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夜会の現場からは以上……いえ、続きます

さてさて、今日は夜会でございます。

いつもエスコートはお父様なのですが、本日はお仕事で忙しいので、パメラ伯母様と従兄のベイルートお兄様と参加しています。


パメラ伯母様はお母様のお姉様にあたる方ですわ。お母様の実家の伯爵家を継いでいらっしゃいます。最近では女性が爵位を継ぐことに寛容な時代になりましたものね。


「相変わらず口を開かなかったら立派な公爵令嬢だな。ほら、あいつら、お前のこと見てるぞ」


ベイルートお兄様、言いにくいのでいつもベイルお兄様と呼んでいますが、失礼なことを言っています。


この失礼なベイルお兄様ですが、私のお母様が亡くなってから、お父様とお屋敷の使用人達が失意に沈む中、私を色んな所に連れ出してくれた、意外と良い人です。

木登りや泳ぎ、剣術の基礎も教わりましたし、大抵の悪戯は一緒にやりました。伯母様のカップを割って責任のなすりつけ合いもしましたね。つまりはツーカーの仲です。


「その髪型とドレスはまたあの執事か?」


「えぇ、アベルとエイミーの仁義なき戦いの末の結晶です」


「あの二人、毎回よくやるなぁ。俺はドレスの違いなんか分からないな」


「相変わらずデリカシーがないですね。婚約者の方にそんなことは言わないでくださいませ。あ、お兄様にはまだいらっしゃいませんでしたね」


「お前こそ早く婚約者決めろよ。うわ、あいつらこっちに来る。どうする?逃げるか?」


さきほどベイルお兄様が見ていた辺りから2人の令息達がこちらに向かってくる様です。


「はい。挨拶も一通り終えましたし、私はそろそろティアを探しに行きたいです。今日来ているはずなんです」


「ティターニアか。領地の視察にくっついて行ってたのが戻ってきたのか。あ、あれじゃないか?赤いドレスの」


「まぁ、お兄様、さすがです。ティア、ごきげんよう」


赤いドレスの金髪の少女は私が近づいて声をかけると勢いよく振り返ります。ティア、持っているジュースがこぼれそうですよ。落ち着いて。


「アリー、久しぶり!!」


「領地はどうだった?」


「こっちより俄然、空気が美味しいわ。そうそう、新しいお土産を考えたの。アリーの分も持って帰ってきたからぜひ食べて。帰る時に渡すわ」


「まぁありがとう。楽しみ」


彼女は伯爵令嬢・ティターニア・ワイベリー。

私の唯一のお友達です。ティターニアという名前は悪女っぽくて嫌いなようで、ティアと呼ぶように言われています。名前の最初と最後の文字を取っただけなんて、と思いましたが、本人が言うなら良いでしょう。新鮮なので私もお揃いでアリーと呼んでもらうことにしています。


茶色の猫目を細めて楽しそうに領地の話をするティア。可愛いです。

実はワイベリー伯爵家は少し前まで借金まみれで没落寸前でした。しかし、一発あてちゃったわけですね。いやいやお金持ちの後妻におさまった訳ではありません。

掘り当てたんですよ、金脈じゃなかった、何ていうんでしたっけ、そうそう温泉を。温泉を掘り当てたのでティアのところの領地は何もない田舎から一気に観光地になりました。貴族にとって温泉は馴染みがあまりなかったのですが、腰痛や美容に良いとティアが上手に宣伝し、温泉の近くに貴族用の宿泊施設も建てたので、庶民だけでなく貴族の療養地にもなっているようです。

政務で疲れ切った国王陛下もお忍びで行かれたという噂です。


「やっぱり私は王都より田舎の領地がいいわぁ。それよりアリー、今日のドレスはいつもより大人っぽいじゃない、素敵」


「ありがとう。ベイルお兄様はちっとも褒めてくれないから嬉しいわ。ティアのドレスはどこで仕立てたの?珍しい赤ね。美しいわ。しかも温泉効果かしら、お肌が以前より白くなっているわ」


「このドレスはマダムバタフライの所で仕立ててもらったの。本当は私もアリーみたいにヨランダさんに頼みたいんだけど、今回は時間がなかったわ。次は絶対ヨランダさんのとこにする。肌が白くなっているなら嬉しいわ。夜会で温泉の宣伝をしまくらないとね。さぁ稼ぐわよ!」


ティアがお金儲けに燃えています。あら、ベイルお兄様はいつの間にかご友人達の所に行かれたんですね。






「はぁ、よくあんなに悪口言えるよねぇ。あいつら温泉に来ても出入り禁止にしようかな。没落寸前まで行った我が家をなめんなよ」


化粧室に行くために廊下に出て誰もいないのを確認したところでティアが舌打ちをします。

ティアさん、ストレス溜まってますねぇ。あいつらというのは、いきなりお金持ちになったワイベリー伯爵家をよく思わない方々ですわ。

やれ、成金だとか成り上がりだとか。金を積んで陛下に取り入ってるとか所作がなってないとか色々ヒソヒソコソコソされていました。あまり気分は良くないです。


「それから、領地から帰ってきたら婚約申込の手紙が山になってたわ。ちょっとお金持った途端これよ、勘弁してほしい」


「ティアは好きな人いないの?」


「そうねぇ、私が好きなのはお金ね!あの金貨の輝き!尊い!もちろん銀貨も銅貨も大好き!愛してる!」


答えになってませんよ、ティアさん。可愛いからいいけど。


「今のティアなら婚約者は選び放題じゃない」


ティアは可愛いですからね。顔は私よりちっちゃいですし、金色のふわふわな毛は思わず触りたくなります。私はどう頑張ってもそんなふわふわになりません。どストレートです。そしてティアの一番の魅力は悪戯っぽい茶色の猫目。お金の話をしている時が一番ギラギラ、いえ爛々と輝いています。


「ダメダメ、お金を使いこまれるだけよ!一緒にお金を稼ぐ気概のある人じゃないと」


「中々難しい条件ね。そうねー、身近で言えばうちのベイルお兄様ならお金は使いこまないと思うけど…………ん?……んん??」


「どうしたの?」


今廊下の先を歩いているメイド、どこかで見たような……。


「アリー?変なものでも食べた?」


ティア、ちょっと酷いです。


あ、孤児院からの帰りに見た!!レヴィアス公爵家のメイドさんだったんですねー、どうりで見覚えがあると思いました。


「ティア、ちょっとあの方にお話があるの。先に戻っておいてね」


あ、まずい、廊下を曲がっちゃう。見失うかも。ティアの返事を聞かずに令嬢らしくない速度で彼女を追いかけます。


「あら?」


どこか部屋に入ってしまわれたのでしょうか。追いかけていたメイドの姿は廊下にありません。


「えー、ショック……『女神の涙』の感想が……」


さらに廊下を歩いてみましたが見当たりません。人のお家なので勝手にお部屋を開けるわけにはいきませんしね。


「話が聞けないのは残念ですが。ティアのとこに戻りましょうか……」

どこの家の方かは分かったんですし、良しとしましょう。


「……っんっ……」


しょげて踵を返したところで、目の前の扉から声が聞こえてきました。あら、呻き声?どなたか調子が悪いのでしょうか?心配になりながら扉に少し近づきます。


「……あ……っだめっ……」


んー……どうやら女性の声のようですね、なんか切羽詰まってます。そんなに体調が悪いんでしょうか??


えっと、それにしてもどうしましょう、誰か呼んでこないと……


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