13.そう遠くない未来
「レクシア……もうずっと離れないから」
「うん、私も……メクウと一緒にいたい。私、強くなったんだよ? 奈落の底で、必死に生きてきた」
「そうなんだ……あたし、全然気づけなかった」
「メクウは悪くないよ。悪いのは――この人だから」
「ひ……っ」
レクシアとメクウの視線を受けて、怯えた声を漏らすアクト。
先のルッキネスとの戦いによって、エディとリトアはかろうじて生還した。
だが、彼らの受けた傷は軽いものではなく、すぐに意識を取り戻すことはないだろう。
今、この状況で動けるのは、レクシアとメクウに――腰を抜かしているアクトだけだ。
「ど、どうしてお前が生きてるんだ……! 奈落の底に落ちて、生きていられるはずが……!」
「あんたが落としたの?」
「! ち、違う……」
「見せてくれたメクウの映蔵、嘘だったんだ」
「ま、待て! それは……」
必死に言い訳を考えているようだが、レクシアにはもう通用しない。
メクウがレクシアを求めていることは、会った時から分かっていた。
そして、レクシアもまた、メクウと一緒にいたいと言う気持ちはずっとある。お互いのことを想っているからこそ、誰が悪いのかなんて、分かり切ったことだ。
「どうする? あんたが決めていいよ」
「私が?」
「そうでしょ。だって、アクトがレクシアを突き飛ばしたんだし」
「でも……さすがに殺すのはちょっと」
「そ、そうだろ。いくらなんでも……」
レクシアの言葉を聞いて、安堵したような表情を浮かべるアクト。
レクシアとて、人殺しになりたいわけではない。――とはいえ、アクトを許せるかと言えば、許せるはずもなかった。
『レクシアと同じ目に遭ってもらえば?』
「! それだ、ルッキネス。賢いね」
「……? ルッキネス? その剣のこと?」
「あ、うん。詳しく話すと長くなる――あ、私もよく分かってないけど、この剣の名前もルッキネスなの。奈落の底で出会った、えっと……剣になれる女の子?」
「そ、そうなの……? また、すごい人に会ったのね……?」
「この子のおかげで生きていられたんだけど……アクトさんなら、奈落の底に落ちても生きてられるよね?」
「は……? そ、そんなの無理に決まってるだろ! だって、地下にはどれだけの魔物がいると思っているんだ……!?」
「私はよく知っているよ。でも、私が生き延びられたし……」
「き、君とは違うんだ! 化物め――」
そう言った瞬間、アクトの下の地面が割れた。
地面に突き刺さったルッキネスが、大地を割ったのだ。
「え、あ――」
『レクシアの悪口は許さないよ』
奈落の底へと落ちていくアクト。割れた地面は、すぐに元に戻っていく。――生き延びられるかどうかは彼次第、というのは少し違うのかもしれない。
きっと、アクトは間違いなく死ぬだろう。
「……よかったのかな、これで」
「いいのよ、これで。あたし、もうレクシアの傍から離れないから!」
そう言って、メクウがレクシアに抱き着く。
「ちょ、ちょっと……」
「わたしも、レクシアと離れない」
「いつの間にか人間に戻ってる!? 二人とも、ここはまだ嘆きの――わわっ!?」
バランスを崩して、倒れるレクシア。
メクウとルッキネスに押し倒されて、そして三人で笑い合った。
この日――嘆きのコルセスタに存在した王は消滅した。倒したのは、勇者パーティのメンバーの一人であるレクシア・セインケイル。
彼女はまた、次の『魔物の王』を倒すために、相棒であるメクウ・サティロンと共に歩み出した。
奈落の底から蘇った彼女が世界を救うのは、そう遠くない未来の話だ。
めちゃくちゃ長くできそうでもあったんですが、この辺りで区切りを付けます!
お読みいただいてありがとうございました!
このあと三人で末長くいちゃつく予定です。