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12話 化け物風情

岩本病院。

それは私立ながらも全世界に支部を展開する大病院。

ちなみに俺と奏はここで生まれた。

そして幼馴染の里奈も同じ年に岩本病院で出産されている。


家からはそう遠くなく徒歩15分ぐらいで行くことができる。

そこへ向かうまでの道は日々発展し続ける都市部とは裏腹に住宅が立ち並び馴染みやすい風景が広がっていた。

昼休み中のサラリーマンや若者が意気揚々と歩く道を風を切るように走り抜ける。

そよ風によって木の葉がこすれる音、時々通る車の走行音、通り過ぎる人の息遣いまでが鮮明に聞こえる。


待ってろよ。


数年ぶりに飼い主と再会した忠犬のように坂を駆けあがる。

白い大きな建物が徐々に見えてくる。

岩本病院は間違いなくこの住宅街には場違いである。

なぜなら東京ドーム3個分の敷地を所有しているから、すなわちバカでかいのだ。


「もう少し!」


俺は最後の力を振り絞って走り出した。



一般病棟のある病室に入る。

向かって右側の2床目のカーテンを開けた。


「よう通時」


「はーい♡・・・て、なんだ。たかのぶか」


悪かったな俺で。


「きれいなナースちゃんが来てくれたと思ったのだが・・・解せぬ」


よし帰るか。

生きていることだけ確認できれば良かったし。

俺は回れ右をして出ていこうとする。


「まっ待て!お主には巨乳も輝くばかりの笑顔も持ち合わせていないが!たかのぶには彼女と違って・・・えー・・・んー・・。お主のいいところってなんだ?」


「知るか!」


「あっ、すべてが平均的で特に劣るところもないところだ!」


「裏を返せば特にとびぬけた良いところがないって事な」


こいつ、、、ぶん殴りてえ。

入院の期間伸ばしたろか、この野郎。


「まあ、それにしても元気でよかった」


ベットの周りを見渡すと、たくさんのラノベとゲームが散らかっている。

生活には支障がないようだな。


「なあ、通時。その紙袋は何だ?」


俺は通時の枕の隣にあるしゃれた紙袋を指差す。


「ああこれか。これは西洋の珍味、白煙をまといし超吸収円盤、その上に赤き彗星が着陸したいわゆる夢の城である」


翻訳・これは西洋の珍味、ホイップクリームのついたスポンジ、その上にイチゴがのったショートケーキである。


紙袋をまじまじと見ると高級ケーキ屋さんのロゴがついていた。

「む、お主にはちょっとだけならやらんこともないが、遠慮してほしい気持ちもかすかにあるが・・・ぐぬぬ。たかのぶ・・・いるか?」


「いらねーよ。でもそれ結構高い奴だと思うんだけど、親からもらったのか?」


だとしたらめちゃくちゃうらやましい。

俺が中学の時に入院した時なんて、初日に真新しい参考書を20冊ほど渡してそれっきり見舞いに来てくれなかったからな。

おい、俺は高宮家の長男だぞ!次期当主だぞ。

今のうちにいいことしてくれれば、いくらかあなたたちの老後の生活を裕福なものにしてやろうと考えているのだが・・・解せぬ。


「これは、沢村とか言う老人が持ってきてくれたのだ。後ろには可愛い容姿端麗な美女も連れてな。毎日来てくれるらしいのだ。フフフ明日はあの美女の名前を聞こうと思っていたところだ」


沢村って沢村警部補のことか?通時が手を出そうとしているのはともかく容姿端麗な美女って、紫苑刑事のことだよな。

まさかあの人たちが毎日けが人の見舞いに来だなんて・・・。

昨日俺をうまくはぐらかしてどっか行っちゃった時と比べたら態度が大違いじゃねーか。

・・・解せぬ。


「あ、そういえば。あのおじさんから事件の事情聴取もされたな。我々は背中から突然がれきに潰されたからそのことを話したら、満足げに帰っていったな」


ああそうか。被害者までもが爆破事件と知らされているのか。

恐らく康太は巧みに生徒たちの背後から攻撃したのだろう。

確かに倒れていた彼らに駆け寄った時に全員傷が背中にできていた気がする。

それを爆破によってできたがれきにぶつかったと解釈しているのか。


「でもこの様子だと傷は大丈夫なようだな」


「そうでもないぞ。正直痛いのだ。うん、痛い。発狂しそうなくらい痛い。だがせっかく入院するという理由で学校を休めるのだ。しかも宿題はないのだぞ!この機会を楽しまずしてなんとする!」


「はは、とんだゲス野郎だな」


そういって俺たちは笑った。

それから会話がとても弾んだ。

そしてある程度会話したのち俺は美月先輩のところへ向かった。




「美月先輩。後輩の高宮孝信です。お見舞いに来ました」


俺は彼女がいるはずのカーテンのかかったベットに向かって言った。


・・・。


数秒経っても返事はない。

いないのかな?


俺はカーテンの中を覗こうとする。


いや、待て待て待て待て。

相手は女子高生だぞ。

年齢=彼女いない歴+妹だけが俺の推し歴<片思い>、の俺だぞ!

おい、自分を客観的に見ろ。

俺は今女子のベットを防衛する最後のカーテンを掴んでいる。

これはいかなることか!

もしかしたらこれは罠。

それとも「待ってたよ♥私の英雄様!」なんてあったり!ムフフ

ああ、どうしたものか。と唸っているとカーテンの奥から小さな声が聞こえた。


「ん~。まだねむいでしゅ~」


「ん?」


俺は不思議に思い、あっけなく中を覗いた。


「あー。そーゆーパターンね」


枕の上でセピア色の髪が揺らぐ。

ベットの上で寝言を言いながら美少女がスヤスヤ寝ていた。


「なんだ。勘違いした俺が馬鹿だった・・・」


俺は幼げな寝顔をじっと見つめて微笑んだ。

ん?これってチャンスじゃね?!と一瞬頭をよぎったが、俺は無視スルーする。


「無事でよかった」


俺はそう言って病室を後にした。



康太は一般病棟とは別の病棟に入っているらしい。

俺は案内板を見ながら、やっとの思いで彼の病室がある廊下に着いた。

彼の部屋は個室になっている。

何でも親が金持ちだとかで特別に変えてもらったらしい。


俺は長い廊下を部屋の番号を確認しながら歩く。

恐らくあの病室なんだろうけど・・・。

ドアの前に数人の医者と太り気味の40代後半のおじさんが談話している。

俺は話に夢中になっている人たちの近くに行くと、コホンと咳払いをした。


「おや、君は?」


小太りのおじさんが不思議そうな顔をする。


「康太さんの後輩の高宮孝信です。お見舞いに来ました」


「おお、そうか。私は康太の父だ。見舞いに来てくれてありがとう。康太はこの中にいるよ」


そういって、ドアまでの道を開ける。


「分かりました。教えて下さりありがとうございます」


病室の中に入った。


「・・・わお」


中は広くて、ホテルのスイートルームかと思うほどしゃれた部屋だった。

まず壁にモナリザ掛かってるもん。

寝ながらモナリザ鑑賞できる部屋とか、ルーブル美術館の需要減っちゃいますよ。


流石御曹司だなぁ。


俺は部屋の真ん中に設置されているベットに近付く。

そこに寝ていた、康太はピクリともせずに、まるで死んでいるかのようだった。


死んでんじゃね?


サイボーグにはチート級の治癒機能があるから、、、そんなことはないと思うが。

康太の顔をじっと見つめる。


「事件の中心地にいて、なぜか怪我もせずに、疲労で眠っているそうだ。全く笑える話だね」


後ろから太い声がして振り向くと、康太の父が笑いながら話していた。


「妻もこれには驚いてね。拍子抜けして、絶対に見舞いに行ってやらない、と一点張りでね。困ったものだよ」


お母さんひでー。

機関銃に打たれた息子に、顔も合せやしないなんて。

母の強情なところが息子も似たんだろうな。


「とにかく無事で安心しました。疲労だったらすぐに退院できますね」


「ああ、医者もそういっていたよ」


彼は微笑む。

息子を大切に思っているんだろうな。

もし康太がこの事件の中心だと知ったらどんな顔をしただろうか。

こういう意味では、沢村警部補がとった手段は間違っていないようにも思える。


「そういえば、随分とお医者さん方と仲がよろしいように見えましたが」


かなり楽しそうに談話をしていた。

他人から見てもかなり仲がよさそうに見えた。

1度2度会ったぐらいでは、コミュニケーションの神でない限り、あのように深い関係は築けないだろう。


「昔からの友達でね。この病院で康太が生まれた時からの仲なんだよ」


康太も岩本病院で生まれたのか。

じゃあ、その医者たちは出産のときの担当医だったのだろうか。


『ブルルルル』


康太の父の携帯電話が鳴る。


「ちょっとすまない」


彼は電話に出る。

何やら重要な話のようだ。

さっきのニコニコした表情とは裏腹に、今度は真顔で話している。


「うん。、、、、うん。わかった。すぐ向かう」


携帯電話をポケットにしまうなり、申し訳なさそうな顔をして言ってくる。


「見舞いにわざわざ来てもらってすまないが、大事な仕事が入ってしまってね。私はもう行くよ」


「そうですか。俺も、もう少ししたら帰ることにします」


「そうか。康太をこれからも頼む。では」


そういって彼は急ぎ足で退出してしまう。

この部屋には俺と昏睡状態の康太だけ。

さっきまで話していたからか、やけにこの部屋が静かに感じる。

俺はぐっすり眠っている康太を眺める。


「ん?」


康太の顔の下、薄っすら日焼けした首。

その首には小さなペンダントが巻かれていた。

俺はそれを手を取り見つめた。

ペンダントは蓋がついていて、中に何か入っているらしい。

康太に気づかれないようにペンダントの蓋を開けた。


「・・・これは」


中には、目つきの悪い子供とその横に立つきれいな女性、後ろにはさっきまでいた、おじさんが立った姿が映っている写真が入っていた。

恐らく小さい頃に取った家族写真だろう。

ずっと首に巻いて、大事にとっていたのか。


俺はペンダントを置き、康太の左手をそっと手に取った。

指にできた数字の痣を見つめる。


「こんなものがなければ、ただの変態クソ野郎先輩のままだったのにな・・・」


こんなものが出来なければ、悪魔になんかならなくて済んだのに。


窓から白い太陽の光が差し込む。

ほのかに伝わる温かさが、俺達を包み込む。


「?」


光に照らされて布団に隠れた腕の奥がちらっと見えた。

なんだ?

傷のようなものが見えた気がしたのだが・・・。

まだ治癒しきっていなかったのか?

俺は不思議に思い康太にかかった布団をめくった。


「ッ!?」


そこに見えたのは痛々しい痣と数百にも及ぶ切り傷が着いた腕だった。

もう片方の腕や足にものすごい数の切り傷が出来ている。

俺は上半身の寝巻をへそが見えるところまでまくった。


「なんだよこれ?」


そこには体を切り開いた跡がついていた。

それもまだ新しいもので切り口を繋いだ医療用の糸が初々しい。


これは康太の父や医者は知っているのか?

父曰く医者は怪我が一つもなかったと言っていた。

つまり少なくても彼は知らないはずだ。

嘘をついたということも考えられるが、あの気さくな人に限ってそれはないだろう。

まず隠す理由がない。


だとしたら、これは康太を検査した医者かこの事件に乗じて体をいじった、事件の関係者の仕業の可能性が高い。

やっぱり、搬送されたときは瀕死状態で応急処置でも取ったのだろうか?

しかし、康太は腐ってもサイボーグ。

瀕死状態なんて豊富なHPと治癒能力がある限りほぼないだろう。

それに加え、あの鎧のような硬度を誇る肌を一般的なメスで彼の体を切り開くことはできないはずだ。


俺は康太の痛々しい傷を見つめる。

真っ赤な、かさぶたに成りかけの血が、不気味に傷口にこびりついている。


「つまり、サイボーグの存在を知っていて、メスもそれ用に作った・・・」



脳裏をある人物がよぎった。

そして気付いたらドアに向かって走っていた。


絶対に許せない。

何処だ?どこにいる!?


俺はドアを勢いよく開けて飛び出した。

廊下に大きな音が響く。


「久しぶりだな少年。ていっても一日ぶりか」


「・・・」


声がした方を向くと、白い髪を後ろにまとめた、背の高い老人が腕を組んで、壁に寄りかかっていた。

彼の後ろには容姿端麗な女性、紫苑刑事が静かに立っていた。


「お取込み中のようだったから、外で待っていたんだ。もう用は済んだのか?少年」


「用があるのはお前だ沢村!!てめえ許さねぇ!!」


喉が枯れんばかりの大きな声を張り上げる。


「おいおい、なんだよこえーな」


俺は沢村の胸倉をつかもうとする。


「手出しはさせません」


後ろにいた紫苑刑事がスッと俺と沢村の間に入り込む。


「おいおい、俺なんか庇わなくてもいいんだぜ紫苑。こんな小僧一人で守られてたら警部補の名が泣くぜ?」


そういって、紫苑をどかして、再び沢村が出てくる。

近くから見ると俺よりも20センチは身長が高いし、体格もいい。

とてつもない威圧感を感じる。


「康太に何かしただろ!おい!?」


「ああ、した。・・・って言ってお前は、そのうるさい口を閉じるのか?」


「何をしたんだ!そもそも何であんなことをした!?」


「ちょっと体の構造を観させてもらっただけさ。おかげでサイボーグの情報をわんさか得ることができたぜ」


イラつく。

怒りがこみあげてくる。

俺は彼の目を睨みつけていった。


「本人の許可はとったのかよ?」


「瞳が真っ赤になってるぜ少年。情報によると怒っているときにその色になんだよな?合ってるか?」


「あいつも人間なんだぞ!それくらいわかるだろ」


「・・・・・・・・・・・・・・・・ニンゲン、だと???」


急に体中に鳥肌が立つ。


・・・なんだ?これ


沢村の目がまともに見れない。

なんだ?


怯えているのか?

本能的に今、沢村を怖がっている。


沢村はゴミを見るような目で言った。


「人を平気で窓の外に投げ飛ばす奴が、、、、人間だと?あいつも、お前も。・・・笑わせんな。化け物風情が」


そういって俺の横を通り越して病室のドアを開ける。

そして部屋に入る際に彼は言った。


「安心しろ、死ぬわけじゃない。それに少年がチクったところで、いくらでも、もみ消せるぞ」


途切れ途切れに、光り続ける蛍光灯がじりじりと音を立てる。


「化け物・・・風情」


俺はそこから動けずにただ立っていた。

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