に入ってくる。そしていつも思う、何故ピチピチのタンクトップをいつも着ているのか?っと。
そしてやつは乱暴極まる音を立ててチョークを走らせた。
"社交ダンス"
その字を見た瞬間から教室はざわめき始める。ゴリラは俺たちの方へ振り返ったあと、キラリと歯を見せて教卓をバンっ!と叩いた。
「今年の学年競技は──"社交ダンス"だ! さあ~て、相手を決めろ~! そして青春しろ! 俺のような社会人にはもう訪れない異性との交流ってやつだ。それを俺が、与えてやる!」
非難の声が所々から挙がっている。仮にダンスをするにしても、全員で同時に踊るタイプか、ペアを入れ替えながらやるだろう。
婚活が上手くいってないという噂がゴリラにはある。それによって生じたストレスを俺達で発散させているという話しを職員室でしてたようだ。しかも、今回の件は会議で無理矢理押し通したらしい。
社交ダンスはペア固定型、俺には絶望的だ。ただ、ワルツなのは不幸中の幸いと言えるだろう。反時計回りに3拍子で回転しながらステップを踏む、うん……多分いけると思う。
「ほらほら相手を決めろ~」
こういうとき、女子の世界では水面下で見えない戦いが繰り広げられるという、俺達男子にはできない芸当だ。そんな考えを巡らせていると誰かに制服を引っ張られた。
「黒谷、アタシと組んでよ。男子で仲良いのアンタしかいないし」
「え、俺で良いの?」
この間、夏凛を捜してもらったときに城ヶ崎さんは人脈と言うネットワークを使っていた。あの時、俺とは違うのだと認識させられたんだ。容姿も人当たりも良いのならイケメンを選ぶだろうと、そう思っていた。
「……アンタが、良いの」
正直言うと、嬉しい限りだ。ただ、彼女の好きな人とやらに誤解されないか、それが心配だ。
──と、考えてるうちに城ヶ崎さんは黒板に名前を書き終えていた。
俺は救ってくれた城ヶ崎さんに感謝を述べる。
「城ヶ崎さん、ありがとう」
「うん、こちらこそ」
笑顔で返す城ヶ崎さんは、俺にとって眩しく見えた。
☆☆☆
殺人的な太陽の陽射しの下で早速練習が始まった。ラジオ体操や整列、入退場までひたすら練習した。それができたと思ったら、今度は個人競技の始まりだ。
障害物競争なんて名前だが、飛び越えたり、潜ったりするだけだ……やることは決まっている。そもそも慣れたらいけないので、練習ではその道具を使った体で行われた。
そして個人種目が一通り終わり、午後からは体育館で社交ダンスの練習が始まった。3拍子でゆっくりとステップを踏んでいく、まだ全員で円を組んで回れないのでその場で練習だ。
城ヶ崎さんの背中に手回し、空いた手は握り合う。そして10分ほど練習したところで俺が転けてしまった。倒れた俺に城ヶ崎さんが覆い被さる。
はぁはぁと城ヶ崎さんが息をしているのが伝わってきた。暑いが故に体操着もじっとりと湿っており、薄いピンク色の下着と、割りと大きなそれが俺の胸で潰れていた。
周りからはクスクスと小さな笑い声が聞こえてきた。無様な姿を晒した俺は顔が熱くなり、嫌な気持ちになった。
だが、城ヶ崎さんはゆっくりと立ち上がり、俺に手を差し伸べてくれた。
「大丈夫? 痛くない? アタシの鼓動、伝わったでしょ? アタシも緊張してる、だから一緒に頑張ろ!」
優しい城ヶ崎さんに少しだけ泣きそうになりながらも、練習を頑張った。そのおかげなのか1日でみんなよりも、より一体感あるステップを踏めてたと思う。




