わたしと、
そして、始まりません。
プロローグ: 1
「あなたは橋の下で拾われた子なのよ、って台詞だけど、捉え方によってはロマンチックになると思わない?」
と、若干不謹慎なことを朝から聞かれた。
「分からないでもないけど、どうせ拾われるなら竹の中とか空から降ってきたとかの方が私はいいかなぁ……もしかして私、橋の下で拾われた子?」
「違うわ。そうだったら良かったんだけど、あなたは竜宮城から拾われてきたのよ」
「私、玉手箱的な存在だったんだ……」
まったく、実の母との会話だとは思えない。ため息をついてソファに沈み込むと、テレビでは高校球児が汗を流している最中だった。あ、ホームランだ。
どうやら今ので勝敗が決したらしい。
サヨナラホームランを打ったバッターが、笑顔で誇らしげに走る。打たれたピッチャーがマウンドに膝をついて泣く。終わりだけ見ると、なんというか負けた方を応援したくなる。もう負けてるんだけど。
テレビの中の球場にサイレンが響き、なんだかもう、夏も終わりかなという気分になる。
カレンダーは8月6日で止まっているが、確か今はそれから1週間ほど経っていたと思う。
「おかーさん、今日って何日だっけ?」
と、隣で同じようにソファに沈み込む母に一応聞いてみる。
「んー……8月6日ね」
と、カレンダーを見て答える母。聞いた私が間違っていたよ。そう思って横を見ると、母はぼんやりした目で
「なんだかスポーツって、終わりだけ見ると負けた方を応援したくなるわよねぇ…なんでかしら」
と言った。応援も何も、もう負けてるじゃん。と返すと、それもそうね。と母が呟く。
テレビでは高校球児達が試合終了の礼をして、グラウンドからベンチに戻るところだった。
今日はたしか、8月の13日か14日。お母さんが死んでから、多分、大体、一週間くらいが経っていた。