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アベルが変です!孤児院からは以上です!

「ねぇねぇ、おうじさまはこんなにアホなの?」


「きぞくって、こんやくはきはよくするの?」


「わたし、あくやくれいじょうになりたい!!」


孤児院に来て子供達に本を読んでおります。アルトリリーです。現在モテモテでございます。


「王子様がアホなのはその本の中のお国の話よ。婚約破棄はそんなにたくさんは無いわ。女性が婚約を破棄されると次の婚約が難しくなるのよ」


エメラルドグリーンの王道本をかみ砕いて読んで聞かせると、子供たちの反応は様々。


「悪役令嬢になるのは……そうね、お野菜をよく食べて、本をたくさん読んで賢くならないといけないわ」


「えーー」


「本当よ。本の中の悪役令嬢はみんな大抵何でもできるの。お勉強もダンスもマナーも完璧よ」


「おーほっほっほってわらうだけじゃダメなの?」


「高笑いね。それは完璧な悪役令嬢がいざという時にやる必殺技よ」


「ひっさつわざ……」


「そうよ。必殺技はいざという時に使うから意味があるの」


「いざというときに……」


「えぇ、ローゼ。そうそう、刺繍は進んでいる?今度、教会のバザーで売るでしょう?刺繍を上手にできるのも悪役令嬢への第一歩よ」


「ししゅう……がんばる!りっぱなあくやくれいじょうになるから!」


5歳のローゼは茶色のふわふわの髪を揺らして刺繍道具を取りに駆け戻っていきます。いやぁ素直で可愛いわぁ。悪役令嬢になりたいと叫んだのは意外だったけど。


「お嬢様……なにを嘘八百並べたてているんですか」


「あら、アベルだって止めなかったんだから同罪よ?子供の夢を壊すのは良くないじゃない」


「まぁそうですが……」


「それに知識が増えたら分かることもあるわ。なりたいものも変わってくるし」


アベルと話していると、つんつんと誰かにつつかれます。


「あら、ジル。どうしたの?」


ジルは男の子です。確か6歳だったかな?口数の少ない大人しい子です。

おずおずと差し出された古いノート、これはどなたかに寄付していただいたものですわね。

そのノートにはアベルの似顔絵が描かれていました。


「まぁジル!すごい!私を怒っている時の冷徹なアベルそっくり!」


「れいてつ?」


「冷たく見えてかっこいいってことよ」


「お嬢様……また嘘を……」


「ねぇ、ジル。今度の教会のバザーで絵を売りましょうよ。猫とか犬とか描いて。あとはバザーに来た人に座ってもらって何か飲み物を飲んでもらいながらその人の似顔絵を描くっていうのはどうかしら?」


そうしたら飲み物代と似顔絵代のセットでお金が入るからウハウハだわ。


「うはうは?」


おっと願望が口に出ていたみたい。アベルの呆れた視線を感じるけど今は無視無視。

似顔絵なら肖像画と違って場所を取らないし、気軽で記念にいいわ。

バザーの売り上げは孤児院の運営資金にもなるんだし。


「ジルはもっと絵を描いてみたい?」


「かいてみたい」


「じゃあ院長先生にお話してみるわ。次に来たときは私の似顔絵も描いてくれる?」


ジルは頬を染めてコクコクと頷いてくれます。

よしよし。これは楽しみだわ。前年より儲けられるかも。さっそく院長をどんな手を使ってでも説得しましょう。


「お嬢様……さっきから猫かぶりが完全に剥げていますよ。言葉遣いも荒くなっておられます。独り言も駄々洩れです」


お、アベルが眼鏡をクイっとやりました。クイっと。これはこれはアベルさん、少し怒ってますね。

全く、子供達の前で怒りを出すなんて青いですわね。


「あら、アベル。あなたが私の肖像画を描いてくれるんでしょう?」


あら、不思議。アベルの怒りが引きました。いやぁ海沿いの町でも中々お目にかかれない引きっぷりですね。やはり嫉妬でしたか。6歳の少年に嫉妬などしなくて良いのに。


「もちろんでございます。お嬢様。お嬢様の肖像画を任せていただけるのは光栄の極みでございます」


どうもジルに似顔絵を描いてと言ったのが気に入らなかったようです。アベルは腐っても画家ですからね。あ、まずい。また独り言が漏れてる。


「できれば月光の下で。そうですね、庭園の薔薇の前でしたらお嬢様のその光輝く白銀の御髪がより映えると思います。あぁ、満月の夜が待ち遠しい!薔薇も早く咲け!」


おぅ……独り言は聞かれてなかったようですが……アベル、なんか恍惚とした表情ですね。しかもさりげなく花に対して無茶ぶりもしてますよね。

どうもアベルは私のこの白銀の髪に画家の創作意欲を掻き立てられるようです。以前アベルの私室に悪戯をしに入ったときに私の絵が何枚もあって、逆に驚かされました。

別に私の容姿は平凡なのですが。白銀の髪は珍しいですが、青い瞳も白い肌も普通です。パーツ毎で見たら綺麗かもしれませんが、パーツが配置された顔を見ると、印象の薄い顔ですよ。そんなに興奮しなくても。


「ドレスのお色は白がよろしいですかね……。夜だからもっと明るいお色の方が……」


アベルはまだブツブツ言ってますね。ローゼ達の刺繍を確認したら、鬼ごっこと木登りをして帰りましょうか。あまり遅くなるとお父様が心配します。




「お嬢様、見事に服を汚しましたね」


ブツブツタイムからようやくアベルが出てきたのは、私が子供達と筋肉トレーニングを終えた後でした。もう帰る時間です。いやぁ今日はよく走りました、はい。そして木の太い枝につかまって誰が一番堪えられるかの競争もしましたね。楽しかった。レオナルドに筋肉トレーニングの報告をしなくては。


「おーほっほっほっほ。ではごきげんよう。みんなバザーに向けて頑張りましょうね」


孤児院から帰るときに高笑いを披露しておきました。ローゼを筆頭に女の子達は輝く目で私を見ています。いやぁ、密かに練習しておいて良かったです。高笑いはインパクトがあるのですねぇ。

アベルの視線はこれまた限りなく冷たいですが、子供達の羨望の視線で完全に中和されましたわ。




「ん?あの女性は……」


服をしっかり叩いて砂を落とし、屋敷に帰る途中で見覚えのある女性を見かけました。

確かどこかのお家のメイドさんですね。……どこのお家だったかは忘れました。

それよりも、彼女が手に持っている本ですよ。エメラルドグリーンの表紙が見えますよ。

あの王道本で間違いないですね。あぁ!しかも、その下の本は!

私の大好きな「女神の涙」ではありませんか!あの臙脂色の表紙!あの厚さ!間違いはないはずです。

まさかのここで同志発見ですか!興奮してまいりました!


「お嬢様、どうされました?お屋敷はこちらですよ」


あら、アベルに話しかけられて目を離したら先ほどの女性を見逃してしまいました。

うーん、お茶会で会ったことがある気がするのですが。どなただったでしょうか?



お読みいただきありがとうございます!

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