9話 決戦 後編
避けて避けて避けまくる。
体力的にも限界に近付いている。
息を切らしながらカウンターのチャンスをうかがう。
『ブオン』
重い空気を切る音が目の前で聞こえる。
回し蹴りを繰り出してくる。
俺はスロウを駆使してギリギリ回避していく。
だが相手もサイボーグを使いこなすシステムアナウンサー。
ど素人相手にひるむはずもなく、5発中1発は当たってしまう。
HPの減少量は3程度。
その3が何度も重り続けかなりのダメージ量となっていた。
俺は避けながら我がシステムアナウンサーに話しかける。
「お前もこいつみたいに俺を操作できないのか?・・・よっと!」
(彼は特別であって、孝信は絶体絶命の時にしか入れ替われません)
「じゃあ!俺が絶体絶命の状況に陥ればいいんだな?」
(ええ。しかし体に負荷がかかり一か月は寝込むことになりますが)
「・・・よっと!それじゃあダメじゃねえか!」
俺は辛うじてよけながら話を続ける。
だがそれも続かず。
「ぐへぇ!」
俺は相手のパンチが腹に直撃して吹っ飛ぶ。
とっさに受け身をとった。
あぶねえ!
勢いが強いあまりに屋上を通り過ぎて落下するところだった。
そんな心配をするのもつかの間。
視線を前に向けた時には、固有機能「浮遊」を使って一直線に突っ込んできていた。
速い!
体の形を視認できないほどに加速している。
いくらなんでもこれは避けられない。
かといってこのまま突進されるわけにもいかない。
俺は頭をフル回転させて打開策を考える。
・・・そうだ。
「なあ。システムって自由に使えるんだよな」
(ええ。1つしかありませんけども)
「ああ、それで十分だ」
もう目の前にあいつの体がある。
このままだと2秒もしないうちに俺は吹っ飛ぶ。
なら、、、、、
「正当防衛システム!作動!」
そう。
体の操作を代われないのなら、無理にでも代わらせればいい。
(システムコード2298107657679。システムを作動します)
俺の体はとっさに動く。
まずは全身を無理に捻じ曲げって、相手が来ると思われる軌道の下にまわる。
予測通りに康太は俺の真上をかすめる。
これを逃さない。
足に力を込めて思いっきり振り上げる。
『ガギイイン!!!』
眩しい赤い火花が散る。
花火のように火花が儚く消えたころには、体をくの字にして康太は真上に吹っ飛んでいた。
これでもだいぶダメージが入ったみたいだが、まだ終わらない。
(落下地点を予測。・・・完了)
上を見上げると康太が絶頂を折り返して、落下してくるようだった。
俺の体は素早く走り出す。
目の赤い光が残像となって動く。
体が止まったと思えば、目の前に落ちてきた青年が一人。
拳を握り振り上げる。
地面に体が着くまでせいぜい2秒。
彼は変わらず体勢を崩したままである。
『シュウウウ』
口から蒸気が吹き出る。
それと同時に腕にものすごい力が込められる。
康太が背中から着地するまで残り1秒。
彼にかかる重力とともに拳を光の速さで振り下ろした。
なんとか踏ん張るが、体全体が彼に持っていかれそうになる。
ドドドドオオオオオオン!!!
ものすごい衝撃音が響き、ヘリポートにでかい蜘蛛の巣のような地割れができる。
康太を中心として砕け散ったコンクリートがあたりに散る。
まるで爆弾が落ちたような激しい光景だ。
このままだと破片に自分も当たってしまう。
安全なところに飛んで離れる。
(システム解除)
この声が聞こえるなり、全身にとてつもない痛みが広がる。
「ッ!!」
痛みで声も出ずに俺は倒れこんだ。
口から大量の血が出てくる。
拳も骨が砕けたような痛みに襲われて地面にうずくまる。
意識が遠のいていくが必死に保つ。
な、なんだこれ?
これが負荷ってやつか?
康太がいるあたりを中心としてあたりに砂ぼこりが舞っている。
そのせいで彼の様子を確認できない。
ど、どうだ!?
しばらくして視界が姿を取り戻す。
街に並ぶビル。
ほんのり赤い空。
空に広がる長い飛行機雲。
そして、、、
ヘリポートの真ん中に立つ青年。
「・・・えっ?」
俺はもう戦えない。
だが彼は所々けがは見えるが落ち着いた表情で俺を見据えている。
嘘だろ・・・。
俺は・・・。
死ぬのか・・・?
体中に鳥肌が立つ。
寒さのせいかそれとも違う何かか。
次第に震えだす。
「瞳が青くなりましたね」
何?
訳の分からないことを言う康太を見る。
瞳が・・・青い・・・?
「知りませんか?サイボーグとは瞳に感情のすべてが出るのです」
「感情?・・すべて?」
上半身を起こした状態を維持しながら問う。
夕暮れの光を背後に彼の姿が影で黒くなる。
「私たちを創り出した人間。マスターはすべてが勝るサイボーグに一つだけ弱点をつけた。人間のマスターが私たちに対抗できるように」
今聞こえるのは冷たい声と風の音と車の走行音だけ。
それに夕日も相まって神秘的な光景だ。
「目に色で感情を表す。その気持ちが強ければ強いほど色が濃くなる。そして、その濃さによってマスターは攻撃の軌道も考えている事もすべてお見通しなのです」
いつの間にか彼の瞳は黒色に戻っていた。
もう目の前にいるのはシステムアナウンサーではなく佐々木康太。
「興奮は赤。哀れみは紫。愛情は桜色などがあります。そして・・・」
そういって彼は頭をコクリと上げた。
夕日の影で表情はうかがえない。
ただ明らかに声のトーンが大きくなっている。
「そして・・・恐怖は」
体に寒気が走る。
怖い。
怖い。
怖い。
「青だ。」
不意に彼の目が赤色に光りだした。
不気味かつ眩しい赤色に。
俺に向かって走り出す。
とてつもない殺気が感じられる。
死ぬ。
俺はここで・・・
もう目の前までやってきている。
表情は近くに来るとよく見えた。
__彼は笑っていた。
「死ね」
俺の頭上に拳が振り下ろされる。
・・・短い・・・人生だった。
『ボオオオオン』
頭に当たる寸前でどこからか重く低い音が響いた。
『ダダダダダダダッ!!!!』
はじけるような大きな音と共にあたりに赤い残像がいくつも見える。
コロコロコロと金属なようなものがいくつも落下している。
顔のすぐ横をかすめる赤い何かはものすごい熱を帯びていた。
状況を理解できずに呆然とする。
目の前にいる佐々木康太の体には無数の風穴が開いてそこから夕陽が差し込んでいた。
康太の血が体に散る。
しばらくすると雨のように降り注ぐ残像は消え、それと伴って目の前のサイボーグが倒れた。
「えっ?」
目の前にあったのは誰が想像しただろうか。
黒い鉄を身にまとったヘリコプターだ。
その横には機関銃らしきものが見える。
次第に高度を下げて、バキバキになったヘリポートに着陸した。
床に転がる薬包と一緒に火薬の匂いが立ち込める。
そんな中ヘリの扉が開いた。
中から出てきたのは黒ずくめの集団。
俺は思わず息をのむ。
「沢村さん・・・紫苑刑事」
「よう少年」
プロペラの風に服をなびかせて、老人は言った。