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6話 凡人ヒーロー

合同学院の校舎はガラス張りのビルである。

市内に並ぶビル群の中でもひと際高くて目立つ。

教室は学年が上がるごとに高くなり、俺は高1なので校舎のど真ん中に学習場所を構える。

下の階は中等部用である。

俺の席は窓際で景色がいい。

窓からは、車がたくさん通る道路やビル、遠くには海を見ることができる。

そんな景色を眺めながら、机に学校支給のタブレットを置く。

筆記用具やノートはいらず、この端末一つで授業を受けられるので便利だ。


「ピロン」


机に接続したタブレットが着信音をあげた。


「テレビ電話か」


画面をスワイプして応答する。


「よう孝信。元気してたか?」


違うクラスの和人が画面に映る。

たった数日ぶりというのに、大昔の人と会ったような気がしてテンションが上がる。


「おー和人。超元気!どうしたんだ、珍しい」


「いやー、孝信の声が聴きたかっただけー」


何だよそれ、恋人かよ。

この学校では同学年の教室は同じ階にあ、り廊下に出ればすぐに他クラスの人と話せるのだが、せっかく最新鋭の技術を使える場所だから、とかでテレビ電話で通話する人が多い。

教室を見渡しても同じように、タブレットに向かって話をしている生徒が何人かいる。


『キーンコーンカーンコーン』


定時になる、相変わらず無機質な音のチャイムが鳴った。


「じゃあチャイムなったから切るぞ。じゃあな孝信」


「ありがとな。今日委員会来るだろ。その時話そうぜ」


「おう」


たくさんのあ売りが表示されたホーム画面に戻る。

俺は再び頬杖をついて窓の外を見だす。

チャイムが鳴ったため教室が静かになりつつある。

わー飛行機雲ってなんでできるんだろうな、なんて考えていると教室のドアが開いた。


「よーし。授業始めるぞー。連絡事項は各タブッレトに送ってあるから確認しろー」


そういって先生は教卓に立つ。

それをクラス代表が確認して号令をかける。


「起立 お願いします」


『お願いします』


「着席」


挨拶を一通り終え、授業が始まった。

今では黒板の代わりに大きな電子モニターを使っている。

ああ、黒い板と書いて黒板と言いつつ、実は濃い緑色の板が恋しい。

ちかちか光っているモニターを見つつタブレットにメモをする。

そのついでに教室もチラッと見渡した。


欠席者が約10名ほど。

俺のクラスは40人位いるが、4分の1人がいないとなると流石に非日常感を覚える。


「なあ、これってやっぱり体の異変が原因で休んでいるのか?」


俺は小声でシステムアナウンサーこと、五月出会いつきであいに聞く。


(その可能性が高いです。クラスメイトもサイボーグの覚醒期に当たっているのでしょう)


「ふーん」


そういえば同じクラスなのに通時を見かけなかったな。

もう一度教室を見渡すとやはり彼の席に姿はない。


通時・・・今苦しんでるのかな。

大丈夫かな。

昨日の俺みたいに痛がってるのかな。

もし入院したならお見舞い行かなきゃな。


ああ・・・・通時。



『ダアアアン!!!』


いきなり教室のドアが勢いよく開けられる。

何事かと教室にいる者全員が、そこ目を向けた。


「すまん!!朝の爆音魔法めざましかけ忘れた!!!」


ドアの前に堂々と立ちっている、たわけ者は小太りで眼鏡をかけている。


ん?・・・通時?


クラスメイトが彼を白い眼で見る。

それに加え、ここは南極か?と思うほどの冷たい声で教師は言った。


「後で職員室来なさい」


(もっと罰すべきです。あの人の生徒としてあるまじき行為は腹立たしい)


ほら、出会も怒ってるぞー通時。


ああ、哀れな通時。・・・・俺の心配を返して。




あれこれ全授業を終了し、時は4時。

窓から差し込む薄っすら茜色の夕日はなんとも心地よい。

教室に残る生徒はまばらである。

俺はタブレットををカバンにしまい、委員会の活動場所の図書室に向かう。

目的地はこの階より上にあるのでエレベーターを使う。


「おーい!たかのぶ!」


エレベーターへ向かう途中、後ろから名前を呼ばれたので振り返ると巨体が廊下を駆けて来る。


「よっ、通時」


息を切らした通時が俺の隣に追いつた。


「待っててくれていると思ったのに、ゼエゼエ・・・ゲフォン!ゲエエエエ!!!」


うるさい奴だな!!周りの視線が痛いわ!


(アタックシステムを発動しますか)


「なんだそれ」


(発動すると2秒で相手の首が吹っ飛ぶシステムです)


うーん、いいかも。


発動しようかどうか考えながら、エレベーターに乗り込む。


「なんか顔が怖いぞ、たかのぶ。」


いかんいかん顔に出てたか。

俺はいつも通りのイケメン顔に戻す。


「そんなことより、うわさを聞いたか?」


珍しく真剣な顔で通時が問う。


「うわさ?聞いてないけど、それがどうかしたのか?」


「今日、また美月先輩にあのチンピラ先輩が告るらしいぞ」


「え、ええ!?」


俺の声がエレベーターの中に響く。

周りの人が何事かと様子を伺ってくる。

・・・失礼しました。


「ホントかそれ?」


「ああ。間違えない」


「美月先輩と図書委員で今日図書室来るから・・・俺達も巻き込まれるかもな」


「うむ。一応頭に入れとかないとな」


俺はゆっくり頷いた。


エレベーターの扉が図書室の階で開く。

ここ廊下の角を曲がると目的地だ。





「なんだ?・・・なにか聞こえないか?」


通時がそういうので耳を澄ましてみる。

確かに怒声みたいな声が聞こえるな。


「まさか!?」


俺達は慌てて角を曲がった。

すると、案の定悪い予感が的中していた。

何やら目つきの悪い集団が、高3の女子生徒に詰め寄っていたのだ。

彼女は震えながらもなんとか目を逸らさずに立っている。


「おい美月!俺の女になれって。いいことがたくさんあるぞ!きっと楽しいぜぇ。とっても気持ちいこともたくさんしようなぁ。だろお前ら?」


彼が確認をすると、後ろの体格のよい手下も賛同の声をあげる。

The悪役みたいなことを言っているな。

ていうかもう告白じゃねえだろ。

勧誘だ勧誘。


「私はそういうことは、まだ考えてなくて・・・前も言ったけど今年は受験に集中したいから・・・」


佐々木康太(ささきこうた)、高3。この男は学校随一の問題児である。

なにか気に食わないことがあれば手下の生徒たちをを駆使して排除させる。

この学校の中で1番避けたい人物である。

ワックスでバリバリ頭を固め、制服も気崩してイケてる感を醸し出している。

とにかく主張がすごい人だ。



一方、東山美月(とうやまみつき)同じく高3、は学校随一の美少女。

とても面倒みが良く人望も厚い。

茶髪ときれいに整った体のパーツ一つ一つが相まってとても美しい。

それに加え表情が大人っぽくも、時には幼く見えてなおさら愛おしい。

男子からすればもはや天使。


そんな天使様を救おうと、部屋の中からあふれんばかりに顔を出している図書委員が思っているのは当然だが、やはり学校で一番怖い存在が相手となると指をくわえて眺めることしかできない。


あ、美月先輩が今にも泣きそうだ。

それに気づいた男子図書委員が勇気を出して加勢しようとするのだが、康太に睨まれるとまた静かになってしまう。


「勇気出せよ。誰か助けろ天子様を」


隣で通時が小声でそう言うが、やはり怖いのは彼らと同じらしく動こうとしない。


「や、やめて・・・」


美月先輩は弱々しい声を上げる。


「いいじゃねえか。ちょっとだけだ」


康太先輩はそう言うと彼女の体を触り始める。

細い腕で必死に抵抗するが男の腕力に勝てるはずもなく接触を許してしまう。


彼女が涙目で周りを見渡して助けを求める視線をおくるが、誰も動こうとしない。

これは人間の本能でもある。

圧倒的強者を目の前にして、少しでも動くと目の前にあるのは『死』のみだ。

だから他人よりも自分の身の保全が優先される。

俺もその一人で、廊下の角から顔だけ出して動けずにいる。


「や、やめてください。お願い・・・します」


今にも消えてしまいそうな震えた声で頼む。

康太先輩は満面の笑みを浮かべて喜んでいる。


「みんなの前っていうのも悪くねえな」


そう言って胸に手を伸ばす。

もう彼女は逃げられないかと思われたその時。


「あ・・・孝・・信くん」


目が合ってしまった。

その声にここにいる全員の視線が、ひょっこりはんスタイルの俺に集まる。

「なに突っ立ってんだ、さっさと加勢して犠牲になれ」と言わんばかりの視線だ。


「た、孝信くん・・助けて・・」


あーもう。

助けてなんて言われたら行くしかないじゃん。

通時には頼らないあたりとか俺に少なからず期待してるんだよなぁ。

俺だって何も出来ないのに。

どうせなら最初から関わらないほうが良かった。


俺は今、学校一の美少女に助けを求められていて、学校一の強者に挑もうとしている。

俺は深く息を吸って覚悟を決める。

そして、彼らのところに向かった。


「あのー、康太先輩。美月先輩は貴方と付き合う気はないみたいですよ。ていうか、あなたに限らず、どこの誰が頼んでもその気はないみたいですど・・・」


こんなことを言っても引き下がらないだろうな。


「あ?誰だお前?これはなぁ、俺と美月の中の話なんだよ。部外者は口を出すな!!」


ああ、全くその通りだ。

これはあなたたちの話。

俺を頼るなんてどうかしている。

だがあんな震えた声で助けを求められたら断れないだろ。

正直自分には心底うんざりしている。

俺は怯える心を押さえつけて言う。


「いいですか。落ち着いて聞いてください」


俺は一泊ほど間を置いて、この状況に置いての感想ををぶち込む。


「気に食わないことがあればすぐに暴力をふるう奴を誰が好きになると思います?逆にそんなんでよく自信満々に告白できましたね。マジで尊敬ですよ。しかも女の体を躊躇なく触るなんて男の鏡ですよね、かっこいいわぁ。でも傍から見たら正直キモかったですよ。男って欲望に支配されると、ああなるんだなって、参考になりました。まさに猿です。まあ貴方みたいな人をこの世にもしかしたら1人は好きになる人がいるかもしれません。・・・え?誰かって?それは貴方を甘やかしてそんなんに育てた母ちゃんonlyだよ!バーカー!どうだ!?分かったなら家に帰ってママのオッパイでも吸って色男ごっこしてろ!バーカー。バーカー」


はい・・・

ご愁傷さまです。高宮孝信。


「・・・」


シーン。

この場所が息をすることもはばかれるほどに凍り付く。

パソコン室の中からは「ついに言ったぞ!」という声が時折聞こえた。


「チッ」


康太先輩が発した舌打ちの音が響く。

ビクッとして彼を恐る恐る見ると、彼は鬼の形相で俺を睨んでいた。

顔が真っ赤になり、体中から邪悪なオーラが出ていることを肌で感じる。

言われた腹立たしさからか、唇を強く噛みすぎて血が出てきている。

頭には血管が浮いていて怒っているということがよく伝わる。


どうだ。

これで少しはかっこよく死ねるかな。


「お前は今、俺に対して言っちゃいけないことを言ってしまったんじゃねーか?おい?」


只今めちゃくちゃ睨まれております。

怖いです。めっちゃ怖いです。

でも何とか目を逸らさないように我慢する。


「いい度胸だな!おい!!!」


ついに胸ぐらをつかまれた。

身長差はそこまでないが、少し背伸びしないと立ってられない。

あー、俺の人生ってなんにも無かったな。


「なんか言い返せよ。ビビってんのか?ああ、ちびったのか?怖いでちゅか、可愛いでちゅねー。オラア!」


俺は教室の壁に打ち付けられる。

痛え。

こいつの手下達もげらげら笑いだす。

また俺の胸ぐらを強く掴み直す。

首が絞められて息ができない。


「ごめんなさいは?ねえ、康太様に盾突いてごめんなさいは?土下座しろオラぁ!!」


今度は腹を思いっきり蹴られる。

そして何度も壁に頭を打ち付けられる。

この建物は丈夫にできていて壁は特に固く造られている。

だからかなり痛い。


「オラァ!オラァオラァ!!良くも言ったな、あんなこと!クソ!クソ!クソ!クソ!!」


何度も壁に頭が当たって出血したのだろう。

視界が赤色に染まる。

もう痛みを通り越して冷たさと痺れを感じる。


「ちょっと待ってろよ」


そう言って康太は俺を放り投げて図書室に入る。

そしてしばらく経つと、パイプ椅子を持ってきた。


「お前にはこれがお似合いだよ!」


持ってきた椅子で何度も頭を叩かれる。

『バシ!バシ!バシ!』

意識が朦朧としてきた。

俺は倒れこもうとするが、手下達がそれをさせまいと体の体制を整える。


「どうだ?俺に逆らうとこうなるんだよ!ざまぁみろ!このクソ野郎が」


そう言って彼は椅子を投げ捨てて俺に顔を近づける。


「土下座しろよ。おい。土下座しろよ!」


「・・・」


(感情パラメーターが一定度数を超えたため、正当防衛システムを作動します)


「ああ、頼む・・・」


もし昨夜のようになるなら、こいつに1発かましてやりたい。


「なに?なんか言ったか?はやく!は、や、く、懺悔しろ!!」


俺の首を絞めつつ地面に押し付け、土下座を強要させようとする。


「孝信くん!!」


美月先輩は止めようとするが俺はそれを手で制す。


「今更、正義の味方ごっこですか!?うひゃーマジ受ける!!あはははは!!!」


「・・・」


「ええ!?何で黙るの!?恥ずかしいのですか?じゃあすんなよ!あひゃひゃひゃ!!うけるわー!」


一層首を強く締められたその時。


『バァギィィイイイイ!!!!!』


「え・・・なにやってんのおおおお!????ああああああああああああああ!!!」


首を掴んだ、康太の手の向きが180度反転していた。

手首の関節を捻じ曲げたのである。

康太の手は次第にどす黒くなって、血がにじみ出る。

彼は泣き叫びながら倒れ込む。


「いってええええええええ!なにしやがんだぁぁあああ!!お、お、お前ええらあああ、こっこいつをころせええええええ!!」


大きな声で喚いて手下に殺害を命じる。

すると5人くらいの体格の良い男たちが襲い掛かってくる。


(新しい機能を試してみますか?)


「なんだそれ」


(百聞は一見に如かずです)


まずは筋肉ムキムキ男が、俺の顔面を目掛けて拳を突き出してくる。


SLOWスロウと口にしてください)


「スロウ」


俺は意味も分からず唱えた。


「・・・え?」


なんだよ?これ


(これがこの攻撃システム『SLOW』の効果です。動体視力が異常に上がり、対象物がゆっくり動いているように見えます)


確かに拳のつき出す速度が格段に遅くなった。

子供の時に遊んでいた、ゆっくりな殴り合いごっこに似ている。

なるほど。

これなら男の拳が俺に当たるまで3秒はかかりそうだ。

俺はこの攻撃を避けて、男を殴ろうとする。

相手の頭を目掛けて拳を突き出した。


「・・・あれ?」


おかしい。

自分のパンチも超遅いのですが。


「どういうことだ?」


(あなたは動体視力が上がっただけです。この遅く見える世界でパンチが打てるほど腕力が上がったわけではありません)


「これって、ゆっくりになるだけで実戦で役に立たないと思うのですが?」


(人は本来、賭け引きを間違えて、無駄な動きをするから攻撃を避けきれないのです。時間を遅くすることでその分、攻撃の軌道を正確に判断して無駄な動きをせずに避けることができるのです)


「そ、そうか。でもどうやって攻撃すればいいんだよ?」


(『作動して避けて解除して攻撃』の繰り返しですね)


嘘だろ。

超面倒くさいやつじゃん。

でも、これしか方法はない。

やるか!


「解除」


相手の拳を避けた状態で、元の速度の世界に戻る。

かわした後の攻撃となれば簡単だ。

ムキムキ男の顔面にパンチをぶち込む。


「グヘッ!?」


変な声をあげて倒れる。

その直後に後ろから、リーゼント男が殴りかかってきた。


「スロウ」


「解除」


「グホォ!?」


リーゼント男は倒れる。

はい。もう、この繰り返しです。


「スロウ」


「解除」


「ブフォ!?」


「スロウ」


「解除」


「ウヒョ!?」


「スロウ」


「解除」


「ウグゥ!?」


そんな感じで手下はみんな倒してしまった。

後ろからは歓声が聞こえる。


「はははっ、よくぞやった。わが忠実なしもべ!!」


通時が胸を張って言う。

俺はお前のしもべになった覚えは無いのだが・・・。

まあ、これで一息つくことができるだろう。


「キャアアアアアア!!!」


落ち着いたと思われたその時、再び緊張が走る。

女子の悲鳴だ。

俺はその声が聞こえた真後ろに体を向ける。


「・・・マジかよ」


佐々木康太は前傾姿勢になり、その折れた反対の手の先には白く光るものが一つ。

ナイフを握っていた。

今にもナイフを構えて突進してきそうだ。


「へへ、こんなことがあろうと一応持ってたんだ。」


分からない。

なぜここまで怪我をしてなお反抗するのか。

いくら抗っても敗北は目に見えているはずなのに。


「誰がいい?ねえ?誰から死にたい?」


このサイコパス野郎が!

事態は最悪。

この状況で彼に盾つくのは言語道断。

そんな中、こちらに向かって走ってくる音がする。


「ああ?誰だ!?」


康太はイラついた声でその音の持ち主を探す。


「やめなさい!佐々木!!」


誰かが呼んだのだろう、職員達が駆けつけてきたのだ。

人数的には康太は圧倒的に不利。

取り押さえようと教員が全速力で彼のもとへ向かう。

康太までの距離は5m程度。

皆「助かった!」と喜ぶ。

中には泣きじゃくって崩れ落ちるものまでいた。

だが、俺は喜べない。


「チッ」


彼は焦りと怒りに満ちた舌打ちをする。

今は一瞬即発の緊張状態。

こんな状況だからこそ俺はある言葉を思い出す。

『背水の陣』という言葉を知っているだろうか。

この言葉の由来は、古代中国の戦いにおいて漢の韓信はちょうとの決戦にあたり、わざと川を背にした陣を敷いて退却できないようにし、自軍に決死の覚悟で戦わせて大勝利を収めたということである。


つまり追い詰められたら人は、強い。


「ああああああ!俺の道ずれにしてやる!!」


康太はもうこの世のすべてを投げ出したのだろう。

もはや人ではなく獣のように喚き散らしてナイフを振り回す。


「まずは美月だあああ!!!!」


「・・・え?」


この声を発したのは、美月本人。

初めはこの言葉の意味をここにいる全員が理解出来ていなかった。

だが、1秒経つにつれて段々嫌な予感がしてくる。


そしてはっきりとその意味を理解した時にはもう遅い。

康太は美月に向かってナイフを振り下ろしていた。


美月は、もう助からないと悟った目をしながら言った。


「孝信くん。助けてくれてありがとう」


いいやまだだ。


俺は恐怖心より先に体が動いていた。


「スロウ」


ナイフの振り下す速度が遅くなる。

俺は美月に当たる斬撃の位置を予測して無駄なくそこに滑り込む。

美月先輩を庇うように立つと、もうナイフの刃が眼球から1㎝先の距離にあった。

俺は潰れるかもしれない目を最大限に動かして、後ろにいる美月先輩を見る。


ほんとに、可愛い顔してんな。

人生で最後に崇めるであろうその顔を見ながら、息を深く吐いた。


「解除」


俺は全身に力を入れて体を強ばらせる。

目を閉じる間もなく、ナイフが俺の眼球にくい込んだ。






『ガキイイン!』






















大きな音を立ててナイフが真っ二つに折れる。


「どうなってんだ・・・こりゃ」


康太が驚きの声をあげる。

全く状況が理解できていないようで、口をぽかんと開けて佇んでいる。



からくりは簡単。



「少し黙れよ。サイコ野郎」


俺はそう言って、赤く染まった瞳を開いた。

久しぶりの投稿でした。

やっぱり書くのは難しい。

ですがこれからも書いていきたいと思いますので、ぜひ読んでください。

しーゆー

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