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第118話 ファンタジア・ジェットコースター

 俺達はジェットコースター前で並んでいた。


 隣には恵さんが立っていて、少し後ろに夏凛が立っている。そして夏凛は今日1番の不機嫌な顔をしていた。


「ジャンケンで決まったことだろ? 機嫌直してくれよ~」


「ツーン!」


 夏凛は言葉通りにツーンとそっぽを向いた。その理由はジェットコースターの座席にあった。

 3人で隣り合って座れれば良かったんだけど、残念ながら2人でしか乗ることができない。


 俺が後ろに行っても良いよって提案も「ダメ!」の一言で一蹴されしまい、結局ジャンケンで俺の隣争奪戦を行った。


 そして結果として夏凛が敗北し、恵さんが俺の隣に座ることになったのだが、どうにも夏凛はそれが納得いかないようだ。


「おかしいです。今まで兄さんを対象にした勝負では負けたことがなかったのに……」


「どういう事だ?」


「縁結びの実験で進藤さんの──あ、私の同級生の方です。進藤さんと兄を賭けて勝負をしたんです。その結果、どんな方法を取っても私は兄さんが対象だと敗北しないことがわかったんです」


 なるほど、夏凛の言いたいことはよくわかった。例えば、王様ゲームをしたら俺と夏凛は絶対にペアになってしまう、そう言いたいのだろう。


 だけどな、恵さんもよくわからない現象が起きるんだよ。毎年同じクラス、席替えをしたら必ず隣、これはどう考えてもおかしい。


 俺と恵さんには縁結びではない何かがありそうだ。ただ、それはそれとして──。


「夏凛、結果として負けちゃったけど、チートと知ってて挑むのは良くないだろ」


「そ、それはそうですけど……」


「この間、フェアがどうとか言ってたじゃないか。きちんとしないとダメだろ?」


「……はい」


 夏凛がシュンとしてる、何かかなり可哀想に感じてきた。叱るだけじゃなく、兄貴としてフォローもきちんとしないといけないな。


 そう考えた俺はそっと夏凛を抱き寄せて頭を優しく撫でた。

 すると、隣に立っていた恵さんが急に声を上げ始めた。


「夏凛……あんた、それが目的だったの!?」


 一体何の事を言ってるんだろうか? 夏凛の方を見ても特に何もない、俺と同じくキョトンとした顔をしている。


「何かしたのか?」


「さあ、私にはわかりません。恵さんはどうやら情緒不安定みたいですね。なので、私が代わりに座ります」


 夏凛が俺の手を引いて受付に向かおうとするが、後ろから全力疾走で追い付いた恵さんに手を取られて、結局ジャンケン通りに座ることになった。


 冷たい座席に座ると、安全バーが下りてきた。


 大型ジェットコースターに比べると貧相な安全バーだけど、逆にこれだからこそ割りと自由に動ける。


 例えば、パンフレットに写っていた母子みたいに恵さんが俺に抱き付く、何てことも充分にあり得るはずだ。


 サイレンが鳴ると少しずつ進み始めた。


「こんなにゆっくりで大丈夫なのか?」


「どんなジェットコースターも最初はゆっくりなのよ」


「ふーん、まぁ子供向けだからそんなに加速はしないだろ」


「黒斗……子供向けだからって侮らない方がいいよ?」


「何言ってるんだよ。もしかして、怖いのか? はは、俺に抱き付いても良いんだぞ?」


「うっ、それはそれで……じゃなくて、そろそろ頂上だから舌を噛まないようにしといてよね」


 恵さんの言うとおり、コースターはカタンカタンと音を立てながら、もうすぐ頂上へ到達しようとしていた。


 最初の頂上に到達した時、時間が一瞬止まったような感じがした。


 そして景色が一気に引き伸ばされる。耳は風の音で誰の悲鳴かわからない声を拾うのがやっと、心臓を鷲掴みにされたような感覚に俺の口からは自然と悲鳴が漏れ始めた。


「ぎゃああああああああっ!!」


 安全バーが途端に貧相な物に感じた俺は、とにかく何かに掴まっていたくて、夢中で何かにしがみついた。


 すると、少し声色の違う悲鳴が隣から聞こえてくる。


「ちょ、ちょっと! 黒斗、ん、ん~~~~~ッ!?」


 恵さんが何か言ってるけど、今は聞く耳を持たない。


 フカフカで、柔らかくて、ほんのり暖かい……安全バーよりこっちの方がよっぽど安心できる。


 度重なる急降下とカーブによって色々シェイクされた俺は、本来なら体調を崩してるはずなんだが……途中で感じた安心感により無傷で生き抜くことに成功した。


 ただ、コースターが止まった時に抱き付いていた物が恵さんだとわかり、俺達は互いに顔を真っ赤にしてかなり気まずくなった。


「ご、ごめん」


「ううん、気にしないで。試しに子供向けに乗ってよかったよ。勢いで有名コースターに乗ってたら大変な事になってたかもだし」


「兄さん……広場の方で少し休憩しましょうか」


「ああ、そうだな」


 男として不甲斐ないと思いつつ、俺は夏凛と恵さんに支えられながら広場へと向かった。

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