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8.圧倒的な力

 奈落の底を進み続けて、どれくらい時間が経っただろう。

 時間の感覚が分からないままに、レクシアは進み続けるしかなかった。

 唯一、頼りになるのはルッキネスだけだが、疑問に思うことはあった。


「これって上に向かっているの? なんかずっと、平らな道を歩いている気がするんだけど……」

「上に行ける道を探してる。たぶん、どこかにあるはず」


 どうやらルッキネスも探しているようだった。

 一番手っ取り早い方法は、崖のようにそびえる壁を上っていくことだろう。

 時々、岩でできた太い柱のようなものが上に伸びている。これを伝って行けば、戻ることはできるのかもしれないが、レクシアにそんな力はない。


「レクシア、こっち」


 ルッキネスに従うようにして、その後についていく。

 相変わらず暗い道は続いていたが――今度は、かなり広い場所に出た。


「ここは……」

「大空洞だね。レクシア、ここからはわたし、また剣になるよ」

「え、どうして?」

「すぐに分かるよ――」


 言葉と共に、彼女は剣の姿へと変化していく。

 レクシアは剣となった彼女を握ると、言葉通りにすぐ意味を理解した。


「オオオオオォォ……」

「シャアアアアッ」


 低く唸るような声と、耳をつんざくような鳴き声。

 レクシアの目の前に、二体の大きな魔物が姿を現した。


「ひ……っ」


 突然の出来事に、怯えた声を漏らすレクシア。

 一体は、大きな身体を持ち、羽を生やした漆黒の竜の姿をした魔物。手足には鋭い爪。口にも同じく鋭い牙が生えている。大きな瞳が見据えるのは、相対するもう一体の魔物。

四本足で大地を踏み締め、藍色の毛並みをした虎の姿の魔物だ。尻尾には棘のようなものが生えており、地面を撫でるだけで削っているのが分かる。

いずれも、レクシアの見たことがない魔物であった。

 ただ、どちらも先ほど戦った魔物とは比べ物にならないほど強いというのは分かる――二体の狙いがレクシアではないというのが、幸いだろうか。


「……っ」


 レクシアは息を殺して、来た道を戻ろうとする。


『どうして逃げるの?』


 そんなレクシアに対して、ルッキネスが問いかけてきた。

 どうして逃げるかなんて、聞かなくても分かるだろう。

 先ほどまで戦っていた相手だって、本来ならレクシアが勝てる相手ではなかったのだから。


「あ、あんなの、勝てるわけないよ。どっちも強そうだし……私なんかじゃ……」

『大丈夫、レクシアはあんなのより強いよ』

「そ、そんなこと言われたって……」

『レクシアは、ここに来るまでにわたしの力を十分に扱えるようになった。でも、まだ足りない――ここを出るには、どのみちああいう奴らを倒していかないといけない』

「……他に道はない、ってこと?」

『あったとしたら、他の道を選ぶ? わたしは、レクシアに信じてほしい』

「信じる……」


 そうだ――頼れるのはルッキネスだけだと、理解しているはずだ。そして、彼女のことは信じるのだと、レクシアは決めたはずだった。


「私なら、あいつらに勝てる……?」

『うん、勝てるよ。レクシアはもう、十分に強い』

「わ、分かった」


 レクシアは頷いて、決意に満ちた表情を浮かべる。

 すでに、目の前では戦いが始まっていた。

 竜の魔物の鋭い爪が、虎の魔物の身体を抉る。虎の魔物の棘の付いた尻尾が、竜の魔物の羽根を貫き、お互いに一歩も譲らぬ戦いを続けていた。

 その中に、あまりに小さな少女であるレクシアが姿を現す。二体からすれば、気にするほどの存在ではなかったはずだ。

 だが、レクシアを視認した二体は、すぐに理解する。この少女は危険だ――理解して、お互いに同時に攻撃を仕掛けた。

 華奢なレクシアは軽々と吹き飛ばされて、近くに生える大木へと叩きつけられる。

 ずるりと力なく倒れるレクシア。二体の魔物は警戒を緩めることなく、レクシアの方を見る。

 レクシアはゆっくりと立ち上がると――剣の柄を握り締めて、構えた。


「『ブラッディ・ストーム』」


 剣から放たれる魔力が竜巻のようにうねりを上げる。

 それは血が混じった風の渦――竜はすぐに、上空へと飛び、虎はその場から跳躍して離れた。

 だが、血の竜巻は二つに分かれると、それぞれの魔物の巨大な身体を覆いつくす。


「ガ、ガガガガグ……!」

「シュァァァ……!?」


 削る。文字通り、魔物達の身体を、血の竜巻は削り始めていた。

 そして噴き出す血液を、竜巻に巻き込んでその姿を大きくしていく。

 初めは魔物の周囲をかろうじて覆う程度だった竜巻が、魔物にダメージを与える度に巨大化していき、威力はどんどん増大する。

 魔物の血を得たことで、さらに強力なモノへと変化しているのだ。

 勢いの増した竜巻は、レクシアの意思で操ることができる。

 向けるのは、広大な奈落の底に広がる魔物達。次々と魔物達を巻き込んでいき、気付けば十数体という魔物を、レクシアはたったの一撃で葬り去っていた。


「はっ、はっ……これ、すごい……」


 さすがに大技だったために、レクシアは息を切らす。他人事のように言うレクシアに、ルッキネスはくすりと笑うように話しかける。


『レクシアがやったことだよ。さあ、あなたがここで一番強いことを――証明しよう』


 その言葉に、レクシアは頷いて歩き出す。

 鮮血に染まった奈落の大地で、彼女による蹂躙が始まった。

大体3万文字で区切れるように投稿したので、このままいきたいと思います!

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