14話 転校生・出会
「初めまして。転校生の五月出会です。よろしくお願いします」
ここは合同学院、高等部1年、高宮孝信が通う教室。
教卓の前に立つ、白い髪をした絶世の美女は言った。
教室はしんと静まり返っている。
生徒の息使いまでが、鮮明に聞こえる程に。
出会と名乗った少女が、ブルメリアの花のような困惑の表情を浮かべると、(もうこれだけでも様になる)教室は歓声に包まれた。
「うおおおおおおおおおお!!!ついに俺にも本当の恋があああああああ!!」
「かわいいいいいいいいいい!!!二次元なんかより、よっぽどいいじゃねえか!!」
「出会ちゃんだよね?とってもかわいいじゃん!どこから来たの?」
等々、数多の生徒が彼女の周りに群がる。周りを見ると俺の席を除いて席が空になっている。
分かるよ、その気持ち。
歓声を聞きつけて他のクラスの人もドアからあふれんばかりに顔を出していた。
「うほ!うほほ!!・・・はっ、いかん!俺の彼女は二次元と決めているのだ!!し、しかし出会ちゃんも捨てがたい。一夫多妻制なんて・・・日本で認められていない。で、では・・・・出会殿!!!海外に何もかも捨てて一緒に逃げましょう!!!」
人の波に押されながらも通時もウホウホしている。
うん・・・引くわぁ。
「五月の席はそこに座っているthe凡人の隣だ。あいつは顔は人並みだが知能も人並みだ。何かあったら教えてもらうといい」
先生がウホウホ生徒たちを横目に言う。
どうやら教師たちも認める公認凡人なんだな、俺は。
でもさ先生・・・堪忍袋の緒の耐久性も人並みですよ・・・。
人の波が二つに割れて、周りの生徒の質問ずくしに手際よく対応しながら席へ向かってくる。
そして俺の右隣の席に座ると、小声で耳打ちしてきた。
「作戦成功ですね」
出会がほくそ笑む。
「まあ、そうだな」
こんなにクラスメイトがウホウホ☆するとは思わなかったが、うまくいったみたいだ。
・・・。
にしても・・・近くね?
彼女の唇が頬に触れてしまいそうだ。
吐息が耳にかかってくすぐったい。
俺は気を紛らわすように外の景色に目を向ける。
窓からは青い空とビルが立ち並ぶ街が見える。
そして空を自由に飛ぶ飛行機の「ゴオオ」という音が鮮明に聞こえた。
『・・・・・・・・・・・???????????????????????』
「ん?」
教室がやけに静かなことに気づいた。
不思議に思い周りを見渡すと俺達のことを全生徒が見つめている。
数秒の静寂が続いたのち、その中の一人、三つ編みの子が訊いた。
「二人って・・・知り合いなの?」
このやり取りにおかしなところがあっただろうか?
生徒たちが俺と彼女を交互に何度も見比べている。
ありえねえ、とか聞こえたけど気のせいだよね。
「そういえば、朝に一緒に登校してるところ見たかも・・・」
「あー私も見た気がする」
また一人、また一人と目撃例が増えていく。
そんな中、決して大きな声でもないにもかかわらず、誰かが鮮明に聞こえる言葉を発した。
「当たり前じゃん。二人は恋人なんだし」
『・・・・・・・・・・・・・・???????????????』
「はあ!?」
俺は勢いよく席を立ち上がって、その声の持ち主の方を見る。
見慣れたイケメン眼鏡野郎。
ニコニコ笑ってピースしてるのがさらにイラつく。
「和人!お前!!」
俺が彼の名前を言うなり和人は「やっべ」といって逃げ出す。
「逃がすか!!って、え?」
追いかけようとドアまで向かうが、無数の壁に阻まれた。
おろおろ見上げると、無数の屈強な男たちの顔がある。
どれも目力がすごいのだが・・・。
笑っているがそれも相まってもっと怖い。
「コイビトッテ、ドウイウコトデスカ????」
あとのことはお察しください。
もうヤバし☆
~そこから離れた席にて~
(孝信は拷問中)
白髪の少女は緑の瞳をパチクリさせて呟いた。
「・・・どうしたのですか?孝信?」
そういって、銀色に光る髪を揺らして、首をかしげる出会であった。
時はさかのぼり、出会が目覚めた昨夜のことの話だ。
恋人といったが、その関係に近くも遠からずといったところである。
自宅の自部屋にて
目の前に現れたアルファベット。
そこには「twins」とある。
体力ゲージと同じようにぷかぷか浮いていて握ってみるが触感がない。
「新機能『twins』を取得しました」
服を着終えた出会が言う。
彼女は床に、ぽつりと座っている。
「twins?」
これの単語だけではどういう機能か把握できない。
一体どういう機能なんだ?
「データを取得中・・・?ブロック信号を多数受信。信号形式はタイプnew。解除します。ナンバーズoidデータを照合。完了。解除成功」
なんだか呪文のような言葉を唱える白髪美女って新鮮。
こういう姿もまた良い。
「twinsとは英語で双子をさします。『よく似た二人』という意味が近いのでしょうか。私たちは今日から体力ゲージは共有され、身体能力も同等となる、とあります」
何処かとやり取りをして情報を得たのか、出会も初めて知ったような口調で話す。
・・・やり取り?
ふと、その『何処か』が分かれば、俺がサイボーグになった理由だってわかるんじゃないか?と、思ったが前のように口外できる情報に規制がかかっているのだろうか。
人にそっくりな出会だが、その核となるものは独自で動くAIだ。
そのAIだって『何処か』にいる人達がプログラミングしたと推測できる。
となれば規制だって細部まで設定してあるよな。
「じゃあ、まだ真相は知れないか・・・」
俺は深いため息をつく。
「孝信。聞いているのですか?」
目の前の少女は膨れ顔をして顔を覗き込んでくる。
緑色の瞳をゆらゆらさせて俺を見つめる。
俺はこのまま見ると心臓が飛び出してしまいそうなので視線を逸らした。
ここだけ見ても人間と何も変わらないんだよな・・・。
かのぞが熱心に説明している姿を見つめる。
康太を操ったシステムアナウンサーとは、声音も表情も何から何まで違う。
彼女がAIということも信じられなくなってくる。
はあ・・・やっぱりわかんねえ。
俺は、また小さなため息をついた。
「そうです!学校に行きましょう!」
「はああ!?」
話適当に受け流してたら、何でそうなった!?
「お前は何を言ってるんだ?」
「あなたはサイボーグで前みたいに襲われるかもしれないのに、システムアナウンサーがいない状態で対処できますか?」
「ぐっ」
痛いところついてきたな。
「それに、HPは共有なんですよ。もしあなたが1人、敵と遭遇してあなたの情に流されやすい弱点が原因で私も知らぬ間に死んでいた、なんてお断りです」
「ぐぬぬぬぬ」
痛いところぶっ刺してきたな。
しかし、出会の言っていることも一理ある。
HPは共有なんだ。
自分がダメージを受ければ、出会も同じダメージを受ける。
ということは、もし俺が敵に殺されたときに、出会も道連れになってしまう。
体力ゲージが共有化されることは一人に二人分のHPが付与される反面、片方が死ねばもう片方も死ぬ、いわば運命共同体である。
「そして、あの時のように・・・失わないように」
?
なんか呟いたような気がしたが、気のせいだろうか。
「いやでも、学校に行くってどうするんだ?今更受験なんて受けれないぞ」
それにしても、受験はとっくの昔に終わっている。
途中入学なんて基本出来ないはずだが・・・。
何でこの子は得意げに笑っているんだ?
「私は世の中の情報と技術の集大成、全知全能なるAIですよ?ハッキングくらい簡単です」
「いやいや、ハッキングつったって、できるわけないだろ」
「いいえ。できます。だからあなたにはあることを頼みたいんです」
「いやだ。校長室に忍び込んでデータとってきたり、お前がハッキングしてる間の門番なんてお断りだ」
「いえ、そんなんじゃなく。あなたはただじっとしててください」
「期待されてないことに対する寂寥感がすごい!」
「ということで、ハッキング大作戦の開始です!」
かくかくしかじか、そんな感じで今に至る。
ちなみに俺はあの後寝た。
だから実質何にもしてない。
気付いたら出会は生徒になっていた。
俺は彼女がどういうことをして入学したのかは知る由もなかった。
~だから校長はおバカさん編~
校長室のパソコンに一通のメールが届いていた。
差出人はアメリカ合衆国大統領。
そして、メールには「素晴らしい合同学院に私の娘を特別に入れてほしい」と書いてある。
ありきたりで、いたずらメールかと思いつつも、「FBI」やら「大統領権限」などいろいろと書かれていて即破り捨てるにも捨てずらい。
それに加え、この申し出を本物だと鵜呑みにしちゃうおバカさんが一人。
合同学院の校長先生である。
低身長、うすら剥げ、いつも微笑んでいて何処か愛嬌のある容姿はjk達から絶大な人気を誇る。
そんな校長は集会の挨拶や校門の挨拶などたくさんの仕事をこなすが、事務系等の仕事は一切しない。
いや、させてくれない。
なにせ、おバカさんだから。
うっかり最終チェックに回された資料を捨てちゃったり、jk達から圧倒的なフォローを受ける校長のツイッターで、生徒の成績の詳細が書いてある紙と一緒に自撮りして「仕事終わった。ナウ」なんてツイートしたり。
これだけ聞くとただのクソ野郎だと思うかもしれない。
だが、失敗した後にはしっかり反省して、ノートに「通知表と一緒にツイートしない。」なんて午後9時くらいの校長室で書いているのを考えると決して悪気はないのだろう。
このように校長はやる気はあってもおバカである。
だから、校長の仕事は教頭先生が代わりにやっている。
彼はそれを悪いと思いつつ、何か恩返しできぬかと探していた丁度その時。
「ピロン」
絶対にならないはずのパソコンが音をあげる。
もし転送ミスで校長のパソコンに届いたら、速やかに教頭に教えることになっているのだが、ここで校長の善意が働く。
彼は周りに誰もいない確認したのち、メールを開いた。
そして、そこにあったのは「アメリカ大統領」の文字。
「アメリカ大統領の娘が来てくれれば、この学校も知名度が上がるはず・・・教頭先生喜んでくれるかな?ふふ」
こうして、罪なき善意でカーソルを動かしたのだった。