エイミーVSアベルの仁義なき戦いの現場からは以上です!
うーん、あのメイドは見覚えがあるのですが……。
「ふっ、そんな流行のピンクのドレスをお嬢様に着せるなど。あなたはお嬢様の専属侍女という自覚があるのですか?」
一体、どこのお家でお見かけしたのかしら。
「流行っているからではありません!このように型はアシンメトリーにしています!それにアベルさん、この前も青いドレスにしてましたよね!また青いドレスをお嬢様に着せるつもりですか!?」
「女神の涙」の感想をぜひぜひ伺いたいのだけれど。
「あなたは目がついているんですか?医者に行った方がよろしいのでは?以前選んだのはロイヤルブルーのドレスですが、こちらのお色はサファイヤブルーです。お嬢様の青い瞳と白銀の御髪により良く合う色です」
あ、でもメイドさんが読んでいるのか、それとも頼まれて買ったのか分からないわね。
「ぐ……確かに今回の色の方がお嬢様の白い肌をより引き立てそうです……でもこのお袖部分のアシンメトリーは譲れません」
あの王道本についてどう思ったかも聞きたいわぁ。あれほんとに売り上げナンバー1なのかしら。
「ほほぅ、確かに。あなたにしては良いデザインです。ボトム部分をアシンメトリーにするとお嬢様の足が出てしまいますからね。袖部分をアシンメトリーにしているドレスは初めてですね」
せっかく同志を見つけたのだから、もっと色々お話したいわ。おすすめの本も聞きたいし。
「えぇ、これで会場の視線はお嬢様に釘付けです!間違いないです!髪飾りはやはり、いつもの物が良いでしょうか!?」
「いえ、まずは髪型を決めてからにしましょう。アクセサリーとのバランスも大切ですし、新しい髪型を考えてみました。ところでお嬢様、ドレスはこちらのデザインでいかがでしょう?」
「お嬢様!お嬢様!!聞いていらっしゃいますか?次回の夜会のドレスですよ!」
あら、すっかり意識を飛ばしておりました。アルトリリーです。
そうそう、夜会の招待状が届いたんでしたね。それで今は仕立て屋を呼んでドレスのデザインを決めていると。
しかし、仕立て屋は今までの会話に一度も口を挟んでおりません。
今までの会話は私専属の侍女エイミーと執事アベルによる仁義なきドレスデザインについての戦いです。
ドレスを仕立てるとなったら毎回この仁義なき戦いが勃発します。アベルがスケッチブックを持ち出し、エイミーとギャーギャー言いながらデザインをまとめていくのです。
ちなみに仕立て屋のヨランダさんは私の隣で紅茶をずずずと啜っています。御年60歳のマダムですが、まだまだ現役です。偏屈で愛想がなく、気に入らない依頼は一刀両断されますが、この辺りでは大変有名な仕立て屋さんです。
お母さまのドレスをヨランダさんが仕立ててくださっていたご縁で、私のドレスもお願いしています。
顔を上げると、床にはスケッチブックの破り捨てられたページが散乱しています。その全てに描かれているのはドレスのデザイン。
もうアベルはデザイナーになったほうが良いのではないでしょうか。ヨランダさん、良かったら雇ってやって下さい。
「お嬢様、いかがですか?ヨランダさん、こういった型は可能でしょうか?」
アベルによって差し出されたスケッチブックには綺麗なブルーのドレスが描かれています。私はシンプルが好きなのでフリルやリボンなどの装飾は極力避けられており、片方の袖はなく肩が出ていて、もう片方は長袖になっています。
「ちょっと大人っぽすぎない?」
大人っぽくて着こなせる自信がありません。こんなに腕を出すこともありませんし。
「お嬢様、贅肉がついたら晒せないんですから、出せるうちに見せておきましょう!」
エイミーの鼻息が荒いです。アベルとの闘いで何とかワンポイント死守できたのが嬉しいのでしょう。
「相変わらず素敵なデザインですな。私も引退を考えた方が良いかもしれないですな。恥ずかしければレースを使って長袖にするという手もありますが、せっかくだから冒険されてみたらいかがですかな?」
ヨランダさんが紅茶を啜って言います。
どんなデザインでもヨランダさんが仕立ててくださると素敵なドレスになりますからね。
「じゃあ今回は冒険してみます」
「あいよ。仮縫いは明日にでもお持ちしますな」
明日とは仕事がお早い。
ヨランダさんは紅茶をずずーっと飲み干すとあっという間に姿を消しました。先ほどまで音を立てて紅茶をすする姿はお婆さんだったのに、やる気になると20歳くらい若返ってきびきびと動き出すヨランダさんです。話し方がちょっと特徴的なのは元からだそうですよ。
「お嬢様、次のドレスはピンクにしましょう!サーモンピンクなんていかがですか!?」
「ふ、エイミー、あなたは医者にかかった方が絶対に良いですよ。頭か目のどちらかがおかしいのです。お嬢様にはローズレッドです。サーモンピンクのドレスのご令嬢など履いて捨てるほど夜会にいますよ」
「きぃー!!では、ブーゲンビリアはどうですか!」
はぁ毎回ドレスを仕立てるなんて夜会、面倒ですわぁ。まぁ私は基本ほとんど何もせずにヨランダさんと紅茶を飲んでるだけですけど。
「お嬢様、学園に入学されるのですから夜会での人脈作りは大切です。気の合うお友達が見つかるかもしれませんよ?」
あら、独り言がまた漏れていた?
エイミーは真剣な顔です。そうですね、人脈作りはしておかないとですね。
「お嬢様、次の夜会では面白いことがあるかもしれませんよ?浮気とか婚約破棄とか婚約破棄とか。それにお嬢様の婚約者も決めなければ。好みの方がいらっしゃったらこのアベルにお知らせください。徹底的に、どんな小さなホコリも、見逃さない位、たたきますから」
「そうね、面白い事があるかもしれないわね」
なんだかアベルが笑顔で不穏なことを言っていて、エイミーも珍しく頷いてアベルに同意してますが……。
次の夜会は足わざと踏んじゃった令嬢・イザベラ様のお家(レヴィアス公爵家)でありますわ。同年代の方々が沢山招待されているようです。やっぱりお友達とか取り巻き作りですよねぇ。
婚約者ですか……。
あら、そういえばイザベラ様は第一王子の婚約者候補でしたわ。最有力候補だとかなんとか。
うちはお父様とお母様が大恋愛の末の結婚でしたから、お父様から婚約者は自分で探すように言われてるんですよね。
まぁ私の婚約者云々はおいといて、面白いことが起こると良いのですけれど。
読んで頂きありがとうございます!