ゲイリー・マクドネルによるアイザック王子とは
視点が途中で変わります。
殿下とゲイリー様は神妙な顔で帰って行った。
「お嬢様、大変お疲れ様でした」
レオナルドが紅茶を入れなおしてくれる。太い立派な腕に支えられたティーポットがとても小さく見えてしまう。
「ところで、第2王子殿下に学園で絡まれたというお話を聞いていないのですが。私がド忘れしたのでしょうか? 詳しくお聞きしても?」
げ。そういえば話すのを忘れていたんだった。レオナルドの笑顔が少し怖い。
「お嬢様。学園に通う、精神年齢の低いガキ共でも男は、みな狼なのです」
「う、うん……」
「どこで足元をすくわれるかわかりません。庭師を呼んでまいりますね。お嬢様の平穏な学園生活のために。お話はそれからでも?」
「えぇ分かったわ」
レオナルドはまた体に似合わない軽い身のこなしでサロンから出て行った。
私が学園に入る前からうちの庭師達は忙しい。情報収集とか鼠狩りとか。働かせすぎかしら?
場面は変わってカスクート公爵家を辞した馬車の中。
「ゲイリー、残念ながらまだ眼中にも入れてもらえていないようだぞ」
「殿下。お節介はやめてください。しかも先触れも出さず急に訪れるなんて……はぁ」
「彼女は公爵家を継ぐのだから休日は勉強や社交などをしているに決まっている。今日は茶会がないはずだから家にいると予測はしていた。それに先触れや手紙でも出せば他に嗅ぎつけられたときに彼女に迷惑がかかるだろう」
「もう十分迷惑をかけていると思いますが。今日も迷惑そうでしたし。それに見ましたか? あの執事の顔を」
「はい……後ろからずっと威圧されてました……怖かった……」
ゲイリーの言葉に従者のヘンリーが胃をさすりながら答える。
「この前と違う執事だったな。前に訪ねた時にいたのは玄関で見た細い男だ。今日の執事の威圧はすごかったな。カスクート公爵も有能だが、使用人も中々忠誠心のある、質の良い使用人を雇っているようだ。まぁ、彼女は面白いからな。王族相手に媚びてこないし、欲しいものは収穫量の多い野菜の種。くっ」
アイザック王子が声を出して笑うのを従者のヘンリーが驚いたように見る。
「学園での成績も優秀だし、会話をしていてもやはり頭がいいようだ。それに今までで貰って1番嬉しかったものは花冠だと? これが興味を持たずにいれるか? 幸い、ギルバートは自分より出来のいい人間を周りに置かない。なら学年2位と3位を私が囲い込んでも文句はあるまい」
少し楽しそうにしているアイザック王子を見て、ゲイリーは思い出す。
側において欲しいと願ったあの日のことだ。
「お前との議論はとても面白かった。この国をどうしたら良くできるのか、常日頃から考えているのが分かる。私の側にいてもいいが、私は王になることは望んでいない。だが第2王子が王になるくらいなら私がなる。それか第3王子が成長するまでの繋ぎであとは臣下に下ろう。どうなるかは分からん。だから将来、お前を王の側近として取り立ててやることはできないかもしれない。お前に不利益なことが多いかもしれない。それでもいいのなら、そして私と志が同じであり続けるなら、私と共にあれ」
選択授業で議論が白熱し、アイザック王子の帰りの馬車になぜか同乗してまで議論して、お互いに冷静になった後、そう言われた。それは命令のようにも聞こえた。
同性から見ても非常に整っている、どこにもケチのつけようのない美麗な容貌で、アイザック王子は口の端に皮肉そうな笑みを浮かべていた。
「アレに対抗するにはイザベラとの婚約が不可欠だ。イザベラは可哀そうだが、どのみち政略結婚をしないといけないのだから仕方がない」
仕方ないと言いながら彼の珍しい、エメラルドと同じ色をした目は悲しそうな色を讃えていたのが印象的だった。あの議論を経て、あの目を見て、アイザック王子に囚われてしまったのかもしれない。
「彼女は婚約者がまだいないはずだが、誰にも興味は無さそうだな。マラカイト侯爵家の3男とのウワサもガセだな。とりあえず眼中に入れてもらえるよう頑張れ。席も隣なんだから」
アイザック王子はからかうように言ってまた皮肉げに笑う。イイ性格をしている。
「父が勝手に姿絵を送っていただけです」
「そうか? ゲイリーも満更でもなさそうに見えたがな」
「私の事より、殿下は早く贈る花を決めてください。これまでイザベラ嬢が何も言ってこないのに甘えて不仲のウワサが出回るほど放置していたんですから。事情も説明していないんですから挽回は大変ですよ?」
「女性に定期的に贈り物や手紙が必要だなんて考えもしなかったからな。会話も重要らしい。イザベラを100%信頼しているわけではないからゲイリーに話した内容は相談しない。レヴィアス公爵は野心家だからな。あぁ、花は決めてある。タンポポはどうだ?」
「……やめてください……王宮の庭師に相談しましょう」
「そうか? 小さくて可愛いし良いと思ったんだが」
タンポポなんて王宮の庭園に生えてたか??
気の弱い従者ヘンリーも大きく首を真横に振っている。
カタログを広げて髪飾りの意見を求められた時も冷や汗が出た。直近で贈ったというブタのインク壺を見せられて卒倒しそうになった。わざと冗談で変な物を選んでいるのかと疑ったがどうも本人は真剣に選んでいるようだ。
だれか女性の扱いをアイザック王子に伝授してほしい。イザベラ嬢には激しく同情する。
タンポポは頑張って諦めさせるから。
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