表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

5話 高宮孝信は幸せなのである

全力で夜道を走る。

遠くを見れば都市部のビル群がチカチカ光っている。

この角を右に曲がればもうすぐ家だ。

これなら警察に追いつかれることなく家に着きそうだ。

俺は右に勢いよく曲がる。

そして一直線の道を全力で走る抜く。


「よし!着いたぞ!」


急いで家の中に駆け込もうとする。

ところが


『ガン!!!』


誰かに勢いよく頭をぶつける。


「いってぇ」


ギンギンする頭を押さえながら顔を上げると、そこには、全身黒ずくめの集団が家の玄関の前に立っていた。


「ん?なんだこいつは?」


集団の中で、一番貫禄のある歳をとった男が口を開く。

恐らくこの人に頭をぶつけたのだろうが、彼は痛がる素振りを少しも見せない。


「例のNo1じゃないですか?さっき紫苑刑事から連絡があり、No1の名前は高宮孝信と言っていましたが・・・」


「まさか。今No1は紫苑刑事の餌食になっていると思いますよ」


警察なのか?

何でここにいるんだ?

逃げ切ったはずじゃ・・・。


先程の老人警官が俺に問う。

彼は長い白髪を後ろで一つに結んでいて、剃っていない白い顎髭は荒っぽい印象を与える。

高身長で、手には黒いグローブをつけていた。


「誰だい君?名前は?」


「高宮孝信です」


「よし捕まえろ」


『ガチャン』


離して3秒で捕まりましたよ、僕。

手錠は人生初です。

このおじさんたち、、、、コワイ


「今、孝信君の家に家族はいるのかい?」


「妹が、、、、、、1人」


「そうか。鍵は空いているかい?少しお邪魔するよ」


妹がいると聞くなり老人警官は家のドアに手を掛ける。

月光が老人の影をさらに大きくする。


「おい待てよおっさん!奏は、、、、妹は何もしてねえよ!」


「念の為だよ、念の為」


「俺たちが何したっていうんだよ?」


「・・・。紫苑から聞かなかったのかい?君は世界を滅ぼすかもしれないんだ。だから今はどんな殺人鬼より君は危険なんだよ」


ホントに何言ってんだ。このおっさんは?

世界を滅ぼす?この俺が?


「俺は何もしないし、第一に会ってから、すぐに暴力するような奴らに妹を任せられるか!」


「私たちは警察だよ。手荒なことはするつもりはない」


彼が家に入るのを止めようと抵抗するが取り押さえられて動けない。

何でこんなことに!

クソが!!!


(感情パラメーターが一定度数を超えたため、正当防衛システム作動。)


全身の感覚が不意になくなる。

俺の体はガクンと崩れ落ちて3秒間制止する。

そして先ほど同様。

体の操作権限がなくなった。

まずは両腕に力が入った。


『ガキン!!』


無機質な音を立てて手錠の鎖が砕け散る。


「なんだこいつ!うおお!?」


声を出した警官が、俺の突き出された拳に当たって吹っ飛ぶ。

5mほど飛んだだろうか。

車道に何回も回転しながら飛ばされていく。

それを見て呆然とする数人を次々に仕留める。

それぞれの吹っ飛び方は派手だが、見た感じこれくらいだと死にはしないだろう。


残り約10人。

そのうちの殴りかっかてきた1人を蹴り飛ばすと、後ろから震えた声がする。

そこにはぶるぶる震えた若い警察官が立っていた。


「うっ動くな!撃つぞ!」


とても興奮していて周りの咎める声も聞こえてないようだ。

手には真っ黒な銃を握っている。

今にも引き金を引いてしまいそうだ。


銃は・・・まずいよ。

そんな焦る気持ちも知らずに俺の体は前進する。


「え、ちょ!まっ」


止まれ!止まれ!止まれ!

一向に止まる気配がない。

そんな俺に、彼は引き金を引いた。




『バアアン!!!!』





大きな音がした。

あたりに火薬の匂いが立ち込める。


撃たれたか。

俺は死んだのか?

痛みは感じない。


・・・死んだからなのか?


状況が理解できない。

俺は頭をフル回転させて状況を把握に努める。





「嘘・・・だろ」


誰が言ったのだろうか。

それはわからない。

なぜなら皆、呆然としすぎて知ろうとすら思わなかったから。

ではなぜ呆然とているのか。


俺が撃たれたにも関わらず、喚きもせずスタスタと前に進みだしたからである。


死んだんじゃなかったのか?

撃たれたと思われるところを見たが、服に穴が開いているだけで血は見られない。

これには俺が一番驚く。


(ダメージは3。体力ゲージが3パーセント減少しました。5分ほどで回復します)


・・・。


なんか、ものすごい拍子抜けした。

『体力ゲージ』ていうのか、この俺にしか見えない浮遊物は。

名前わかんなくて困ってたわ。

おそらくゲームでよく目にするものとほぼ一緒だろう。

ダメージを受けるとHPが減る、よくあるパターンだ。


とにかく、この状態からして死んでいないみたいだな。

最近体に異変がありすぎてもう驚かなくなってしまいました。うん。


そんなことを考えているうちに、もう3人の警官を倒していた。

俺は何もしなくても、体が勝手に無双してくれている。


いーぞー。もっとやれー。

残るは6人。

俺はその6人に向かって走り出す。


いや待て。


このまま部下を倒し続けてもきりがない。

ここは大将を潰した方が。


潰す?


いやいや、まてまて。

正当防衛と言っても、これはやりすぎではなかろうか。

明日には少年院行きかもしれない。


だけどさ、よくよく考えたら、発砲してきたよね?

死ぬとこだったよ、俺。


じゃあこのぐらい、おっけい(犯罪者思考




辛うじて体の向きを変えるくらいなら制御できる。


俺は体の向きを老人警官へと向けた。


(目標を変更しました)


すると光の速さのごとく彼に突っ込んでいく。

そしてあっという間に目の前に移動するなり渾身の力を込めて拳を老人に突き出した。

この力加減だと下手をしたら骨が砕け散るレベルのパンチだろう。

だが、


「ッ!?」


彼は俺の手を平然と受け止めている。

彼のグローブがギシギシ鳴る。

周りにはパンチからなる風が舞う。

俺の体は老人に掴まれただけで浮いてしまった。


いっ痛い。なんて力だ。


逆に俺の拳の骨が砕け散りそうだ。


「・・・なんだ・・・これ」


この状況で、頭がおかしくなったか?

一瞬、この老人の手の大きさ、温かさにものすごい懐かしさを覚えた気がした。


ほんとに、どうかしたのか、俺。


そんなことを考え、痛みに耐えていると、目の前の老け顔は低い声を発した。


「今日はここまでにしようか。いきなり来たこちらも悪かったな。署に戻るぞ」


その声に、この場にいる全員の動きが止まる。

彼がそう言うと、黒ずくめの集団けいさつがノロノロと立ち上がって、近くに止めてあった車に乗り込む。

それに続いて老人警官は俺の手を離し、横を通り過ぎて車へ向かう。

もう戦う気はないみたいだ。

俺は深い安堵のため息をついた。


「諦めた訳じゃないだよな」


俺は体を彼に向けて分かりきったことを質問する。


「オフコース」


彼はユーモアのある返事をする。

たくさんの場数を踏んでいるのだろう。

銃も効かずに、仲間達を吹っ飛ばした相手を前にしても動揺の表情が1つも見られない。


いや、場数を踏んでいても、この事実には驚くはずだが・・・。


彼はポケットから煙草を取り出して吸いだした。

メンソールの匂いがあたりに漂う。


「また後日伺うことにするよ」


彼は涼しげな顔で言う。


いや、出来ればもう来ないで欲しいのですが。


「その時も殴りかかってくんのかよ」


「うーん。君が大人しければ違うかもよ。出来れば銃を使いたくないからね。・・・でも君、効かないでしょ」


そういって、彼は微笑する。

時折吐き出すたばこの煙は儚く消えてしまう。

再び車に向かって歩き出す。

彼の履く革靴が地面とすれて、固い音が夜に響く。

だがその音が不意に止まった。


「今日の発砲のについては部下が申し訳ない事をした。でも署には報告せんでくれ。な、頼むよ少年」


・・・おい、お前。

銃を人に撃っといて、それかよ。

もう、お前とか言っちゃったよ。

報告する気満々なんですけれども。


ほんとにおかしな人だ。

最後にこんなイカれた奴の名前くらい知っておきたい。


「おっさん。あんたの名前教えてくれよ」


「・・・沢村。沢村警部補だよ。よく覚えときな」


そういって沢村警部補は車に乗り込む。

そして彼が乗るなり車はすぐに発進して見えなくなってしまった。


今はもう体を自分で動かせるし、とりあえず家に入るか。

俺は家に向かって歩き出した。


「ガクッ」


不意に足に力が入らなくなる。

な、なんだ?

俺は音を立てて倒れ込む。

そして助けを呼ぶこともできずに目の前が真っ暗になった。





ピーピーピーピーピー

んー。

目覚ましを止めて、深く布団に潜り込む。

10秒位経ってから起き上がって目を開ける。


「・・・自分の部屋か。あれは・・・夢だったのか?」


寝起きで頭が回らないので、とりあえず顔を洗いダイニングへ向かう。

ミシィ!バギイイイ!

階段で半端ない音が聞こえても気にしない気にしない。


「あ、おはよー。お兄ちゃん」


テーブルに朝食を並べている奏がだるそうに言う。


「なあ、奏。昨日の夜、俺のこと部屋に運んでくれたのか?」


俺はこれが気になってしょうがない。

それに対し奏はあきれ顔で返答する。


「は?・・・お兄ちゃん、なに言ってんの?記憶喪失したんですか?」


その言い方、ちとムカッてくるなー。


「いい?高宮孝信15歳は昨日、奏にタピオカ渡して風呂も入らず部屋に籠ってしまったの!

タピオカ2つあったからこれ何って質問したらね、システムアナウンサーにはわかりかねます、とか訳分かんないこと言ってて超怖かったよ!」


マジで「ムカッ」てきたのはさておき、今システムアナウンサーって言ってたな。

昨日、俺を補佐するって言ってた奴っだけ?


(はい。昨夜No1は戦闘による疲労で倒れてしまったので、オートシステムが発動し部屋に戻りました)


「いきなりすぎてビックリしたんですけど。喋るなら一言ぐらい言ってよ」


(了解しました)


「・・・。お兄ちゃんってさ。わざとらしい独り言を15歳にもなって言うとか、中二病が再来しているの?何なの?」


「何なのと言われても・・・」


「はぁ。付き合わされるこっちの身にもなってくださいよー。やれやれ」


なんかごめんな。

あと闇夜神界ちゅうにびょう時代は永遠に封印したある大丈夫だよ。


「朝食は食パンだよ。」


「そうか」


「コーヒー飲む?唯一のオンリー・ライト?」


「・・・。あのー、飲むけどさぁ、俺の封印した名を呼ばないでくれない?すごい恥ずかしいから」


そういって席に座り朝食をいただく。

いつも通りの朝だ。

ニュースの音声と鳥のさえずりだけが聞こえる。


「昨日のは、なんだったんだろうな・・・」


今日は温かく一面真っ青な空が窓から顔を覗かせていた。





「行ってきます」


俺は家を出て合同学院へ登校する。

合同学院へは家の近くから出るバスで向かう。

3日ぶりの登校。

徒歩10分くらいでバス停に行けるのだが、その間は暇なのでいろいろな考え事をするのが日課。

今日は昨夜のことを思い出していた。


「急に捕まえられてダメかと思ったのに脱出できて・・・。昨日の俺超強かったよなー」


独り言をぶつぶつ言いながら歩く。


「システムアナウンサーだっけ。わけわかんないよなー」


(私はシステムアナウンサー。No1を補佐するためにいます)


いきなり発せられた声に、俺は驚いて飛び跳ねそうになる。


「いきなり話すのやめろよ。でもまあちょうど君のことを考えていたからいいけど」


(そうですか)


俺はずっと聞きたかったことを質問する。


「ていうか君は誰なの?」


(私はAIプログラム。そしてオフィシャルフレンズ社が開発し、私は制御されています。それにより一部情報に規制がかかっており今の質問については話すことが出来ません。)


「・・・そうか」


(なのでNo1。申し訳ございません)


「いや、いいよ別に。じゃあ質問を変えて、俺にしか君の声は聞こえてないみたいだけど、どうなってるの?」


(あなたはNo1。サイボーグです。最近の体の異変はそれによるものです。そしてNo1の体にはたくさんのものが内蔵されており、その内の脳に内蔵されているものが私です。私の声はNo1の脳に直接話しかけています)


「ふーん」


それは分かったけど。

たくさんの『もの』ってなんだよ。

ていうか『頭に内蔵』とか俺の体をレントゲン検査したらどうなってるの!?


(ほかに質問はありますか?)


「なあ、システムアナウンサー。確かに昨日は撃たれても血が出なかったり、いきなり強くなったりした。

でも、俺はこの通り叩けば痛いし、特別に強いわけでもない凡人だ。

つまり人間なんだよ。だから俺はサイボーグでもない君の人違いだ。

No1も知らないし、殺される義理もない。」


俺は思っていることをきっぱり言った。

そもそも殺されるなんて冗談じゃない。


(まあ、初めは信じないのも当然でしょう。しかし、すぐにあなたがサイボーグだってわかりますよ。No1)


「あーそうですか。だがまず、俺はNo1じゃない。高宮孝信だ。孝信って呼んでくれ」


(了解しました)


「あ、あとしばらくの付き合いになるだろうし、名前に関しては『システムアナウンサー』だと呼ぶとき長いからさ、君にも名前つけてあげるよ」


(いえ、私はシステムアナウンサーです)


「君の声からして女だよね。んー、ユキとかいいかも!」


(あの、いえ、私は)


「ヒナミもいいねー」


(孝信?ちょっと。あの)


「エディは?」


(聞こえますか?孝信?ていうか、今日のテンションおかしくないですか?)


「ジェシー?あ、苗字も決めなきゃね!」


(おーい。孝信さん?ねー?)


「ピンピン?ふっはははははは、ダメだそりゃ!!!!!」


(情緒不安定!?ねえ!聞こえますか!!)


「うーん。よし!決めた」


(は!な!し!を!き!け!えーーーーー!)


「うお!?なんだよいきなり」


(いーですか。私は名前など不必要です!孝信!)


「今日から君の名前は『五月いつき 出会であい』だ!!」


(スルーかい!もう『システムアナウンサー』と差ほど字数変わらないし!それに何でそうなるのかが不思議でたまりません!)


「五月に出会ったから」


(意外と筋は通っている!?  で、ですが私は名前など)


「いいや、これは命令だ!まだ認めたわけじゃないが、俺がサイボーグだというのなら君は自分の部下だ。いいか、今日から君の名前は『五月 出会』だ!」


(・・・命令なら・・・やむを得ません)


そんなことを話しているうちにバス停に着いた。

そのまま孝信はバスに乗って合同学院に向かい、そのまま登校していったのである。



 ところで昔友達から教わった言葉なのだが、「人は知らないほうが幸せなことがある」という言葉をご存じだろうか。

これを孝信に当てはめてみよう。


孝信は独り言にはデカすぎる声と時折一人で笑っていてことに対しての、周りからの好奇の視線には気付かなかった。

もしこのことに気付き、自分の奇抜な行動にも気付けば彼には黒歴史となって心に居座り続けるだろう。


結論

だから今、高宮孝信は幸せなのである。

A ありがとうございます。

T 次もまた読んでください! 

B バイバイ!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ