0話 あの日の自分へ
廃墟と化したモスクワにて。
銃声が、曇った空に高く響いていた。
地面は白銀の雪に埋もれていて、歩くと少し足が沈む。
外装が剥げコンクリートがむき出しになっているビルが立ち並び、そのビル群の中には、今にも崩れてしまいそうな建物もかなりあった。
何年も足を踏み入れていないみたいで、このエリア全体が廃れている。
そんな街の、広場のようなところで2人の人、いや、人のような何かが争っている。
1人は転びながらも必死に逃げ、もう1人はそれを逃がさまいと追いかけている。
「アタックシステム。起動」
(了解しました。製造No1。アタックシステム起動)
追っている者が呟く。
すると、腕全体にパズルのピースを模ったような、規則的な亀裂が生まれていく。
「やっぱり、痛いな」
血しぶきをあげながら、亀裂に沿って、腕を形成する肉片が飛び出る。
その姿は、ジュースのパッケージで見かける、マンゴーを四角に切り分けた形と似ているかもしれない。
切り離された肉片のブロックは腕銃を忙しく動き回り、ひっくり返ったり、回転したりして、ブロック達は新しい位置に埋め込まれながら、だんだんの腕の面影がなくなっていく。
ガガガガガと、歯車が回るような音が絶えず響いていた。
ついでに、背中も同様、変形していく。
変形が終わると、鋼でできた銀色の腕に姿を変え、背中からは何処から現れたのか、大きな翼が生えていた。
その翼には羽はついておらず、代わりに細長い筒が無数にぶら下がっていた
まるでシャンデリアのような変わった、翼が大きく広げられる。
それによって生まれた風が周りの雪をかき乱した。
その雪が再び地面に舞い降りる頃、ぶら下がった筒から白い炎が噴き出される。
処女雪を一気に溶かしていく。
彼はジャンプするなり徐々に浮かんでいき、終いには体と地面が平行になって勢いよく進んでいく。
おかしな翼の正体━それはジェットエンジン。
光の速さのごとく飛んでいくその姿はまるでミサイルである。
(相手は正当防衛システムを起動中。腕をガトリング法に変形をしています。警戒してください。攻撃を予測・・・3秒後に発砲してきます)
「どうすればいい?」
(弾道を予測します。、、、完了。右、左、左下、右、左下の順に避けて下さい)
「りょーかい。右、左、左下、右、左下」
華麗に相手から放たれる弾丸を避けていく。
赤い無数の残像が、すれすれに通り抜ける。
そして気付けば相手と1mも距離はない。
(アタックシステム。エネルギーチャージ完了)
俺はそれを聞くなり、銀色に輝く左手を突き出す。
右手は狙いがずれないように、左手をしっかり押さえる。
それと同時に瞳が真っ赤に変色した。
「今楽にしてやる。エネルギバースト!!!」
目から発せられる赤い光と共に、左手からものすごい熱を帯びた波動が放たれる。
『ドドドドオオオオオン!!!』
大きな爆発をあげて標的は一瞬で粉々となった。
空には大きなきのこ雲が浮かぶ。
周りに小さなプラズマが飛び交う。
瓦礫が吹き飛び、複数のビルが反動でくずれた。
爆風のせいで雪とビルの破片が舞う。
そんな中、どこからが声がした。
「No1。お見事です」
「孝信でいいですよ」
煙の中から静かに現れた女兵士が褒めてくる。
「・・・これで1324体目・・・か」
「No1。あちらでも自我のないサイボーグが暴れています。向かいましょう」
銃声のする方を見て女兵士は言う。
「・・・先に行っててください」
覇気のない声で孝信は答えた。
「わかりました。ですが、トドメは貴方がさすようにお願いします」
、、、、、、、、、、、、、、
「ええ。分かりました。なにせ俺は、この世で数人しかいない、サイボーグを殺せるサイボーグだからですよね」
俺は世界に必要とされている。
光栄なことなのに。
それを拒む俺がいる。
「なぜ泣いているのですか」
「えっ?」
頬を拭うと、手に水滴がついた。
何でだろう。
(感情パラメータは異常ありません。理由は不明です)
どうしたんだろう?俺。
「私はあちらに加勢してきます。では、また」
そういって女兵士は行ってしまう。
「なんでこうなったんだろう」
あの時、道を間違えないように進んだはずなのに。
もしもあの時に違う道へ進んだら、こんな未来にはならなかったのだろうか。
空を見げると灰色の雲が静かに流れている。
聞こえるのは銃声と鳥の甲高い声。
雲の合間から陽が差した。
空から降り注ぐ光の柱が俺を刺す。
なんとも心地よい。
しばらくここにいても大丈夫だろう。
俺は、今に至るまでの自分を思い出すことにした。
そして、そのときの瞳は青とも桜色ともいえぬ淡い色に染まっていた。
どうも皆さん。
読んでくれてありがとうございます!
とっても嬉しいです。
次話もぜひ読んでね!!
では私は寝ます。
また会いましょう!!
夢の中で会えるかもだけど。