3話 異変
波の音が聞こえる、月が綺麗な夜にて。
淡い月光が夜の海をを照らしている。
ここは東京のとある港の一角。
同じ建物が立ち並ぶ倉庫街の一倉庫にて2つの人影があった。
「岩本社長。ご報告があります」
青髪の女の声が部屋に響く。
その声は、凛としているが底知れぬ冷たさが伝わった。
「No2。いや、寺田秘書。その堅苦しい名前で呼ばないでくれと言ったじゃないか。私のことは厚でいいよ」
倉庫の壁によりかかった、オールバックの男は言う。
「そんなことは断じてできません。あなたはオフィシャルフレンズ社の社長なのですから」
「いいじゃないか、寺田秘書。
君は戦闘機械の中で初めて作られた『女性』じゃないか。私は君に心を惹かれたんだよ。どうだい、私と食事でもどうかね?」
「光栄なお誘いですが、断じてあり得ません」
即座に返答する寺田秘書。それに対し、やれやれと言って岩本は歩き出す。
そして、大きな月が顔を出す窓の前に立つと、煙草を吸い始めた。
月を見ながら、きれいだ、と呟いた。
「で、報告って?」
茶番は終わりだと言うように、声音が変わった。
煙を吐きつつ彼は問う。
「はい。No1の居場所が大体ですが特定できました」
「そうか」
いきなり彼は振り向いて、少しながら笑みを浮かべる。
「よし、No1を確実にここに連れてこい。失敗はしないように」
「わかりました。・・・あの、社長。質問してもいいですか」
「なんだい?」
寺田秘書が質問するのは珍しいな、と岩本は思った。
「我々は、社長をお守りするためだけに作られたサイボーグです。No1という1人のメンバーを増やすのに、なぜそこまでするのですか?」
岩本はすぐには答えない。
静かになったからか、波の音がよく聞こえる。
少しばかり考えてから口を開いた。
「・・・彼には才能がある、からだ」
寺田秘書には、この言葉がひどく気になった。
才能?なんだか、腑に落ちない。
「・・・。わかりました。では失礼します」
倉庫の出口に向かって歩く。
退室しようとしてドアに手をかけたが、不意に手が止まった。
寺田秘書は何かを思い出したかのように言う。
「ああ、そうです社長。明日はCARRY GENEの発売日です。
説明会が朝7時に行われるので遅れないようにお願いします」
「わかった」
岩本社長の返事を聞いて寺田秘書は倉庫を出た。
ドアが閉まる時、岩本が「また嘘をついてしまった。」と言った気がしたのだが、彼女にはその意味を理解できなかった。
「我々の力だけでは、あなたを守れないということなのか?」
自分の居場所に戻る途中、彼女はそう口にした。
ピーピーピーピーピー
目覚まし時計が鳴っている。
「もう朝か」
ささっと起きて、カレンダーの日付けにバッテンを書く。
今日は5月1日。
鳥の鳴き声が聞こえるすがすがしい朝だった。
部屋を出てダイニングへ向かう。
「おはよう!お兄ちゃん!」
「おはよー」
俺の妹の奏はいつも通り、キッチンで朝食の支度をしている。
「今日の朝食はなんと!!!・・・食パンだよ」
奏は家事を完璧にこなす自慢の妹だ。
父が単身赴任で、母は看護師の夜勤でいろいろと忙しい。
今頃、父はパソコンと睨めっこ、母はぐっすり夢の中。
だから、家のことは奏がほとんどやっている。
「リリリリリリリ、7時7時。
おはようございます!ニュースの時間です」
聞きなれたセリフを耳にしてテレビに目を向ける。
俺は毎朝このニュース番組を見る。
その理由は、お天気お姉さん。
今俺が見ているチャンネルに出てくるお天気お姉さんはマジ可愛いのです。
結論
僕の目覚ましはあの子しかいねえ!
「今日は待ちに待ったCARRY GENEの発売日です!CARRY GENEが販売されるお店には長蛇の列ができています!」
テレビを見ながら運ばれてきた食パンを口にする。
「すごい並んでるねー。また新しい技術が開発されてて、もう何が何だかわかんないよー」
そう言って、席に着いた奏も朝食を食べ始める。
「オフィシャルフレンズ社、CARRY GENEの発売に伴った記者会見と中継がつながっています。高崎さーん!」
ちぇっ、男かよ。
「はーい。みなさんベストタイミングです!ちょうど始まるところでしたよ。
あっ岩本社長が出て来ました」
「えっ、この社長イケメンじゃなーい?」
あ? 誰だよ、妹にイケメンていわせたのは?妹に寄り付くクソ野郎どもは、成敗してやる!
「おはようございます。岩本です。
単刀直入に言います。CARRY GENE。それは人の元となる遺伝子を解体し、あらかじめ作った仮想世界に転送、そして再構築する装置です。主に、ゲームなどに、、、、」
大層えらいことを言っているその社長に目を向ける。どんなクソ野郎だ!!??
顔を見せい!!
・・・。
「え?こいつ・・・どこかで・・・。」
「お兄ちゃん、まさかの知り合い!?」
もしかして・・・あの時の!?
ベギイイイイイイイイイン!!!!!!!グイイイイイイイイン!!!!!
「うぐっ!?あああああ!!!いってえええ!!」
急に聞こえる爆音。
ガムテープを剥がすときに聞こえる音に似ていて、その時よりもはるかにうるさい。
鼓膜が破れそうだ。
そして、ハンマーで殴られたような痛みが頭を襲う。
強い不快感に襲われてそのまま床に倒れこむ。
「お兄ちゃん?お兄ちゃん!?大丈夫!?」
(製造番号1。マスターを確認。計画の準備に入る)
何だ?女の・・・声?
そのまま目の前が真っ暗になった。
目を開けると見慣れない天井が見えた。
「ここは・・・」
・・・病院か。
体を少し動かしてみるが異常は見受けられない。
普通に動いても大丈夫そうだ。
俺はゆっくりと起き上がる。
イテっ。
チクリとした痛みを感じた。
痛いのは・・・左手?
不思議に思い左手を広げてみる。
なんだこれ?
中指に『1』という数字がついていた。
めっちゃヒリヒリするんだけど。
俺はこのことについて聞きたくて、誰かいないか周りをを見渡す。
ん?
俺の太ももになんかいる。
そこをまじまじ見ると奏が頭を突っ伏してスヤスヤと眠っていた。
ゆすっても起きない。
まさか・・・死んだ?
そんなはずもなく、妹は「う~」と目をこすりながら起き上がった。
「あ、兄ちゃんおはよー。当然、もう大丈夫だよねー。検査しても異常はなかったみたいだし。奏、お兄ちゃんのために学校休んだんだからね。だからさっさと、感謝の言葉を述べよ」
あのー、うちの妹、厳しすぎません?まあ、可愛いからOKです!
「それはそうと、これ何?」
そういって左手の数字を見せる。
「えーなにこれー。搬送された時はこんなの無かったはずだよ。
寝てる間に入れ墨掘られたんじゃない?」
まさか、そんなことはないと思うが。
「まあそれも気になるけど、まずはお兄ちゃんが起きたことだし、お母さんに伝えてくるね」
そういって俺の返事など聞かずに出て行ってしまう。
まったく自己中な妹だ。
俺はそう思うなり微笑んだ。
検査をして異常はないと医者に言われその日のうちに退院できた。
退院して家に帰ってからはすぐに寝た。
そして、すぐに次の朝を迎える。
ピーピーピーピーピー
目覚まし時計が鳴っている。
「もう朝か」
俺は体をウネウネしてから目を開けて・・・。
ん?
目が開かないんですけど。しかも、痛いし。
洗顔料が目に入ったような痛みを感じのたうち回る。
「痛い。いたい、いたい、いたたたたああああああ!!!!!」
そのまま痛すぎて意識が飛んだ。
ご愁傷様です。
目を開けると見るのは2回目の天井が見えた。
「ここは・・・」
もちろん病院だよな。
目はもう痛くない。
体を少し動かしたり、目をキョロキョロしたりしたが異常はなさそうだ。
よーし起きるか。
え、何コレ?
なんか、メーターみたいなのが浮いている。
ほんとになんだこれ?
もう珍百景に応募してもいいレベル。
掴もうとして手を伸ばすが、触れた感覚がない。
まるでVRのような光景である。見えているのに掴めない。
「あ、お兄ちゃんおはよー。当然、もう大丈夫だよねー。検査で異常はなかったって」
病室の入口から妹が入ってきた。
「なあ、奏?」
「なあに?お兄ちゃん」
可愛らしい声で返してくる。あーマジ天使。
「これ見えるか?」
メーターの見えるところに指をさす。
「なんにも。あ、お兄ちゃん、最近疲れてるでしょ。幻覚見えるとかやばいよ」
「疲れてなんかいねーよ!」
「あー、そういうのいいから。とにかくお兄ちゃんはこのまま寝てて。お母さんにはまだ言わないでおくから。ということでおやすみー」
「だから疲れてないって・・・」
そういって俺の言葉も聞かずに出て行ってしまう。
俺はため息をつくなり、目の前の謎の浮遊物に目を向ける。
奏の反応からすると、これは俺にしか見えていないのだろうな。
マジでナニコレ。珍百景に応募してもいいレベル。
よく見てみると、ゲームに出てくる緑の体力ゲージに似ている。
うーん。
考えてもきりがなさそうだ。
まあ、今は奏の言う通り疲れているのかもしれない。
今日明日ゆっくりして、あさってから頑張るか。
えっ?明日も休む必要があるのかって?
あるさ。
ずる休みしたときの優越感と罪悪感に勝る治療薬はないからね!
ということで今日はおやすみー。
ピーピーピーピーピー
「もう朝か」
目を開けて体を確認するが異常はないみたいだ。
カレンダーに昨日つけれなかった分も含めてバッテンをつける。
今日は5月3日。
何で、昨日つけれなかったんだっけ・・・?
昨日は確か病院にいて、夜家に戻ってきて、そのまま寝ちゃったからか。
あっ、今日ずる休みの日だったwwうふっ。
そんなことを考えてニヤニヤしながら1階のダイニングに行くために階段を下りる。
俺は1段目に足を置く
「ミシィ!!」
足を置いた板が大きな音を出してきしんだ。
・・・この家もそろそろ寿命か。
気にせず階段を下りる。
「ミシィ!ミシィ!ミシィ!ミシィ!ボギィィイイイイイ!!!ミシィ!」
今なっちゃいけない音しなかった!?
俺は振り返って階段に異常はないか眺めるが、あいにくこれといったものは見受けられない。
「何だったんだ?」
俺は疑問に思い朝食が用意されているダイニングルームの扉を通り過ぎて洗面所に向かった。
洗面所には、小さな体重計がある。
最近、体重を量ってなかったしこの機会に使ってみることにした。
俺は体重計に乗ってみた。
「ピキピキ・・・パキパキパキ・・バキ!バアアアアン!!!!」
俺が上に乗るなり3秒ほどで粉砕してしまった。
ほえー。体重計が砕け散るとこ初めて見た。
一瞬、体重見えたけど167キロって書いてたぞ。
俺は衝撃的な光景を目の前にして立ち尽くしてしまう。
最近起きている体の異変。
いったい、何なんだよ。これ。
というわけで妹に怒られました。
でも母に怒られないだけまだマシです。
さっきの爆音を聞いて母が起きてこないということは、よっぽどお疲れの様子。働きたくないでござる。
一通り怒られて許しを得たので、なんとか朝食にありついた。
「奏。その・・さっきはごめん」
「もうそのことはいいよ。・・・それよりお兄ちゃん」
奏が深刻そうに言った。
「これ見て」
奏はリモコンを取りテレビをつける。
「続いてのニュースです。今月の初めから次々と小学生から大学生の間で身体の異常が報告されています。主に幻覚や頭痛、手に数字のような痣ができる、体重が急激に増加する等の症状が確認されています」
え?
俺のことじゃね?これ。
まさかの症状のコンプリート!?
「お兄ちゃんのことだと思ったの。今はニュースの話題はこれで持ち切りだよ」
「確かにそうだな。頭痛といい幻覚といい」
昨日から見える緑色の何か。
昨日と全く変わらずそこに浮いている。
「奏もね、実は似たようなことが起きてるの。
昨日、夜ご飯を作る時にドジっちゃて、手に包丁落としちゃったんだけど・・・」
「だっ大丈夫なのか!?早く教えろよ!病院に行かないと!」
かなり深刻なことを妹は言っているのに、落ち着いた表情を崩さない。
「私は無傷だよ。逆にそれどころか・・・」
そういってキッチンに置いてあった布を持ってくる。
その布の中には、先っぽの折れた包丁があった。
「それ、私に当たったらこんなになっちゃた」
・・・おいおいまじかよ。アベンジャーズに入れるんじゃね?
試しに、妹の白いほっぺたをつねる。
「イテっ。何すんのよ、お兄ちゃん!?」
「肌が鉄になったわけでもなさそうだな」
偶然折れたとも考えにくいし。
うーん。何が起きているんだ?
「まあ体調悪いわけでもないし、今日は学校行ってくるね。どうせズル休みなんだろうけど、安静にしているんだよ!おにーちゃん!」
そういって玄関へ小走りで向かう。
「じゃ、行ってきまーす」
元気に玄関を飛び出す姿を見送る。
俺は奏の姿が見えなくなると、リビングルームに駆け込む。
そしてすぐにps4を起動する俺であった。
ずる休みライフを満喫した俺は強い嫌悪感を覚えていた。
「明日学校ダリー。」
俺は呟く。
「はあ?文句言ってないで行けよ、学校。」
キッチンで夕食の片付けをしている奏が呆れたように言う。
カナデ、、、怖い。
学校かぁ。
なんかスイーツでも食って明日への嫌な気持ちを紛らわしたいな。
よし、コンビニで買ってくるか。
「俺コンビニ行くけど、なんかほしいのある?」
ついでになんか買ってきてやるか。
「んー。タピオカミルクティー買ってきて」
あー今はやりのタピオカねー。あの黒いぶつぶつはどうしても好きになれないんだよなぁ。
そうタピオカに対しての愚痴をつぶやきながら俺はコンビニへ向かったのであった。
欲しいものを買えたので、コンビニを出て家に向かう
人口が多いとはいえ、周りには人影は無く車の走行音が時々聞こえるくらいだ。
家はそう遠くない。
タピオカを俺の分も買ってきたので、家で奏と一緒に飲むか。
乗り越えろ!!ぶつぶつの壁!!
そんなことを考えながら夜道を歩く。
空を見上げると満天の星空が浮かんでいる。
周りに見えるのは同じような家々と果てしなく続く電柱。
街灯に照らされてあたりの様子が少しながら見える。
景色を眺めながら歩いていると、道に迷たのか周りを右往左往している女性が視界に入った。
俺は女性に近付く。
「何かお困りですか?」
第一印象が大事だ。
ちょっとイケボで声をかけてみる。
「ええ、駅の場所がが分からなくて」
近づいてみると今まで暗くて見えなかった女性の姿がはっきり見えた。
うおー。まさに容姿端麗ってやつかな。
顔が大人びていて、1つ1つのパーツが整っている。
そして、シワ1つつけずにスーツを着こなす姿は、どんな仕事も完璧に仕上げてしまいそうな印象を受ける。
柑橘系の香りがするが香水だろうか。
いかんいかん、この女性の姿に見とれていた。
駅の場所だっけか。
「えーと、駅ならこの通りの突き当りを右に曲がると見えてきますよ」
「そうですか。ありがとうございます!ぜひ、あなたのお名前を伺ってもよろしいですか!?」
そういって女は俺の手を握って明るく微笑む。
駅の場所教えただけでそんなに喜ばれるとは・・・。
まだ心の準備がー。ヤバイ、手汗大丈夫かな?
「高宮孝信です。あなたは?」
「・・・」
ん?
女は手を見て固まっている。
そんな手汗ヤバイ?
ドキドキしながら名前も知らない女性を見つめていると、突然視界から姿が消える。
「ッ!?」
いきなり自分の体が倒れる。
強く地面に打ち付けられてとても痛い。
状況をを理解できていない。
何が起こったんだ?
俺はまず起き上がろうと体を動かす。
「動くな!!!」
「どうしてですか?・・・え!?」
女性がなぜか俺の仰向けになった背中の上に載っている。
そして腕を掴まれていて動こうとすると強く締められる。
痛い痛い痛い!!
「はなせ・・・」
痛みで声もまともに出ない。
「私の名前は深田紫苑だ。
悪いが高宮くん。いや、No1。我々は君を殺さねばならない」
は?
ははは????
「殺すって・・・なんだよ!?」
どうです?前話よりはコンパクトだったしょう?
特訓したんですよ。
そんなことはさておき、読んでくれてありがとうございますうう!!
人生で1番うれしいです。(1番は複数あり)
次回もぜひ読んでください!!
では、最後にじゃんけんをしましょう!
せーの、じゃんけんポイ!
残念、グーとパーとチョキを出してしまった方、負けです。
じゃあ皆さん。
see you!!