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梨子は歩き出してから、ずっと直彦を質問攻めにしていた。何しろ、梨子にとって、初めて見る物ばかりで、テンションがあがっていたからだ。最初、直彦は困惑していたようだが、1つ1つ、丁寧に答えてくれた。梨子のテンションが落ち着いてきた頃、直彦が「梨子は……、鯉のぼりが好きなのか?」と、聞いてきた。ワンピースの裾にある、刺繍に気が付いたらしい。鯉のぼりが好きというより、鯉のぼりが人間に変身すると、自然と、この柄になる事を言うわけにいかず、小さな声で「……うん」と、返事をした。
「おれは……、あんまり好きじゃないんだ……。自分の鯉のぼりを持ってないから……」
男の子の家には必ず、鯉のぼりがあると思っていたから、梨子は驚いてしまった。
「だから、天の事がうらやましくて、毎年、引っ張りっこしちゃうんだ……」
それを聞いた梨子は、毎年、天のお母さんに直彦が怒られても、天と引っ張りあいになる、理由がわかり、思わず小さな声で「だからなんだ……」と、呟くと、直彦に聞こえてしまったようで「何が、だからなんだ、なんだ?」と、言われ慌てて梨子は「鯉のぼりも、痛いよ」と、言った。
「そうなのか。なんか、悪い事してたな……」
直彦が分かってくれて、梨子はなんだか、安心できた。
「直彦君も、自分の鯉のぼりを壊されたら、イヤでしょ?」
「うん……」
「……それじゃあ、自分の鯉のぼりがあれば、もう、引っ張りっこしない?」
直彦が「たぶん……」と、答えるまでにだいぶ時間があったが、それを聞いた梨子は、ある考えが浮かんだ。だけど、今はできない。それは、梨子の持ち主、天がいないとできない事だから。
それから直彦は黙ってしまい気まずい雰囲気になってしまった。梨子が「これは何?」と、聞いても、あまり答えてくれなかったが、気まずい雰囲気が薄れてきた頃、直彦が、あともう少しで公園に着く事を教えてくれた。公園を知らない梨子が「公園って何?」と、聞き返すと、直彦が立ち止まり、梨子を見た。
「公園を知らないのか?」
梨子が真顔で首を縦に振ると、直彦は目を見開き「本当か?」と、聞いてきた。
「うん」
見た事がないのだからしかたがない。それに飛ばされた時は景色を見るどころじゃなかった。
「……それじゃあ、公園で遊んでから天の家に行こうぜ」
直彦が、言葉を発するまで時間があったが、それを聞いた梨子は、嬉しくなった。
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