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10話 帰宅

 俺は自室のベットに寝転がっていた。

何度も家用の電話の着信音が鳴っているが出ようとは思わない。

デジタル時計は午後11時を示していた。


「早いな。いろいろあったしな」


俺は天井を眺めて深いため息をついた。

これまで何があったか簡単に説明しよう。


俺は沢村警部補と屋上で出会ったのち、彼らに連れられ下の階に下った。

そして事件の発端場所となった図書室廊下に向う。

廊下には救急救命士やたくさんの関係者であふれていた。

後から聞いた話だが、俺と康太に屋上に移動した直後に和人が現場に到着し救急車を呼んだようだ。

そのおかげで通時たちは一命を取り留めたそう。


あとで和人にはお礼を言わなきゃな。


そして沢村警部補は関係者たちにこの事件のことを説明するのだが、そのとき驚くべきことを彼は言った。


「これはテロの仕業の可能性が一番高いと考えられます。壁や屋上に仕掛けられた爆弾が爆発した模様です。しかしそれは小規模なもので壁や床が地割れや砕け散ることはありましたが建物は崩れないでしょう」と。


何言ってんだ?

こいつ。

これはサイボーグの仕業で、目撃者もいる。


後でそのことを彼に話したのだが、「この件は一切口外するな」と一言言ってどこかへ行ってしまった。

その後、俺も病院に連れられ大きな怪我はなかったのでそのまま帰宅し、今に至る。


部屋のテレビで今日の一件が報道されていたのを見たが、テロ爆破事件として扱われていた。

そして一人死亡者が出ていた。

恐らく窓の外に投げられたあの人だろう。


他には、俺が校舎の壁に押し付けられて屋上に向かっていたところや、機関銃搭載のヘリコプターを目撃した人が何人かいたようでその時の動画がネットで出回っていた。

それに対し警察側は関与していないと断固否定している。

「一切そんなことは知りません」と言わんばかりの平然とした顔で。


俺は明日から3日間学校が臨時休校になり、4日後から登校することになっている。

明日から「学生大好き休日」だというのに休む気になれない。

そもそも事件を起こした張本人と言っていい俺は、何かをしなくてはいけないと思うほどである。

だが、その「何か」が分からないのでひたすらウズウズして寝転がっている始末である。


「出会。俺の選択はどこかで誤っていたのかな・・・」


返事はない。

俺は続けて言う。


「ずっと、頭に浮かぶんだ。あの教員が落ちていくときの顔を・・・。・・・俺の・・・せいで・・」


俺はうずくまる。

知らないうちに涙が頬をつたっていた。

必死に目に力を入れて堪えるが止まらない。

いつしか、うめき声を出して泣いていた。


 俺はサイボーグだとうすうす思い始めてから少し期待していたんだ。

平凡な日々から、テレビで見るヒーローのように心躍る日々に変わることを。

いつもなら美月先輩を助けようなんて死んでも思えなかった。


でも・・手を出してしまった。


通時達を怪我させたのも俺のせいでもある。

泣いても何も変わらないのに抑えれない。

どんどん過去の後悔や自分への怒りがこみあげてくる。


「俺は・・屋上に行っても・・・わずかに思っていた。ヒーローには犠牲が必要だと・・・。だからあの時は死んだ人のことなんて犠牲としか考えていなかった。・・・俺は最低だ。何がヒーロだ。・・・何が銃の効かないサイボーグだ!!」


それから、喉が枯れるまで叫んだ。

目から血が出そうなほどに泣いた。


苦しみ、苦しみ、苦しみ。


ドアで何かが倒れ掛かるような音がしたがそんなのは気にも留めない。


今だけは今だけは、、、、、、、誰も来ないで。


ああ、こんなことが前にもあったな。

あれはいつのことだろうか。

滝野を抱きかかえて走った雨の日。


ああ、前にもこんなことがあったな。


過去の自分を死ぬほど恨んだのことが。







~奏からの視点~






今日の事件のことを知ったのは、放課後。

駅で友達と遊んでいた時である。

駅のモニターでテロ事件が起こったと報道していて、もしかしたらと嫌な予感がした。

私は友達に一言も理を入れずに家に向かって走っていた。

一心不乱に。


どうか無事で、、、、と願いながら。


いつもなら兄はとっくに帰宅している時間だ。

家に着くと玄関には鍵がかかっていた。

まだ帰っていないみたい。


家の中で傷が後から痛んで倒れていないかと心配していたので安心した。

だがそれと同時にもっと大きな不安が襲う。

帰っていないってことは搬送されたのかも・・・。


とても心配になって兄の同級生に確認をとる。

サッカー部のグランドは校舎から離れているし無事なはずだ。


慌ててサッカー部マネージャーの高橋季楽に電話する。

電話が繋がると彼女の挨拶の声よりも先に問う。


「兄は無事ですか!?」


返事はすぐには来ない。

言うべきか言わないべきか迷っているようであった。


「・・・・ええっと。落ち着いて聞いてね。孝信君は放課後、爆破された同じ階に向かったって友達が言ってたの。それで、私もみんなに聞いて回ったんだど・・・まだ事件後に孝信君を見たも人はいなかったの」


「・・・。」


私は膝から崩れ落ちた。

携帯から季楽さんの声がしたがこの際どうでもいい。

私は玄関でしばらく固まっていた。

太陽は傾き始め暗くなりつつある。

鳥の鳴き声がよく聞こえる。


『ブルルルル』


携帯が震える。

電話が掛かってきたようだ。

私はゆっくりと応答する。


電話は里奈さんからだった。


「もしもし奏ちゃん?」


いつもこの人は優しい声をしている。

なんだかこの声を聞くと安心する。


「・・・こんにちは。里奈さん」


私は素っ気なく答えた。

この雰囲気から何か感じ取ったのか里奈さんは私を言い聞かせるようにゆっくり話してくる。


「奏ちゃんは今どこにいるの?」


「・・・家の玄関の前です」


「そっか。・・・じゃあ、とりあえずお家に入ろっか。孝信君は必ず帰ってくるよ!」


里奈さんは兄の幼馴染だ。

心配なのは彼女も同じだろう。

だがこうやって励ましてくれている。


「そう・・・ですよね」


それに比べ私はというと、玄関で何もできずに座り込んでいる。

そんな自分が何より悔しくて情けなくて。


私もしっかりしないと!


お兄ちゃんに「お帰り」って言えるように。


「ありがとうございます。おかげで元気が出ました」


お礼を言って少し会話をした後電話を切る。

私は頬を何度か叩いた。


「よしっ」


気持ちを入れ替えて家のドアを開けた。


家に入ってからは友達と季楽さんに謝罪の電話を入れたり宿題をやったりしていたが、そんな中でもずっとそわそわしていた。

勉強してもスマホをいじっていても全く頭に物事が入ってこない。

時刻はもう9時を回っている。



『ガチャ』


玄関のドアが開いた音がした。

私は素早く玄関に向かう。


「お帰り!!お兄ーちゃん!!!」


兄が帰ってきた時のために練習していた「にっこりスマイルお帰り大作戦」が無事に成功した。

そして肝心な効き目だけど・・・

兄の顔を見上げる。


「奏。・・・ただいま」


そこには疲れ果てて今にも死にそうな顔をしたお兄ちゃんの顔があった。

それでも兄は笑って言った。


「心配かけてごめんな。俺は無傷だったよ」


「・・・」


なんだ!!!

無駄な心配しちゃったじゃん!

もうびっくりさせないでよね!!!


安心して私はいつも通り、妹ジョークでからかってやろうと思った。


「ご飯にする?お風呂にする?それとも、わ・た・し???」


この妹ジョークも大成功!!

普段なら速攻で私を選ぶはずだけど・・・。


「いや、今は部屋にいることにするよ」


そういって、さっさとミシミシ音をあげながら階段を上がっていってしまう。


ノリわる!!!

こんなに心配させといて、それはないでしょ!!!

少々腹が立って私も階段を上がって兄の手を掴んだ。


「風呂ぐらい入ったら!?」


少し驚いた顔をして兄は振り向く。


「あ、ああそうだな。悪い」


「わかればいいのよ!!って・・・・・・それ。」


私が指摘するとハッとして兄は上着からはみ出していたワイシャツをしまった。

見えたのは、ボロボロになって血が所々ついていたワイシャツ。


「やっぱり!怪我してるんでしょ!?」


やっぱりあんなことがあって無事なわけがない!

その言葉に対し兄はバツが悪そうな顔をして言った。


「いや、本当に無傷なんだ。だから・・・もう部屋に行っていいだろ」


部屋に向かって歩き出す。

私は掴んだ手を離さまいとぎゅっと掴んで言う。


「私は心配しているの!こんな遅くに帰ってきて・・・。無傷だって言われても・・・あの頃みたいに倒れてしまわないか・・・私は心配なの」


この言葉に兄は少しは動揺したものの。


「・・・ごめん」


一言そういって私の手を振り払った。

その時の力は、今までのお兄ちゃんでは考えられないほど強いものだった。

気付いた時には兄は部屋に入ってしまう。

私は一人二階の廊下で立ち尽くす。


「・・・お兄ちゃん」


こうして、今夜は兄が部屋から出てくることはなかった。




11時頃、兄はまだ夕飯をとっていないことを思い出し、おにぎりを握って部屋の前に置きに行くことにした。

味付けは好物のツナにしておいた。

階段を一段一段上って兄の部屋に向かう。

ドアの前に立って何か一言声をかけようとしたとき・・・


『俺の・・・せいで・・・』


部屋の中からうめきにも嘆きにも聞こえる兄の声がした。

私は少し固まる。


「・・・お兄ちゃん」


私はドアに背中をつけてゆっくり倒れこんだ。

顔を天井に向けて思いにふける。


ああ、いつかこんなことがあったっけ・・・

雨の日、兄が今日みたいな作り笑顔をして部屋に籠ったことが・・・

その時もこんな風に泣け叫んでいた。

私は少しだけ微笑む。


「まったく・・・困ったお兄ちゃんだなぁ・・・」


本当に弱虫で強がりで一人で突っ走って玉砕して、何かあれば隠れて泣いている。


「・・・泣き声聞こえてるっつーの」


いつか消えてしまいそうで、いつか突然いなくなってしまいそうで・・・

本当に心配だ。


ああ、いつかこんなことがあったっけ・・・


こんなにも兄を哀れだと思ったことが。

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