4話 覚醒サイボーグ
5月2日。午前8時。
警視庁にて。
女警官がある部屋に急ぎ足で入っていく。
その部屋の名は
『オフィシャルフレンズ社世界征服対策本部』
「吉田警視。重大な情報をつかめました」
女は、部屋の一番前に鎮座する熊のような男に言う。
「何だい?重要な情報とは。田中巡査部長」
吉田警視は目を細める。
そのせいで、一層貫禄が増した。
「はい。オフィシャルフレンズ社にいる潜入捜査官から、先ほど連絡がありました」
「ほう」
「岩本社長をつけていると次のことを言ったそうです」
途中で言葉が途切れないように大きく息を吸う。
「No1と最後に造られるサイボーグが会った時世界を蹂躙する計画は開始する、と」
「・・・。田中巡査部長はどう考える?」
「そのNo1と関係があるか不明ですか、学生の間で手に数字が出現している奇病が流行しているようです。一応、事情聴取をして経過を見守る必要があるかと。それと、各都道府県の警察たちと連携してNo1のありかを操作する必要があると思います」
「・・・そうだな」
吉田警視は目を閉じて黙りこむ。
「・・・」
私は何か喋った方がいいのだろうか。
本当に会話することすら、一苦労だ。
「・・・」
ねえ。何か喋ってくださいよ。
心配になるでしょうが。
相変わらず何を考えているかわからない人だ。
「小林警部補。只今、任務から帰りました。」
後ろから声がしたので振り向くと、がっしりとした体格の男が敬礼している。
目が合うとハッとして、私も敬礼をする。
「小林警部補。どうだった?」
「症状の出た学生達は世界各国で確認されていました。少なくとも3000件以上は確認されています」
「そうか」
吉田警視は顎に手を当てて考える仕草をする。
顔が一層険しくなり、その顔はもはや子供を狙われて、怒り狂う母熊のようだ。
小林警部補は再び口を開く。
「この、世界征服事件と重なった、この学生たちの奇病の流行。時期的に考えて、この二つの事案は関連のあるとみていいと思います。『世界征服』と、一見子供じみた目論見ではありますが、もし実行されれば世界規模の多くの犠牲者が出ることは間違えないでしょう」
「・・・。カギはNo1と最後に造られるサイボーグ、か」
また目を閉じて、黙り込んでしまう。
しばらく時間が経つと吉田警視は勢いよく立ち上がった。
そして閉じていた目をを開く。
視線が自分に集まるのを確認して口を開いた。
「捜査官総員に告ぐ。オフィシャルフレンズ社の偵察をこのまま続行。
それ以外の者は数字の出現した学生の経過観察、およびNo1を全力で探し出し拘束しろ。
オフィシャルフレンズ社が少しでもおかしな真似をしたら直ちに突入するのでそのつもりで」
「「了解!」」
部屋にいる60人くらいの捜査官が揃って返事をする。
捜査官達は、新しい指令のもと、勢いよく仕事にうつった。
小林警部補は吉田警視に問う。
「世界の経済の中心と言っても、過言ではない会大企業に、突入などと思い切ったことを言ってよかったのですか?」
「あのまま闇雲に捜査をしても何も変わらない。時には思い切った行動を侵さないとな」
吉田警視は普段は徹底的に犯人の逃げ道を潰す人だが、重要な局面になるほど博打を打つところがある。
もっと慎重に判断してほしい。
だがこれまでの賭けはすべて勝利に終わっているからタチが悪い。
「・・・そうですか」
「あ、そうだ。田中巡査部長、今日から君は小林警部補の元で任務にあったてもらうことに決めたからそのつもりで」
「え??いきなり言われても・・て・・・ちょっと!?」
そういって吉田警視は、田中巡査部長の声など耳に入れずに早々と部屋を後にした。
田中巡査部長は、いきなりの無茶ぶりに固まってしまう。
「そもそも捜査内容が違うのに・・・」
「はあ、まったく勝手な人だ。ほんと迷惑だが、あの人に何言っても聞かないから、どうしようもないさ。では改めて、今日から君の上司となる小林警部補だ。よろしく」
「・・・田中巡査部長です。こちらこそよろしくお願いします。」
「ではさっそく我々の班に来てくれないか。情報を共有したい」
田中巡査部長は小林警部補に引っ張られて、部屋の奥の集団に向かって行った。
こうして今日、警察は本格的に動き出したのであった。
夜の人通りの少ない場所で俺こと高宮孝信は紫苑という女に拘束されていた。
「殺すって・・・俺のこと殺すってなんだよ。おい!」
「いずれはの話だ。お前はこの世で1番生きていてはいけない人間だ。今はな」
はああ?
何言ってんだこいつ。
頭沸いてんのか?
「そもそも何で俺が殺されなくちゃいけねんだよ。あんたは誰だいいてててて!やめてええええ!!」
「私は刑事だ。そして私がお前を捕らえる理由は、その手の番号だ。No1」
「知らねーよそんなの!ていうか、はなせよおおお!」
「もっと噛みつくなり抵抗してくれ。・・・そうすれば罪悪感が薄れる」
紫苑は悲しげに言う。
いや、罪悪感あるんだったら離せよ。
「紫苑刑事。車の用意ができました」
部下と思われる男たちがどこからか現れて言う。
どうする?どうすればいい?
殺されるなんて冗談じゃねえ!
どうすれば!
(感情パラメーターが一定度数を超えたため、正当防衛システムを作動します。)
なんだ?
「システムコード11432657854。正当防衛システム」
「おい、いきなりどうした?」
「作動」
無意識に体が動く。
「きゃっ!」
紫苑が孝信の背中から5メートルほど吹っ飛んだ。
部下たちが何事かと孝信の方を見る。
そして、それを見た者全員が息をのんだ。
「なんだ・・・これ?」
なんだ?・・・体が、、、おかしい。
・・・全く動かない。
なのに体は依然として立っている。
孝信を見た者全員が戦慄する。
なぜなら、彼は口から蒸気を放出させ、瞳がルビーのように赤く光っていたからだ。
とても人間とは言い難い姿をしている。
『グウウオオオオオン』と不気味で低い音が音があたりに響く。
「紫苑刑事!大丈夫ですか!」
部下が飛ばされた紫苑刑事に駆け寄る。
「ああ、かすり傷程度で済んだみたいだ。・・・しかし、何だあれは?まさか・・・サイボーグ!?」
「とっとにかく!あいつを拘束しなければ。やるぞお前ら!」
そういうなり、部下たちが次々に襲い掛かる。
だが彼はピタリと動かない。
いや、孝信はこの場から立ち去りたいのだが、体が動いてくれないのだ。
「ちと歯食いしばれ!」
俺の手首を掴みひねりつつ、背中に回り込んでくる。
このままでは背後を突かれて、攻撃を許してしまう。
動け動け!
『シュウウウ』
口から大量の蒸気を出す。
それと同時に俺の姿は消えた。
いや、早すぎて見えなかったのだ。
そんな孝信の位置は襲い掛かってきた警官の真上。
それに警官が気付いて見上げた頃には、落下にかかる重力とともに背中を、勢い良く殴られ気絶してしまった。
俺はハッとして前を見ると気絶した男が一人。
これは・・・俺がやったのか?
こんなにあっさり・・・?
「ガキのくせに!」
先程のことにに驚く暇もなく、もう1人の部下が警棒で襲い掛ってくる。
「高校生に警棒振り回していいのかよ!うおっ!あぶねーな!」
ギリギリ攻撃をよける。
とにかく!
早くこの状況を打開する方法を考えなければ。
辛うじて避けているがいずれは当たってしまう。
残る敵は紫苑も合わせて3人。
うーん。詰んだなこりゃ。
こいつを倒しても残り3人をなんとかできるとは思えない。
だが心配無用。
奥の手が1つだけある。
超有効な手段がな!
それは、、、、、
、、、、、、、、、、、、、逃げる。
スタスタスタスタ!
俺は攻撃を躱したその隙に全力でこの場を離れた。
「ん?あいつ逃げたのか?反撃してくると思ったのだが・・・。仕方がない!追うぞ!」
よし!脱出成功!
結構あいつらから距離を稼げたと思うが、ちょっとだけ後ろを見て確認する。
・・・・ちょっと待て。
あいつら走るの速くね?
振り返ると真後ろにいくつものおじさんフェイスがあった。
うおおおおおお!
あと2mも距離がないぞ!
ヤバイ捕まる!
今日は最悪だ!
「殺される」とか、「警察に捕まったらガチで牢屋行き鬼ごっこ」とか、「タピオカ」とか!!!
走れタカス!
とにかく、誰かに助けてもらわなくちゃ。
前に交番が見えた。
そうだ、お巡りさんに助けてもらおう!
俺は慌てて交番に駆け込む。
「助けてお巡りさん!!!怖いおじさんたちが追いかけてくるんです!・・・てっ、お巡りさんも警察やないかい!!!!」
「どうしたの?君?」
お巡りさんは優しく問いかけてくれる。
警察に追われてるなんて言えない。死んでも言えない。
「その男を捕まえろおお!!」
今来た道から声が聞こえる。
ちっ、もう追いつきやがったか!
さっき差つけておいたのに。
「えーと、お巡り・・・」
ギクッ。
どうしたのお巡りさん?
顔が怖いよ?
なんかされそうだから、もう行くね!
俺はあわてて交番を飛び出す。
「そうはさせねえ!」
「ッ!?」
まじか。交番が包囲されてる。
「くらえ!クソガキ!」
数人が警棒で殴りかっかてくる。
おいおい、警察って集団で子供に襲い掛かるような人達だっけ!?
どちらにせよ状況は最悪。
このままでは複数の警棒に当たる。
(警棒の軌道を予測。、、、、完了。左に避けてしゃがんでください)
何だこの声!?
誰が話しているんだ?
(はやく左に避けて、しゃがんでください)
はいはいわかりました!
「左に避けて、しゃがむ」
「っ!?ちっ、よけやがった!」
・・・・。
スゲぇ!当たってねーじゃん。
もしかしてこの声のおかげか?
でも次の攻撃は流石に避けられないんじゃ・・・。
(攻撃を予測します。、、、、完了。右に体を逸らし、後ろに下がってください。その次にしゃがんで、その体勢のまま前進してください)
覚えられるかそんなの!
クソ!
これは避けられない。
腹くくるか。
俺は全身に力を入れて攻撃を受ける覚悟を決める。
(オート回避作動)
ッ!?
なんだ!?
勝手に体が動くんですけど。
先程、謎の声が言った通りに体が動く。
(向かって左の警官が体勢を崩します。その隙に脱出してください)
ほんとかよ。
って、本当に左の人がコケたぞ。
俺は謎の声の言う通り、コケた隙間から包囲網を抜ける。
そして家の方へ全速力で走った。
家まではもう50mも無い。
よし!行ける!
俺は絶対に振り向かないで最後の力を絞り出す。
「ていうか、さっきから誰が喋っているんだ?色々と助けてもらったけど」
俺は襲い掛かる疲労を紛らわせるために独り言を言う。
(私はNo1のシステムアナウンサーです)
喋った!?
(今日、No1はサイボーグの覚醒準備が整いました。それにより正式にシステムアナウンサーとして貴方を補佐します)
聞きたいことは山ほどあるが今はそんな時間はない。
だから俺は1つだけ気になっていたことを問う。
「さっき勝手に避けたのもシステムアナウンサーのおかげか?」
(はいその通りです)
「なら最初から勝手にやってくれれば良かったじゃねーか!」
(私はあくまで補佐をするために存在しています。ですから私が全て動かす訳には行きません)
そっそうなのか。
そうこうしているうちに、この角を曲がるともう家は目前だ。
走れ走れ走れ!
「おいおい!簡単に行かせると思うかよ!」
角を曲がると、さっき後ろにいたはずの部下がいた。
まずい!
「大人をなめんじゃねえ!」
そう言って俺を捕らえようとしてくる。
(適切に対処します)
体の感覚がなくなる。
手も足も動いているのに、俺の意思で動かしていない。
もう一人の自分がいるかのようだ。
相手の突進をスッと横に避ける。
そして相手の伸ばされた腕の外側に回り込んだ。
腕をつかみ後ろに引きつつ足をかけて転ばせる。
気づけば、俺は数分前の紫苑のように背中に乗って部下を拘束していた。
「すっすげー。」
やるじゃん俺!
後ろからたくさんの声が聞こえる。
聞こえるぞ!!
俺の見事な体術への賞賛の声が!!
後ろをドヤ顔で見るとたくさんの警官が怖い顔して走ってきている。
あ、今逃走中だった。
「やばいやばい俺ー!死にたくないよおおお!」
そう言って再び家に向かって走る俺だった。