孤児院への道中からは以上です!
こんにちは。
アルトリリー・カスクートです。
今日はドレスではなく大人しい茶色のワンピースを着て孤児院に向かっています。貴族の義務の一環ですわね。
私の横には5冊本を抱えたアベルが一緒です。本は孤児院に寄付します。ちなみに全部婚約破棄の本です。
えぇ、もちのろんで歩いて孤児院まで行きますよ?
人間は裏切るけれど筋肉は裏切らないって執事のレオナルドが言ってましたから。
あ、そうそう。
カスクート家にはなんと執事が3人おります。変わってますよねぇ。
ナンバー1執事がオルティス。55歳の素敵なおじさまです。
ロマンスグレーの髪をいつもオールバックにして、青い瞳に細身の体躯。おじい様の代から仕えてくれているんですよ。お父様の補佐でいつも忙しそうです。最近の口癖は「引退したい。毎日釣りをしたい」です。
ナンバー2執事がレオナルド。30歳。騎士と見紛うようながっしりした体格で、茶髪に茶目っ気たっぷりの茶色の瞳。彼は来客対応をよくしてます。来客と言っても招かれざる客の方ですね。口癖は「筋肉は裏切らない」です。趣味は筋肉をつけることですね。
最後、執事の中でも最底辺、あ、間違えた。
ナンバー3執事がアベルです。たしかぴちぴちの20歳。黒髪に青い目。ちょっと細すぎないかというほど体の線は細いです。そして執事のマストアイテムである眼鏡が光っています。
彼のお仕事は、私のお守(脱走阻止)とお茶会や夜会の企画、雑事全般です。画家という芸術家の側面を持つせいか私のドレス選びの時が一番うるさ……いえよく喋ります。色の組み合わせがどうとか。
お母様は私が2歳の時亡くなり、お父様は再婚されていないので我が家は長らく女主人不在です。
最初は執事がオルティス1人だったのですが、メイド長が過労で倒れ、オルティスも補佐で忙しく、屋敷がてんやわんやになったので、2人の執事を新しく入れたんです。
レオナルドはメイド長の相談役と、お父様の後妻になろうと押しかけてくる女性達や怪しい商人や占い師などなどの撃退をしてます。これでオルティスがお父様の補佐に専念できますし、メイド長のエイダも気軽に色々と相談できる人ができて楽になったようです。
いやぁいきなり大人数で押しかけてこられたらメイド達も怖いですからね。しかも爵位が下とはいえ貴族を無碍に扱うと後々面倒ですし。レオナルドが対応するとそのあたりはまるっと綺麗に収まります。
客の目の前でレオナルドは毎回リンゴを素手で握りつぶすんですよねぇ。厨房にはいつもリンゴが何個もストックされています。
アベルは画家だけでは食べていけないので執事になった変わり者です。
カスクート公爵邸でたま~に開催する茶会や夜会では、彼が趣向を凝らします。芸術家であるおかげかうちの夜会と茶会は評判いいんですよ。めんどくさいからあんまりしたくないんですけど。
あ、そういえばアベルは使用人の面接と教育もしてますね。採用になったらアベルの教育を受けるんですが、それはそれは厳しいらしく「アベル執事の恐怖の教育10ステップ」と使用人の中では呼ばれているそうです。
「おや、お嬢様、この本はお気に召しませんでしたか」
アベルは歩きながら1冊の本を手に取っています。
「その婚約破棄ものは王道すぎて。王子なのに証言の裏も取らずに公爵令嬢を断罪して牢に入れるなんてありえないもの」
「表紙が綺麗なだけでしたか」
やっぱり表紙だけで判断したな。
その王道本の表紙は綺麗なエメラルドグリーンです。売上ナンバー1という評判に惹かれて買ったのですがイマイチでした。婚約破棄の物語は人気なのでたくさん出版されています。
私があまりに頻繁に脱走して本を買いに行こうとするので、アベルと一緒に行くなら街に出ても良いとうことに落ち着きました。
今日も孤児院の帰りに本屋に寄りたいのですがお気に入りの本屋はお休みなので……くすん、今日は諦めます。
「『女神の涙』を超える作品はまだないですか」
「ないわねぇ」
「女神の涙」は私の大好きな本のタイトルです。もちろん婚約破棄の。婚約破棄されて国外追放になった公爵令嬢が逞しく、そして美しい。
「そんなに婚約破棄がお好きならご自分でされてみてはどうですか?」
アベルは本を元通り抱えて、ニヤリと笑います。
「だって私はまだ婚約者すらいないもの」
「婚約すればよろしいではないですか。どなたか良い方はいらっしゃらないのですか」
「そうねー。みんな同じに見えるのよね」
「お嬢様、お若いのに枯れていらっしゃいますね」
「アベルは休日にボッチだけどね」
そんな言い合いと小突き合いをしながら孤児院に到着しました。
ブックマークと評価ありがとうございます!
相変わらずノリだけですが、よろしくお願いいたします。