アルトリリーはマイペース 夜会の現場からは以上です!
「アリー、お話はできたの?」
「ティア!」
助かりました!後ろからティアが追いかけてくれたようです。
「俺もいるんだけど」
あら、ベイルお兄様もいたんですね。
「お前、トイレ長すぎ」
お兄様、デリカシーの欠片もございませんね。
「あ、それよりも!中で苦しそうな声がしますの。でも勝手に部屋に入ってはと思って……」
ティアとベイルお兄様が扉に近づきます。ティアなんかは扉に耳をくっつけています。
「いや……これは……開けない方がいいんじゃないか」
「え、なぜですか?」
ベイルお兄様、なんだか顔が赤いですがどうしたのでしょう。
「いや……その……」
珍しく奥歯に何か詰まったような物言いです。
「開ければいいじゃない。手遅れだったらどうするの」
ティアが取っ手に手をかけますが、ベイルお兄様が慌てて止めます。
「いや、だから開けない方が……人の家だし」
「なんですの?お兄様。人が困っているかもしれませんのよ」
「そうよ。体調悪くて動けないのかも。あれはしんどいわ……」
ティア、目が遠くを見ています。
おそらく食べる物が無くお腹がすきすぎて動けなかった日々のことを思い出しているのでしょう。うぅ……あの頃からティアを知っていれば援助をすぐさまお父様に頼んで申し出ましたのに。
相変わらずベイルお兄様は困ったように扉の前で通せんぼをしています。
「お兄様はそんな酷い人だったんですね……」
「ち、違う……というか……これはどうやって説明すればいいんだ……」
あら、なぜかお兄様も遠くを見るような目をしています。
ティアも早く戻ってきてくださいね。仕方ないです。どなたか屋敷の使用人を呼んできましょう。
「そこで何をしている」
押し問答をしていると、威厳のある声が廊下に響きました。あら、金髪ドリル……じゃなかった、イザベラ様がいつの間にかいらっしゃってます。いつ見ても綺麗に金髪が縦ロールです。お付きのメイドさんも一緒ですね。
そして先ほど声を発したのはイザベラ様の隣の方でしょうか。不機嫌そうな黒髪のどこかの令息が眉間にシワを寄せています。いやぁ難しい顔をされていても、お人形さんみたいに綺麗なお2人ですねぇ。
「この部屋の中から呻き声が聞こえます。開けようかどうしようか迷っておりました」
ティアさん凄いです。私がほけっとしているのに、平然と答えています。
「呻き声だと?」
令息が怪訝な顔をしながら扉に近づきます。
イザベラ様は扇子で口元を隠しておいでですが、黒髪の令息に戸惑ったような視線を投げかけています。
「きゃうっ」
部屋の中から女性の悲鳴に近い声が聞こえました。ティアが驚いたようで私に抱き着きます。
令息は迷いなく扉を開けました。
ティアを抱きしめながら最初に目に入ってきたのは……ソファの上に倒れこんでいる男女。
女性が男性の下敷きにされています。
え、ドレスがまくれあがって足が見えちゃってますが、大丈夫なんでしょうか。
男性の手はドレスの中に入っています。
「あーあ、いいとこだったのに」
ソファの上からゆっくり起き上がって服を整え始めたのは、この前、足を踏まれていたプレイボーイのポール様。
鎖骨がみえちゃってます。あ、ボタン一つ掛け違ってますよ。
女性の方はえーと……ドナデウ男爵家の令嬢、えーと……たしか、名前はジョゼット様でしたっけ。
珍しく覚えているのは彼女の髪色がストロベリーブロンドなのと、ベイルお兄様によく付きまとっていたからです。ベイルお兄様は伯爵家の後継ぎですし、婚約者もいないので人気なのです。本人は継ぐのを嫌がってますが。
「はしたないですわ。シシィ、お2方がお帰りです」
イザベラ様の冷たい、凛とした声を合図に後ろに控えていたメイドが動き、どこからか追加で3人のメイドも現れ、さささっとジョゼット様?のドレスを直すとあっという間にポール様共々部屋から追い出してしまいました。
ポール様は肩をすくめながらもイザベラ様の隣を通る時に彼女の手を取ろうとして、その手を扇子で叩き落とされています。イザベラ様の腕はか細いので痛くも痒くもないでしょう。イザベラ様に叩かれて、ポール様は私とティアにウィンクを飛ばしてきました。気持ち悪いです。
「気持ち悪い」
ティアも私と同じ気持ちだったんですね、良かった。
ベイルお兄様が間に入ってくれたのでポール様をそれ以上見る必要もありませんでした。
ジョゼット様は潤んだ目でベイルお兄様を見ていましたが、黒髪の令息を見つけると頬を赤く染めています。うーん、なんだか気の多い方の様です。
「あのようなはしたない行いをするとは、我が家も舐められたものです」
おおぅ、イザベラ様、めっちゃ怒ってます。なんかピシリって音が聞こえました。あぁぁ、扇子が!
イザベラ様の高そうな扇子がポッキリ!
「ベラ、俺に話したいことがあったのだろう?」
今まで完全に存在をなかったことにしていた黒髪の令息が出てきました。
あなた、さっきまで壁際でだんまり決め込んでましたよね。
「あぁ、そうでした。アルトリリー様、ベイルート様、ティターニア様、お騒がせしました。夜会はまだ続きますので引き続きお楽しみ下さいまし。珍しい隣国のフルーツを使ったデザートを料理人たちが用意している頃かと思います」
イザベラ様は扇子を開こうとされましたが、ポッキリいってしまって開けず。
「オホホ」
笑って誤魔化しましたね。
「いえ、こちらこそお騒がせしました」
ベイルお兄様がさっと礼をして、有無を言わさず私とティアを部屋から連れ出します。
「はぁ。疲れた」
ベイルお兄様が部屋から離れると大きなため息をつきます。
「あらお兄様、お疲れですか?帰りますか?」
「誰のせいだよ」
お兄様、私を睨んでも起こってしまったことは変えられませんよ。
「大体、お前が歩き回らなければこんなことには……」
「はっ!あの方です」
「アリー??」
見つけました!さっきのポール様やらイザベラ様やら誰か知らない黒髪のことはどうでもいいのです。
「そこの方、お待ちください!」
見つけましたよ!あのメイドです!
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