不思議なお茶会 続きます!
うふふ
おほほ
えぇ、こちらは流行りの仕立て屋のドレスで……
いえいえ、うふふ、おほほ、なお茶会ではありません。アルトリリーです。
「まぁイザベラ様、きめの細かいお肌!どんなお手入れをされていらっしゃるの?」
「髪もまったく痛みがございませんね!素晴らしいですわ!」
イザベラ様の髪は今日も綺麗な金髪ドリルです。
「ところでイザベラ様、肩こりや腰痛はございませんか?」
「泥パックという美容法があるのですが、イザベラ様はご存知ですか?」
ティアさんや、ティアさんや、自重という言葉を知っておるかの?
思わずそんなことを口走りたくなります。
ティアの暑苦しい勢いにイザベラ様が引いています。それに普通の公爵令嬢なら肩こり・腰痛なんてないですよ。
え?私ですか?最近はないですね。以前といってもかなり前ですが、庭の雑草を遊びで抜いていたら翌日腰が痛くなりました。そのくらいです。今は筋肉トレーニングのおかげか草抜きをしても痛くなることは無いです。
「え?温泉を見たことも入ったこともない?それは人生の半分は損をしておりますわよ!」
「いえいえ、貸切の温泉もございますので、一人で入ることもできるのです!」
「温泉の後に飲む冷たいミルクは格別ですのよ!」
えーと、ティアさんの温泉自慢が止まりません。アンストッパブルです。
そういえば、イザベラ様はなぜこのお茶会に私達を招いたのでしょうか。
約束通り、今日のお茶会はイザベラ様とティアと私の3人です。
紅茶を用意させると、メイドさん達を後はいいわ、と下げてしまいました。
その後は今、ご覧になっている通りです。
中々話し出さない様子のイザベラ様にティアが宣伝をふっかけてしまいました。
あーあ、ルチアさんも下がっちゃったしなぁ。私は手持無沙汰なのでお菓子を口に運びます。
マドレーヌ美味しいですね。
あら、これはもしかして隣国のフルーツのデザートですかね?前の夜会では結局すぐ帰りましたから食べ損ねたんですよね。
「ふぅ、私の領地の温泉の素晴らしさ、分かっていただけました?」
「え……えぇ……よく分かったわ」
イザベラ様、完全に引いてらっしゃいますね。
扇子で隠しても顔色が悪いです。その扇子、新調しましたね?
青い少し吊り上がった瞳はいつもより覇気がありません。
ティアが顔を輝かせてやっと腰を下ろすと、イザベラ様はほっと肩の力を抜きました。
今ので肩こりになったんじゃあないでしょうか。ティアは立って身を乗り出して宣伝していましたもんね。
「ティア、良かったですね。これで国王陛下とレヴィアス公爵家も認めた温泉ですわね」
さて、一応ティアの援護はしておきましょうか。今のままだと宣伝して終わりですからね。
「そうね!イザベラ様、ぜひ温泉においでください!最高級のお部屋には貸切の温泉がついていますし、王宮にも負けない調度品を揃えております!そして、そろそろ新しいイベントも企画しておりまして……」
「わ、わかったわ!お父様とお母様と日程を相談するわ!」
ティアがさらに腰を上げて説明しようとするのを見て、イザベラ様が慌てて言葉をかぶせます。
商売的には強引すぎて良くないかもしれませんが、ティア曰く、体裁なんか気にしない、良い物は良いんだ!だそうです。
「お待ちしております!では、決まりましたらお手紙ででもお知らせください。イザベラ様のために最高級のお部屋を押さえますので」
ティアの頭の中で金額がはじき出されるのが見えるようです。イザベラ様は観念したのかコクコクと頷いています。案外、押しに弱い方ですね、意外です。
「あら、温泉?そんなものワタクシには必要なくってよ、オホホホ」
って言ってそうな人なのに。
ティアは今日一番の笑顔で紅茶を飲み干しています。あれだけ喋ったら喉が渇いたでしょう。
あら、ティア、また紅茶を飲むときに小指を立てています。マナーをもう一度我が家で復習しましょうか。そんなことを思いながらフルーツを何個かティアの前に置いてあげます。
イザベラ様は疲れ切ったようにイスにもたれていらっしゃいます。没落寸前までいって立ち直った根性を舐めたらいけませんよ。
「ねぇ、ティア、イザベラ様はお疲れのようですし、お暇した方がよろしいんじゃないかしら?居心地が良くて長い時間滞在してしまいましたわ。私達もこの後予定があるものね?(マナーの復習をするわよ、ティア)」
「まぁ、気づかずに申し訳ございません、イザベラ様。顔色も悪くていらっしゃいますね。
ではお暇して、温泉の予約状況を確認させていただきますわ。(えー、マナー?なにそれおいしいの?まぁ温泉に来るって言質が取れたからもう用はないし、いいわ)」
カッコ内は目線で会話をしながら2人で立ち上がります。
予定はぶっちゃけないですが、いつまでも本題を喋らない方に時間を費やすのはもったいないですし、ティアの目的も達成できたのでもういいでしょう。
夜会では少し迷惑をかけましたが、手土産と一緒に謝罪もしたので大丈夫でしょう。
「お、お待ちになって!」
まぁそうきますよね。
本題が聞けないなら帰りますよ。さぁ招待理由を吐け!第1王子派に入れと言われたら拒否しますが。
「婚約破棄してほしいの!」
…………いや、それは無理でしょう……。
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